カブト・イン・ザ・スカイ

汐留ライス

本文

「ゴミには2種類ある。燃えるゴミと、気合いで燃やすゴミだ」


 常々そう公言している元クラスメートのエンドウから、「カブトムシの幼虫を掘りに行こう」と誘われた。


「山奥の土の中から幼虫を掘り出して、ブリーダーに売りつけると儲かるんだって」


「どこで聞いたんだよそんな情報」


 こんな夜中に幼虫だって寝ているだろうに、わざわざ掘り出すこともないだろう。


「それに僕は明日も仕事なんだよ」


 追い返そうとすると、スコップを持ったまま逆ギレしてきた。


「じゃあいいよ。俺ひとりでいくから」


「おまえ免許持ってないだろ。山まで歩いて行くつもりかよ」


「そんなの気合いでカバーだよ」


 カバーできねえよ。


 やれやれしょうがない。このままだと本当に歩いて山まで行きそうで、大方その途中で職務質問されそうなので、車を出してやることにした。


「感謝しろよ」


「どうしておまえは免許取れて、俺は落ちたんだろうね」


「下駄で試験場行くからだよ」


   †


 とりあえず近場の山まで来てみたものの、どこからが私有地だかわからないし、勝手に掘っていいものやら見当がつかない。


「こっちこっち」


 エンドウは知っている場所のようにずんずん進んでいく。


「昼間に来て場所を確認しといたんだ」


「その時掘れよ」


 ていうかこいつ、人が汗水流して働いていた間にそんなことしていやがったのか。


「どうしておまえは就職できて、俺はダメだったんだろうね」


「下駄で面接行くからだよ」


 でも今は地面が土だから、下駄で歩いても音は鳴らない。夜中なので助かる。


 それから小一時間ほどの間、エンドウの示す場所を片っぱしから掘りまくったのだが、暗いせいもあってさっぱり見つからない。


「これって、そもそも夜にすることじゃないんじゃねえの」


「だっておまえ昼間は仕事があるから」


「えっ」


 わざわざ僕の帰りを待っていたとは。そういう気遣いの類は一切できないやつだと思っていたのでちょっとびっくり。


   †


 その後も空が明るくなってくるまで延々掘り続けたものの、幼虫は結局1匹も出てこなかった。数時間後には出社しなきゃいけないっていうのにヘトヘトで、それでもなぜかエンドウを責める気にはなれなかった。


「エンドウもちゃんと仕事探せよ。就職決まったらメシでもおごってやるから」


「下駄でできる仕事あるかなあ」


「下駄ありきかよ」


 家の方まで戻ってくると、明け方だってのに何やら辺りが騒がしい。車の窓を開けて、近くの人に聞いてみた。


「居眠り運転の車が、アパートに突っ込んだらしいですよ」


 さらに近づいてみると、そのアパートっていうのがまさに僕の住んでいる部屋で、南側の窓からトラックの後ろ半分だけが突き出ている。


「いつも窓際に布団を敷いて寝てるから、もしエンドウが誘ってくれなかったら、今ごろ僕は死んでたなあ」


「それって」


 ここで僕たちの声が揃った。


「危機一髪じゃん」

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