「その爪では、長すぎてできんじゃろ」

「俺はどうなるのだ」

「もう、知っとろう。だからおまえは、爪が伸びて、ここまで落ちた」

 鬼は男をつまみ上げた。男はなにも答えなかった。

「そんなに拒むなら、もう生まれぬよう、喰ってやろう」

 鬼は男を飲みこんだ。飲み込んだ腹を爪が刺した。腹を押さえると無数の針が尻か

らひり出された。針は深紅こきべにのような色をした鬼の血と共に飛び散ると、恐ろしい銀色の先をきらめかせた。

「つぎは、刺さらぬとええが」

 鬼は尻を押さえながらそう言った。漏れ出た針のことは、いずれ誰かの耳に入るだ

ろう。そう鬼は考えた。

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髪と爪、針と糸 赤山千尋 @T-CHIHIRO

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