斥候ベイカー2何満喫してるんすか

リトルアームサークル

プロローグ

 僕は今、冒険者ギルドに呼び出されている。

 ちょっと前に発生したダンジョンのイレギュラーも無事に解決し、元の初級ダンジョンの状態に戻ったと言うのに何なのだろう。

 僕のモットーは、目立たぬこと路端の小石の如しのはずなのに…解せぬ。

 弟子である盗賊シーフのタムタムには、今後についてのヒントを与えておいたから大丈夫だろう…タムハヨクデキタコダカラ。

 師匠である僕の事を、鬼の如く信用していないみたいだけどね。


 なんて事を考えていたら、また身体が勝手に冒険者ギルドの扉を開けていた。

 冒険初心者に説明をしている受付が、僕を見つけると上へ行けのハンドサインを送って来た。

 了解の意味で軽く手を挙げると、2階への階段を上がる。

 相変わらず、厳つい顔のギルドマスターと対面する。

 そういえば、S級パーティー【ロイヤルワラント】への説明をバックレた件ではこってりと嫌味を言われたな。

「今日呼んだのは、ウチからの依頼じゃないんだ」

「へ?」

 いかん、変な声が出てしまった。

「冒険者ギルド王都支部からの依頼で、ベイカーに王都まで来てもらいたいそうだ」

「え~!王都ですか?かなり遠いですよ」

「すでに迎えの馬車がこちらに向かっていて、今日明日には到着するそうだ」

「依頼って事は断る事は…」

「できん!絶対に逃がすなとの命令だ」

「めんどいしか勝たん」

「命令の意味わかるよな?お前にではなく俺に対してなんだぞ…もしお前がバックレれば俺が可哀想な目に合うと言う事だ」

「あら~、そういう搦め手使うんだ王都ギルドって!ズルくないですか?」

「大人しく迎えの馬車に乗って、お前が王都へ行ってくれれば何も問題ない…すべて順調、俺も幸せ」

「僕の都合は、微塵も考慮されないんですね」

「S級パーティーの前で生きた心地がしなかったのに、お前の事は一言も言わなかった俺って健気けなげだと思わんか?」

「くっ…感謝しております」

「じゃっ!そう言うことで頼んだぞベイカー」

 なんか負けた気がして、とても悔しい…


 冒険者ギルドを後にして、ねぐらにしている宿屋へと帰る。

「おっちゃ~ん、ただいま」

「おう!ベイカーかお帰り。ボアのいい肉が入ったから、今日の晩メシは期待しとけよ」

「おっちゃん、そのボア僕が仕留めたやつだし」

「お、そ~だったっけか?」

「そ~だし。あ…それでおっちゃん、王都に行く用事が出来ちゃったんで明日出るわ」

「あいよ!じゃあ、明日の朝メシと昼の弁当もボア肉振る舞っちゃうからよ」

「ありがとう、よろしくね」

「いつでも戻って来いよ!部屋開けて待ってっからな」

「満室になったのなんて、この前のクラン編成の時くらいじゃないか」

「キツいこと言ってくれるな」

 でも僕はとても感謝しているんですよ…訳ありの僕を何も聞かずに受け入れてくれた、この街の皆さんにね。

 次の日、おっちゃんの料理をしっかり堪能して弁当を受け取ると、ギルドからの使いが馬車が到着した旨を伝えに来た。

「じゃあ、行って来ます」

 帰る場所があるという事を、とても嬉しく感じながら僕は王都に向けて出発した。

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