海が僕にくれたもの

@ichiri3168

僕を変えた君色

僕には彼女がいた。

人生の中でこんなにも人を愛したことは

なかった。好きで好きでたまらなかった。

僕のごく普通な、いや普通にも至っていない

生活に色をつけてくれたのはまぎれもなく

君だった。

彼女は僕の中では特別だったし、自分が

してもらったように彼女を幸せにしてあげたかった、一生かけて君を守りたかった。

バイトが終わって1番に考えるのは君だったし

家に帰ってからの会話を考えるだけでもワクワクした。

そんな僕の彼女の名前は、海塚 鈴

名前の通り鈴のように笑顔が可愛らしく

明るい子だった。

何事も難しく考えてしまう僕の癖に対して、

簡単にアイデアを出す。

彼女を見習わなきゃいけないところは山ほどあった。







僕の名前は、山景(やまかげ)空。

今日は冬でありながら温かい日だった。

「おはよー」台所にいる鈴に向かって挨拶を1言

交わすと笑顔で「おはよっ」っと返ってくる。

あー幸せ!付き合ってもうはや3年が経とうか

しているのに付き合いたてほわほわな感じ!

最高な1日のスタートが今日も切れる。

「鈴、今日大学は?」僕がコーヒーを入れながら

訪ねてみる

「今日は、私の勉強を手伝ってくれている

教授のプレゼンを見に行ってくる」 

鈴は法学部に通って、将来は弁護士志望。

それは絶対良い弁護士になるに決まってる。

ちなみに僕は夢にしては地味だけど映画館の

スタッフになりたいという夢があった。

家族、友達、カップル色んな人の幸せの瞬間

を見られるのが映画館で働いているスタッフ

だと思ったからだ。これを、恥ずかしがりながら

彼女にいうと「空らしくて、かっこいい」

と褒めてくれた。彼女といると自信が持てる。

テーブルについて二人で朝食を食べる準備が整い

二人でいただきますを言うと鈴が口を開く。

「空は今日なんかするの?」

「うーん、僕は午前中バイトして、午後は家に

いるかなー」

「そっかー、今日昼から私友達と買い物してきても良い?」

「もちろん、帰りは何時?駅まで迎えに行こうか?」僕は訊いた。

「え〜?お願いしちゃっていいの?」

「そんな、当たり前っしょ」僕は普段使わない

少しかっこつけた口調で言ってみる。

「じゃー、8時に駅でお願いします!」

そんな会話を朝からしながら僕のほうが鈴より10分早く家をでる。

こんな僕の生活が色鮮やかになったのは3年前の ことだった。





僕は高校の教室の片隅でひっそりと生きていた。

誰かと話すわけでもなく、本を読むわけでも

ない。ただの映画好き

そんな他者がみてもなんの面白みも色もない

僕の人生を変えた人がいる。

「ねー君、次のこの君に捧げる流れ星って映画面白いと思う?」

本当にいきなりだった。

最初は僕に聞いてるのかすらわからなかった。

「どうだろ、でも星坂 紋(もん)が原作の映画

だから外れじゃないと思うけど」

「やっぱそうだよね!君に聞いて良かった

君、名前なんていうの?亅

「山景 空」

「そらっていうんだ、じゃ今日から空呼びで!」

「え、あ、うん。君の名前は?」人生で初めて

自分から名前を訊いた気がする。

「海塚 鈴、鈴でいいよ!」そんなのいきなり

言われても言える気がしない。


その日の放課後1人で靴箱に行くと、友達と

帰ったはずの鈴が立っていた。

「海塚さ、んどうして」

「あー今海塚さんって言ったでしょ!

約束が違うじゃん!」

「ごめん、でもどうして」

「空の連絡先聞くの忘れてたの!」

「それでわざわざ待ってたの?明日で

良かったじゃん」

「今日じゃなきゃだめなの」

僕は渋々スマホを取り出してQRコードを

彼女に差し出す。

血のつながった人以外で初めてラインの

友達に追加された。

「じゃー、またね」

「うん、また明日」

家は2人とも真反対だったので正門で2人

背を向けて帰った。



家に帰り、風呂からあがるとその嫌な予感が

的中した。

普段めったにこない僕の通知がなったのだ。

見ると、やはり彼女からだった。

(空も君に捧げる流れ星見に行くの?)

(うん、行こうと思ってるよ)

(友達と?)

(そんなわけないじゃん、1人だよ)

(ちょうど良かった、なら一緒に行こうよ!)

 

          

         は?

おい、待て待て待てなんだこの急すぎる展開は

(無理)

ヤバい、とっさに送ってしまった。内心は

少し嬉しかった

急いで取り消ししようと試みるも既読が

ついてしまっていた。

(ごめん)勇気をだして言ってみる。

(俺もこの映画に行きたい!)

