第14話男性と対決
前沢さんから連絡が入った。
おかみはスマホを見る。
「あら。思ったよりも早いようですね」
「そんなことだろうと思いましたよ。何人でおこしでしょうね」
「今のところ3台くるみたい。少なくとも大きな会場を押さえた方がいいようね」
「ですね」
おかみはぱちりと一番大きい会場を予約した。
システム上はこれで使用許可が降りる。
「3時間ほどでたりればいいのだけれど」
「そうですね」
「これで、襖をすべて閉めればなんとかなるはずね」
「ええ」
副支配人は遠い目をしている。
今から長年うまくいっていた男性たちを敵に回して勝たなくてはならない。
この旅館を失ってしまったら本当に路頭に迷うしかない。
「ほ、本当に大丈夫なんですよね」
待機している女性たちに確認をとる。
「もちろんです。我々女性を信じなくて誰を信じるというのです」
10人の女傑を呼んである。ここへ来る代表たちの妻たちだ。
「うちの人たちが何を行っても方針を覆してはいけないよ」
「この数年、廃業した旅館がどれだけあると思っているの」
「コンセプトに一時は引かれるかもしれないけれど、やるしかないと思うわ」
頼もしい言葉をくれる。
「佐藤先生もこちらに向かってくれているのでしょ。やれるだけのことはやりませんと」
「ええ。女性だからってお茶くみだけなんて馬鹿にしているわ」
おかみたちはパソコンを起動させ、プレゼンすべきファイルを開く。
さぁ、経営者を納得させるプレゼンだ!
☆☆☆
ぞろぞろと車を降りる経営陣に副支配人は聞く
「何名様でしょうか?」
「何名でもいいだろ! 会談の続きだ」
「ここは旅館でございます。ご利用される方の人数は把握しないといけません」
見知った顔にたじろぐ人々。
「じゅ、10名だ……」
「10名様、ご準備はできております。お部屋をご用意いたしましたので、どうぞ」
女性は頭を下げる。
「なんなんだ。ずいぶんと他人行儀じゃないか」
きっと同じ旅館の従業員なのだろう。
「本日はお仕事としてこちらにいますので」
「は? 仕事だって?」
「ええ。仕事ですから。プライベートなお話はご遠慮ください」
「プライベートなんてあるもんか。いいか、給料を出しているのは俺だぞ」
「言わせていただきますが、ウチの旅館の経理には話を通してあります。問題ないと経理にも行政書士の先生にも言われております」
聞いていないと口をパクパクしている最年長の男性。
「別段、秘密にしていたわけではありませんよ。仲居のみんな知っているようです。なにせ養育費がありませんので」
「――だから十分な額を渡してあるだろう」
「あんな物、小学校の備品代で全てなくなります。足りないのです。食費も……」
ここまであけすけに言われるとは思っていなかったのだろう。旦那さんの顔は真っ赤になっている。別の女性が割り込んでくる。
こちらも近くの旅館で仲居を勤めている女性だ。
「夫婦喧嘩はそこまでになさってくださいね。これからプレゼンを始めさせていただきます」
「はぁ?」
「これら怪奇のプロジェクトがどれほど地域にとって有益なものなのか、皆様にご説明いたします」
男達はフンと聞く耳を持たない。
「大体何だここは? 宴会場にしては防音設備が整っているな」
「このために改装致しましたので多少声を上げても迷惑にはなりにくいのです。それではこれをご覧ください」
いくつかの実績と試算を見せる。
「このところ収益は右肩下がり。根性で頑張るともいえない状況です。ろくでもない伝統を守っている場合ではありません」
この試算や表は前沢と各旅館のおかみが協力してくれたものだ。
「こちらをご覧ください。いったんは下がる想定ですが、その後怖いもの見たさで一時的にでも収益は上がるはずです。いま以上にサービスを提供できれば業績は上向きに転じるはずです」
すっかり乗せられた男性陣は真剣に利益が出るか思案し始めた。
「そこまで言うなら怪談話をプラスに持っていく何かがあるんだろうな」
「怖いもの見たさで、確かに一時期は上がるだろうが……。その後はどうするのか?」
「年配の方には配慮を、お子様や若い人たちには刺激を与えればいいのですわ」
無料送迎バスを循環させる。お化け屋敷的なブースを作るなどなど案は出た。
以前としてプレゼンは続いていく。
男性たちははじめ聞く態勢ではなかったが30分以上経つと、メモを取るものが出始めている。
「安全性」や「どこまで怖さを演出するか」といった議題にまでもっていく。
最年長の男性が口火を切った。
「今日はこの辺で失礼します」
合計で、3時間にも及ぶ議論もいったん終結だ。
まだまだ詰めるところもあるが、各々の旅館でできることは何か吟味するのだろう。
男性たちは口々に女性を諭した後に自分の旅館に帰っていった。
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