第8話先生の思考
ザーザーという物音で起きる。
「少し寝てしまったか」
前沢君には悪いがまだやることが残っている。
前沢君の荷物から地図を拝借している。ボールペンと蛍光ペンもだ。
「さて、これから先どうするか。あと10件は回る必要があるな」
先生は旅館の近くのホテルで聞きまわっていたのだった。
「この地域が怪奇の伝承の土地なったらどうするのか」と
ホテルも従業員もそんな迷惑な客は取り合わず、これ以上居座るなら警察を呼ぶといったところで退散していく。
「ペンションには感謝している」
どこの骨とも知らないものに一宿一飯を恵んでくれた。感謝しかない。前沢君の名刺を渡しておいたから必要があれば彼に連絡が来るはずだ。
「さて、今日は昨日のような愚行を犯してはならないな」
雪国の日常であることを忘れていた。今回はカイロに救われた。
昨日、バスで行った場所を×マークで消していく。
「今日はこの辺に行くか」
前沢君にも一言言っておかないとまた長い説教を食らってしまう。
「早く出てこないものかな。私も風呂に入りたいんだが」
昨日は手持ちの衣服がないからペンション先の主に促されても入ることができなかったのだ。
「仕方ない。もう少し念入りに計画しておくか」
私に残された時間は少ない。前沢君の懐にはそんなに金銭は残っていないはずだ。
それほど裕福なものでないことは数々の旅行先で証明されている。
「まったく、面倒なものを編集担当にしてしまったな」
荷物の中から佐藤名義のキャッシュカードを取り出す。
「前沢君のことだから遠慮はすると思うが、しばらくまだこの地方に居なくてはならないからな」
メモ帳に必要事項を書き出してみる。
連泊の延長、しばらく日中は歩き回ること、人の荷物は漁らない事。
「こんなものかね」
ガチャリと前沢君が出てくる。
「ああ、前沢君、コレよろしくね。あと私は風呂に入るから」
「先生、しっかり傷などないか確認してきてくださいね」
「まったく。心配性だな」
改めて湯を入れている時間が惜しい。
「早く湯がたまらないか」
「何をそんなに急いでいるんですか」
「こんな立派な建物が廃墟にあるのは惜しいと思ってね」
前沢君は目を白黒させている。まったく編集というものはこんなに鈍くても勤まるものかと頭が痛くなる。
「ああ、湯が沸いたようですよ」
「入ってくるから紙に書いたこと頼むよ」
「はい。お任せください」
ざっと風呂に入る。時間はないので5分ほどで清潔にならないといけないだろう。
「左肩にしもやけができているな」
できていることは分かった。前沢君には話すことはしない。そんなことをすれば即座に帰ることになってしまうだろう。
「さて、これからどうするかな」
☆☆☆
「人の荷物には触らないようにとはどの口が言っているのか」
湯から出たら指令が渡されたが、作成に使った品は前沢の荷物から取ったものがほとんどだ。
「まったく。困った方だ。常識がないのか。先生には」
鬼才には鬼才なりの方程式があるようだが、一般人には通用しない。
気が進まないが。先生のスマートフォンに手を伸ばす。
「やはり」
前沢としか登録されていない。
「きちんと表記してもらいたいものだ」
編集ボタンを押して表記変更をかける。
「担当編集者、
備考欄には何かあったら連絡することとした。
「コレで少しはましになるか」
マルを付けている地図、先生名義のキャッシュカード指示書のメモでこれから先生の行動を予測できる。
「これらを写真にとってと」
寒さに限界を感じたろうから無理に行動はしないだろうと祈りながらスマホを見る。
「丸の中には3件ほど宿泊施設があるな。まったく何を考えているのか」
今回は先生を逃すわけにはいかない。
すぐに行動できる服装で尚且つ防寒対策を万全にして先生を迎える準備をした。
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