男はひたすら上った。ぐいぐいと髪を引っ張りぐいぐいと休みなく上っていった。

手が焦る。焦りで余計に腕が疲れる。疲れで玉の汗がいたるところから吹き出した。

吹き出た汗をぐいと拭う。拭ったところで男は気がついた。それほどでもなかった爪

が長々と伸びていた。伸びた爪は白く、艶があった。握っている女の髪からは引きが

なくなっていた。

 爪が髪を切ってしまったらしい。男はとっさに岩壁に張り付くが、伸びた爪では長

くは持たなかった。穴を見上げたまま落ちていった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る