第1話 王都

 なんだろう、とても落ち着かない。

 迎えの馬車って言ってたから、普通の荷馬車か幌馬車を想像していたんだけど、黒塗りの4頭立ての馬車とは思っていなかった。

 しかも護衛の騎士2人付き…御者を入れて3名と馬6頭って、運ぶのは僕1人なのに。

 街の人達は絶対、僕が何かやらかしたと思ってるに違いない。

 でも罪人を連行するのに、貴族様が乗るようなこんな馬車使わないからね…絶対冤罪だ。

 頭が混乱してきて、自分でも何やらかしたと自問自答するようになってしまった。

 今なら自信を持って言える『スイマセン僕がやりました』と…

 なんて事をつらつらと考えていたら、王都に着いてしまいましたよ。


 王都はライオット姫のホームなので、僕も知らない場所ではない。

 だからわかってしまう…この馬車、冒険者ギルド王都支部に向かってないよね。

 まあ、薄々気付いてはいたけどね…向かっている先は王宮だ。

 だって冒険者ギルドだったら、護衛に付くのは冒険者パーティーのはずだしね。

 何の紋章も着けてないからどこの所属かわからないけど、道中の所作を見ればいずれかの騎士団に所属する騎士だとわかる。

 こんな大層な迎えを寄越すのは、あの人以外考えられない。

 だとしたら、呼ばれた要件も見当がつく。

 気が重くなってきた…ギルドマスターに迷惑がかからないんだったらバックレたいところだ。

 あれ?ここまで来たら、ギルドマスターの責任じゃないんじゃね。

「よからぬ事を考えない様願います」

 ちっ、騎士の1人に馬車の外から釘を刺されてしまった…さすがに勘が鋭い。


 王宮に到着し、長かった馬車の旅も終わりを告げた。

 案内された部屋で寛いでいると、王の予定が空いたのですぐ来て欲しいと従者が告げに来た。

 王宮に強引に連れてくるなんて、ライオット姫の父親であるロデール王しかいないと思っていた。

 王の執務室に入ると、

「よく来たなベイカー…まともに扉から入って来たのはそう言えば初めてだな」

「新鮮と言えば、新鮮かも知れませんね。お久しぶりですロデール王」

「固っ苦しい!ロデールで良いロデールで」

「それではロデール、今回の呼び出しは何用で?」

 ロデール王は眼光鋭くベイカーを睨むと、

「我が愛する娘ライオットの事に決まっているだろう!会ったのか再会したのか?」

「いえ、お姿は拝見致しましたが直接会ってはおりません」

(手刀で意識を刈り取ったなんて絶対言えね~)

「なんだつまらん、恋ばなはまだなのか…恋ばなは?」

「姫様はS級パーティーでの任務がお忙しく、恋ばなのお相手探しは今のところまだかと…」

「そうじゃなくてさ~」

 ロデール王が、じたばたと悶えている。

「はい?報告にご不満が…」

「まあそれは良い。ところでまた狂戦士化バーサーカーしたと報告を受けたが、無事であろうな?」

「もちろんでございます」

「ベイカーから聞けて、一安心だ」

「確認なのですがロデール、姫様に魔王様との密約の件は説明されたのですか?」

 途端にロデール王の態度が怪しくなる。

「ん?いや~王とてしは間違った判断はしとらんがそこはほれ娘からパパさいてーとか言われちゃったら生きていけないじゃんもうそこんとこよろしく」

(やっぱ父娘だわ…都合悪くなると何言ってるかサッパリわからん)

「姫様には、まだお伝えしてないと…」

「うん」


「ロデールの父親としての悩みもわかりますが、魔王様は明らかに根に持たれています」

「魔王ってそんなにネクラだったっけか?」

「割とねちっこい性格されてます。まあ、消滅寸前まで追い込まれれば誰でも根に持ちますよね」

「やっぱ、まずい状況?」

「今回の初級ダンジョンのイレギュラーも、僕の近くで起こったとなれば、姫様が調査に来ると読んでの行為でしょう」

「オーガキングが出たと聞いたが…」

「兜と鎧を纏った魔物など魔王軍にしかおりませんし、魔王様への伝言を素直に受け取ってましたから間違いなく刺客です」

「ライオットが冒険者としてダンジョンにアタックするのは、かなり危険になったと言う事か!」

「ダンジョンは魔王様の管理下ですので…」

「む~、何か良い打開策はないかベイカー?」

「姫様に事情を話して、冒険者を辞めていただくのが最適かと…」

「却下で!」

「え~マジっすか?」

「マジで!」

「後は魔王様に直接会ってお許しいただくしか…」

「採用!」

「え~?」

「頼むわ~この通り…なんなら新しいパーティー作ってもいいぞ!金なら幾らでも出す」

「魔王様に提示できる交換条件は、どの範囲までですか?」

「ライオットの命以外ならなんでもオッケー!ベイカーに任す」

「また適当な…わかりました、やってみますね」

「お、そうだ!新しいパーティーで思い付いた。後で王国騎士団のタムリンに会ってみてくれ」

「タムリン…聞いた事がある名前です。もしかしてタムタムの姉ですか?」

「そうだ、使えるぞ」

「でも、パーティーに斥候スカウト盗賊シーフで2人は要らないでしょう?」

「タムリンは盗賊シーフジョブじゃないから問題ない。むしろお前とは、相性抜群じゃないかな」

斥候スカウトと相性抜群ですか?興味ありますね」

「だろう~だが浮気は許さんからな!」

「は?」

「まあ良い…ベイカーのおかげで、心配事が解決したから今晩からよく眠れそうだ」

(ロデール王と会うと無茶振りしかされないから、気が重くなるんだよな~賢王だとは思うよ、娘の事を除けば…)


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