第3話 対処戦略

「なあ、その後ベイカーの情報は入っているか?」

 守護者タンクのガルフが盗賊シーフのタムタムに聞く。

「またっすか、今のところ信憑性のある情報はないっすよ」

「そっか~、つまらんの~」

「それより今は、未踏破の上級ダンジョンにアタックするんすから集中して下さいっすよ」

 完全に攻略されていないダンジョンは、すべて上級ダンジョンに指定され、S級かA級のパーティーでなければ潜る事が出来ない。

 そのため、早く収入源を得たい最寄りの街と冒険者ギルドは完全攻略をせっついて来るのである。

 しかもライオット姫の独断で上級ダンジョン攻略よりも、初級ダンジョンのイレギュラー調査をねじ込んだ為に、スケジュール的にも厳しい状況に陥っているS級パーティー【ロイヤルワラント】であった。

 気にしてるのはタムタムだけで、他のメンバーは完全マイペースであるが…

 だが、今回はタムタムに重要な役割が与えられていた。


「え~と、皆さん聞いて欲しいっす。極秘事項なんで近くに寄ってもらっていいっすか?」

 タムタムの真剣な表情に、メンバーも何事かと集まった。

「前回のオーガキングとの戦闘の報告には嘘があるっす」

「なんだと!」

 ガルフが吠える。

「実はライオット姫に戦闘の記憶がないのは、狂戦士化バーサーカーしているからっす」

 ライオット姫が、驚愕の表情を浮かべて黙り込んだ。

「それは本当なの?」

 回復者ヒーラーのモナが、信じられないと聞く。

「本当っす。そしてこれから話すのは、パーティーとしての対処戦略っす」

「対処出来るものなのか?」

 弓使アーチャーいのオスカーが疑念を表す。

「出来るっす!このパーティーならば出来るっすよ」

「教えて…」

 普段はあまり喋らない魔術師ウィザードのニッキーが食いぎみに来た。

「まず強敵が現れた時っすけど、姫様の言葉使いと瞳の色の変化に注意して欲しいっす」

「どんな変化だ」

「瞳の色は、青から紅くなるっす。言葉使いは段々ヒャッハー族になるっす」

「私がヒャッハーとか言うの?」

「言うっす!で、そうなったら他のメンバーは緊急避難っす。この前は扉の陰で大丈夫だったっすよ」

「何が起きるんだ?」

「衝撃波っす!全方位なんで逃げるしかないっすね」

「私がみんなを気絶させたのね」

「そうっす、でその後はオーガキングをなぶり倒してたっす」

「なぶるんだ…こわ」

狂戦士化バーサーカーは3分程しか持たないっす。3分経ったら、電池切れで姫様倒れるっす」

(ここだけは師匠しか知らない事だったっすね)

「と言うことは最初の衝撃波さえ受けなければ、3分で倒れる姫様の後方支援で対処可能って事か!」

 オスカーが、戦略を理解して要約した。


「そう言う事っす、簡単っすよね」

「なあ、これタムタムが1人で考えたのか?お前凄い奴だったんだな」

 ガルフが、尊敬の眼差しでタムタムを見てる。

「そうっすよ!ボクはやれば出来る子なんですから」

(ホントは全部、師匠に教えてもらったんすけどね~)

「私には何かできないのかしら?」

 ライオット姫が意を決して聞いた。

 タムタム以外のメンバーを、自分が気絶させてしまったのを悔やんでいる様子だ。

「姫様には、感情のコントロールをお願いしたいっす」

「どうやればいいのかしら?」

「簡単っす!感情の昂りを感じたら、『ヒャッハー族はあの人に嫌われる』と3回唱えて欲しいっす」

(これはボクのオリジナルっすよ。女心のわからない師匠にはない発想っす)

「ヒャッハー族はあの人に嫌われる。ヒャッハー族はあの人に嫌われる。ヒャッハー族はベイカーに嫌われる」

(ん!姫様、今なんつったっす?)

「まあ、いいっす。それじゃあ、これを踏まえて上級ダンジョン完全攻略に挑むっすよ」

 鬼師匠と鬼姉が手を組んだ事をまだ知らないタムタムは、S級パーティー【ロイヤルワラント】の絆を強められた事を誇りに思って、ない胸を反らすのであった。


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