「お待ちください、私には連れ添った男がいます。その人のもとへかえりたいのです」

「その人は、あなたに、もどってほしいのですか」

「きっとそうでしょう」

「それなら、少し、待ちましょう。下を見なさい」

 言われるままに女は見下ろした。下にはどこまで続いているのかわからない、岩の

壁に黒い穴があるばかりだった。

「まことならば、その髪、おろしてみなさい」

 神はかなしそうに眉をひそめながら続けた。

「ただし、あきらめたなら、それまでです」

 言い終わると同時に女は穴に艶のない黒髪をおろしていた。穴から男の声が聞こえ

た。女は迷わずおろし続ける。草土に膝をつきながらおろし続けた。

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