目を覚ました女のまえに、白い白い神が立っていた。座ったままでは女が居られぬ

ほど美しかった。女は赤くなった。

「哀れ、ですね」

 神は声と涙と憐憫れんびんをなるべく抑えながらそう言った。

「お待ちください、私は少しも哀れではありません」

「話を聞かずとも、分かります」

 神は両手を胸に当てた。女が自分の子を失った時のように。

「お待ちください、泣かれては頭に血が上ってしまいます。そもそもなぜ私が哀れな

のです」

「わからぬから、ここに、いるのですね」

 はてと女は今更ながら思った。

「こことはどこでしょう?」

 女は黒く艶のない髪を指できながら尋ねた。

「あなたのいた、場所よりも、ずっとずっと、上の上です」

 指で女の頬をなぞりながら神はそう言った。女の赤くなった顔の熱さが白い指にぽ

ぽっと流れた。それを感じた神の白い顔から色のない涙がつつっとあふれた。

「哀れ、ですね」

「お待ちください、お願いですからかえしてください」

「かえせ、と言われたところで」

 神は顔を逸らして周りを見た。女はその目の先を追った。四つの目玉は周りを囲む、はすの池や桃の木の鮮やかな色しか映さなかった。

「もどすことなど出来はしませんよ」

 神はかなしそうにそう言った。

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