四
「お待ちください、私には連れ添った男がいます。その人のもとへかえりたいのです」
「その人は、あなたに、もどってほしいのですか」
「きっとそうでしょう」
「それなら、少し、待ちましょう。下を見なさい」
言われるままに女は見下ろした。下にはどこまで続いているのかわからない、岩の
壁に黒い穴があるばかりだった。
「まことならば、その髪、おろしてみなさい」
神はかなしそうに眉をひそめながら続けた。
「ただし、あきらめたなら、それまでです」
言い終わると同時に女は穴に艶のない黒髪をおろしていた。穴から男の声が聞こえ
た。女は迷わずおろし続ける。草土に膝をつきながらおろし続けた。
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