なんの返信もない。嫌われたと思った。







次の日、

「ごめん、寝落ちしちゃってて、」

「うん、全然大丈夫」

ちょー恥ずかしたかった。

こっちだって一応相手が喜ぶのを少し想像

していたからだ。

「それより、いつ行くの?」相手から聞かれると

少し戸惑いながら

「僕は、基本いつでも空いてるよ」

「わかった!じゃあ、今週の土曜で!」

今週の土曜…って明日!

「え、明日行くの?」

「うん、いつでもいいって言ったでしょ!」

言ったけど、    「わかった、明日ね」

「ねー、鈴、理科室一緒に行こうよ!」

相手の友達がよってきて、僕と目が合う。

すかさず下を向いた。

「えー、すずって山景くんみたいな人がタイプ

なの〜?」

笑いながら応える鈴の声は聞こえなかった。

僕はただ、2人の後ろを見送るだけだった。

  





(明日、9時に街の公園ね!) 

(分かった)

  



その日、彼女は7分遅れてやってきた。

僕は、早く終わってほしい気持ちとドキドキしている鼓動

が強くなり、顔が赤くなっていくのを感じる。

「えっと、今日は11時からの映画を見たあと昼食で大丈夫?」

「いいよ!11時までなにする?」

「とりあえず、先にチケット買おっか。それから・・・」

「ねえ、私行きたいところあるかも」

「どこ?」

「ゲーセンいかない?」

「あ、いいね、いこうか!」

彼女のナイスアイデアに声がワントーン上がってしまった。

エスカレーターを登った先がゲームセンターになっている。

「ねえ!UFOキャッチャーでたくさん景品取ったほうが勝ちっていうゲームしない?」 彼女はやる気満々のようだ。さらに、彼女は

「負けた方は勝ったほうの言うことを何でもきかなければならない」

僕は、一瞬ためらった。何でもというところに引っかかったのだ。

自信はなかったが、やってみることにした。

「よし、じゃどれからやる?」

「んーっとね、あれ!」

彼女が指を指したのは動物の顔のデザインの小さなポーチだった。

どうせなら二人で同じ景品を取った方がいい。

「じゃあ、あれを先に取ったほうが勝ちね」

先行は僕だ。一発目からは恐らく取れないだろう。いや、逆に取ってしまったら

なんか嫌だ。機械の元気な音とともに、アームの行く先を見つめる。

景品をつかんだ。持ち上げる。(取れる!)まさか一発目から、

ただそんな希望も一瞬でボトンっと景品が落ちるように奥深くに行ってしまった。

そんなうまくいくはずがない。


予想通り景品は落ちていて景品獲得は程遠い。

「次私ね!」




どれほど時間が経っただろう。


景品を持ち上げてまた落ちるのかと思うと、毎回落とすであろう場所まで来ても

景品をがっちり掴んだままだった。

(きた!)

ボトンっと落ちる音とともに景品を片手に取った。

「すごい!ねーすごいよ、そら!」

今日始めて鈴の満面の笑顔を見た気がする。

「ん」

空がポーチを彼女に差し出した。

「?」

キョトンとしたかおでこちらを見た。

「これ、あげる」

最初から僕が取ったらこうするつもりだった。

「え!いいの?」

満面の笑顔を浮かべてこちらを見上げた。可愛らしかった。




それから僕らは映画を見た。ドキドキして映画に集中できなかった。

ポップコーンを食べるときに少し手があたった。びっくりして

手を引っ込めた。

「めっちゃおもしろかったくない?」興奮した様子で鈴はいった。

「うん、面白かった」

「特に最後の女の子の回想シーン泣けるわ〜」満足そうな彼女を見て

空もまた満足した。一安心。


夕食

疲れ切った僕らはカフェで夕食を済ませることにした。

ちょっと高級感のあるお店だったが値段はそこまで高くなく

デートではうってつけのカフェだ。

彼女はオムライスを食べて僕はピザを食べた。

それぞれ注文した品が届くと「めっちゃおいしそう」というなり

彼女はスマホを取り出した。

どうやら写真を取るようだ。

カシャッとフラッシュ音とともに今撮影した写真の確認を始めた。

「ねぇ、空くん写っちゃったけどストーリーにのっけていい?」

「え、やめてよ・・・」

断りの言葉をいいかけたところで口を止めた。

彼女を見ると顔を真赤にしていたからだ。

「どうしたの?」

思わず聞いてみると

「ううん、なんでもない」彼女はさらに

「顔は写ってないからいいでしょ」

「まあ、いっか」僕はうなずいた。

「よし!」満足気に楽しそうにスマホを操作する彼女に

少しながら惹かれていった。

この一日から僕の人生は君色に染まっていった。





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