朽郷への帰省

段ボールさん

第1話 歪和感

何故この部屋に入ると、あの隅に目が行くのだ、何も無い筈のあの隅に。


僕が実家は、祖父が建てた家だ、この家には、異様な部屋‥と言うか異様な空間がある。

二階の端の部屋で、祖父の部屋だったのだか。

先日、闘病の末に亡くなった、なので祖父の使っていた部屋の扱いをどうするか、と話し合いがあり、とりあえずは、物置部屋にする事になった。

僕も定期的に、あの部屋に荷物を置いたりするのだが、あの部屋の扉側の右端には少し壁紙が剥がれ落ちて、色褪せた茜色の箇所があり、そこは元々、クローゼットがあった。

そのクローゼットは、祖父から家族全員に、"決して許可無く開けるな"と警告しており、家族全員、そのクローゼットには、気味悪くがって、誰も近づきもしようとしなかったが、祖父の葬儀後、家族で話し合い、家に置いておくのは気味が悪いので、クローゼットは近くのお寺に預けた。

お寺のお坊さんは、渋々クローゼットを預かった様子だったが、そのお坊さんは帰り際に、

僕に何か言っていたが、詳しくは覚えていない、

「‥い‥‥色‥‥ろ‥‥ぞ‥‥‥」


テテテテテテテテテン

‥‥またあのお坊さんの発言の夢か‥

あのお坊さんの言葉が引っ掛かり、月に一度は、あの日の記憶の夢を見る。

月日は流れるのは早く、気付けば、もうあれから

11年もの月日が流れた。

僕は地元の高校を卒業し、地元から離れた大学に進学し、賃貸で独り暮らしをする事にした。

独り暮らしにも慣れ、新たな環境に馴染んできた頃だった。

電話で父から祖母の訃報を告げられ、地元に帰省することになった。

大学の友達にその旨を伝え、休んでいる時の分の講義のノートを頼もうとすると、

「俺も、お前の地元行って良い?」

「え‥いや、通夜や葬式や焼香とかで、親族葬だから、来てもほぼ暇だぞ?」

「良いよ、お前の実家でくつろぐし」

などと言い出し、僕の地元についてくることに。

遠慮やモラルが無いのか、と思いながらも、結局ついてくることに。


その日の晩、夜行バスに揺られ、実家近くまで帰ってきた。

夜行バスから降りて、荷物下ろしていると

「ここが田舎か、空気うまいな」

人の地元に到着した瞬間に言うな。

「田舎って、まだ栄えてる方だ」

「これで栄えてるのか、田舎凄いな」

「まぁ確かに、佐東からすりゃ田舎なのか」

まぁ、こいつは、あの首都圏内で生まれ育っているから、田舎に見えるのか。


「幸助?」

「親父か、久しぶり」

「あっ、コースケの親父さんですか、初めまして、幸助と同じ講義受けてます、佐東壮太です」

背後から声を掛けてきたのは、親父だった。

「親父、ちゃんと偏食せずに飯食ってるか?

また、顔色悪いぞ」

「おう、心配すんな、野菜大好きだ‥というか君が佐東くんか、幸助から話に聞いてるよ、大学で友達が出来ずに困っていると、最初に話しかけてきてくれたって」

「おい、余計な事言うな、親父」

「まじですか、コースケぇ、そんな友達が出来ずに困ってたのか」

「うるせぇ」

「とりあえず、立ち話も何だし、家帰んぞ、佐東くんも、どうぞどうぞ」

「はい!コースケもコースケも」

「僕の実家ぞ?」


「ただいま」

「お邪魔します」

「おかえり、ん?お客さん?」

「あぁ、幸助の友達だ」

「へぇ、幸助がいつも、お世話になってるわ、どうぞ、あがって」

「いえいえ、そんな、よくお世話してます、お邪魔します」

など、居間に入り、他愛ない世間話をしていると

「まぁ、こんな時間だし、とりあえず二人ともそろそろ寝なさい」

「確かに、もうこんな時間ですね」

時計の針は、深夜3時を指していた。

「幸助、二階のあなたの部屋に案内してあげて」

「わかった」

「おやすみなさーい」

そう言い、二階に上がると。


「部屋が三つ?」 

佐東は、三つの部屋に興味を示している、

「あぁ、俺と弟と物置部屋だよ」

「弟くんは、外出中?」

「いや、もう既に寝てるだけだと思う」

「なるほど、物置部屋が気になるな」

「何もないぞ」

佐東は、物置部屋が気になったらしく、入る事に


「おぉ、変な壁紙貼ってら」

「元々爺ちゃんの部屋だったからな」

「爺ちゃん、青色好きなんだな」

空の景色柄の壁紙が貼られている、一部剥がれ落ちてるが。

「‥?なんだあれ‥」

どうやら、佐東は、あのタンスが置いていた、あの空間に興味を示した。

「僕も、よくわからないな、元はクローゼットが置いてあったけど」


やはり誰でもあの空間には、興味が湧くのだな。

少し不穏な空気が佇む、あの空間に。

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朽郷への帰省 段ボールさん @danbool718

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