第二章 主が呼び出す死者の道10
だが、今日の紀枝は彼女に恐怖心を
死ぬのだからという
「起きるの遅いわねぇ、まだパジャマのままなんて」
鼻で
その程度だったので、紀枝は
「――…っ」
声になっていなかったが、ひっと彩が音を出して息を飲んだように思えた。
この地方では珍しい
「あ、あんた。あたしの美顔クリーム使ったわね」
なんの話なのか分からず、紀枝が長い
しかし、そのツバは床に落ちて紀枝には届かなかった。
「いいわ、今日は許してあげる。あんた
おごった言い方をしてから、彼女は樹木に群がるコマドリ達のように、一人でけたたましく笑い出す。
「ふっ、ふっ、あの裏庭で、深夜に雪遊びして、気味が悪いったら」
笑い声の隙間から、
「お母さんだって。雪にしがみついて、お母さんお母さんって、おかしいったら、ハハハッ」
彩の言葉に、紀枝の
(昨日、見てたんだ!)
「おかあさーん、おかあさーんって、バッカじゃない」
彩は
「アハハハ! いい年して恥ずかしいったらないわねっ」
(せっかく、同情したのに……)
紀枝の中に、広がったばかりの同情を
しかも、それは以前のような「死んで欲しいな」という後ろ向きな呪いの感情ではなかった。
(――この女を殺したい)
一瞬、そう考えてから紀枝は己の両頬を己の両手で叩く。
――バシン!
その音は思っていたより大きく響き渡り、嗤い続けていた彩の声が止まる。
「な、なにしてるの、あんた。自分で自分を……なにしてんの……」
初めて彩が、
しかし、それは一瞬だった。
彩は紀枝の顔をまじまじと見るとクッと喉を鳴らして笑った。
「そっかぁ、狂ったんだもんね」
新しい遊びを発見したかのように、その瞳に
こういう表情をした翌日に、彩は
でも、それすら、もう関係がない。
「……着がえなきゃ。パジャマのままだもん」
紀枝は小さく次の行動を口に出してむくっと立ち上がり、台所を出て行く時、少しだけ彩の化粧確認用に掛けられている外国製の高そうな鏡に目を向ける。
叩いた頬に、真っ赤な手形がついている。
(いいや、どうせ死ぬんだから。今夜、お母さんを呼んで、お母さんに抱かれて死ぬんだから……)
それだけが、紀枝の支えだ。
残されている希望だ。
「ネェ、紀枝。あの雪の像、みっつ、気味悪いから
戸が閉まる直前の彩の一言で、紀枝の心は
(三つの……像……壊した……)
ふくらはぎに
彼女は、やっと手に入れた希望が
「なによ、紀枝……っ」
彩が、
紀枝は、それでも膝を擦りながら前へ前へと進んでいった。
「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ!」
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