第17話パーカーヘイル
雪のように白い頭髪に、鷹のように鋭く光る赤い瞳。見た目で言えばユウヤより歳はちょっとだけ上かそこらに見える。
フードの付いたローブの内側の服装は実に見るだけで肌寒くなるような服装だった。腹部を大きく露出し、太ももの途中までしかない短いパンツに黒いタイツ。体のラインを強調する服装だ。
ローブに隠れた細い体つきに対して背中に背負った本体よりも大きな狙撃銃は見ているだけで威圧感を与えてくる。
二人の目の前に現れたその機械人形は笑ってみせた。
「元気してた?会うのはいつぶりだっけ?…覚えてないや」
警戒するアテナを前にパーカーは微塵も警戒する様子を見せない。むしろ無防備、と言っても間違いではない。それほどに軽薄な態度が板についた機械人形だった。
「…お前もプレイヤーか」
アテナは端的に問いかける。彼女の手は既に剣の柄へと伸びている。彼女の警戒心は限りなく高いところまで来ていた。
アテナの様子を見て、ユウヤも構える。目の前の機械人形の軽薄な態度を前に違和感を感じていた。何かが裏にあると考えざるを得ないその表情にユウヤは胸のざわつきを抑えられなかった。
二人の様子とは対象的に目の前の機械人形はへらへらとしていた。
「あはは、安心して。まだ戦うつもりはないから。たまたま通りかかっただけだって」
その機械人形は襲いかかってくるわけでもなく、まるでアテナとの再会を喜んでいるようだった。
相手との距離は数メートルほど。アテナはその距離を縮めないようにジリジリと後ずさる。
話しぶりをみるに、アテナの顔見知りなのだろう。だが、彼女が再会を喜んでいる様子はない。むしろ危険視しているようだった。
ユウヤは剣を構えた状態のアテナに問いかける。
「アテナ、知り合い?」
「…奴の名はパーカーヘイル。かつて狙撃銃で何千という人間を葬ってきた機械人形だ。強さは私と同じかそれより上だ。まさかこんなところにいるとは…」
アテナの言葉にユウヤは身を震わせる。
目の前にいるパーカーヘイルという機械人形はアテナ以上の実力を持っているらしい。ユウヤはその言葉が冗談だとは思えなかった。
アテナでも勝てないとなれば、自分達の勝率は当然薄れる。そうなればここから脱出するどころかここが墓場になってしまう。それだけは避けなくては。
アテナが手にしているのは剣に対して相手は銃。分が悪いのはユウヤでも分かることだ。
「そ。私はアテナとは知り合いで…って、え?もしかして私のこと覚えてない?」
「えっと…どこかで会ってます?」
「なんで忘れてるの?…ってかなんでこの階層に?まだ上がってなかったの?」
パーカーの話しぶりを見る限り、ユウヤは以前彼女と何処かで会っていたらしい。実に無機質な質問は機械人形らしい。
当然、彼の記憶には彼女の影すら存在していない。パーカーはその事に驚いている様子だった。
「…パーカー、ユウヤは外から帰ってきて記憶喪失状態なのだ。あまり無理を強いるな」
「記憶喪失?…てか戻ってきたって何?」
機械人形とはいえ、ユウヤの今の状況は理解しにくいものだった。外から戻ってきた上に記憶喪失など、色々と情報量が多すぎる。
今のところパーカーからは戦意が感じられなかった。ユウヤも警戒はしていたが、話しているうちの彼女の表情は久しぶりに出会った旧友と話す人間のそれだった。
「いい加減にしろ。お前は何をしに来たのだ」
アテナは剣を一振りして剣先にパーカーを据える。パーカーはそれを見て両手を上げた。
「別に戦いに来たわけじゃない。ただ、いつものお散歩コースに煙が立っていたもので」
「…誤魔化すな。お前は敵の目の前にノコノコと現れるほど馬鹿じゃないだろう」
「なら、私が戦う気が無いのも分かるんじゃない?その気があったら今頃遠くからユウヤのこと撃ち抜いてると思うけど?」
パーカーの言葉でアテナは黙り込む。その場を包む空気は相手を推し量るような重さを孕んでいた。
「…ならば何をしに来たというのだ。わざわざ世間話か?」
「半分正解、かな?私のパートナーは平和主義でね。知ってるでしょ?話したがってるからついてきてほしいんだ。安心して。殺したりしないから。…なんならマルオレフ、預けてもいいけど?」
背中の狙撃銃を指してパーカーはそう言う。ユウヤの身長ほどあるその大きな狙撃銃を持ち運ぶのはアテナとはいえ苦労しそうだ。
アテナは数秒の沈黙の後に口を開く。
「…いいだろう。連れて行け」
ユウヤはアテナの返答に驚いた。
急に現れて話し合いがしたいなど、どう考えても怪しい。普通なら避けるべきだ。前の層での出来事もあってかユウヤは他のプレイヤーについていくことに不安を感じていた。
ユウヤは我慢できずにアテナに問いかける。
「…いいのアテナ?」
「あぁ。奴のパートナーが平和主義なのは事実だ。従わなければかえって不利になる。一度話し合っておくべきだ」
アテナの言葉をユウヤは信じるしかなかった。
言葉にはしていないが、アテナは緊急時の策も考えているはず。そう信じることでしかユウヤは激しく打つ鼓動を抑えられない。
「それじゃ、2名様ご案内〜」
パーカーは二人を先導して歩いていく。ユウヤとアテナはその背中を追って森へと踏み入った。
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