ジュン・クロムエルの冒険は続く
今回の舞踏会は、英雄と王国に平安が訪れた事を讃える会という主題であった。準備期間も無く慌ただしく準備されたのだが、内容はとても濃いものであった。昨晩の舞踏会開催の挨拶から始まり七日間続くらしい。その間は、城下町の中央広場を中心に様々な催しが行われ、中央通りは文字通りお祭り一色になる。
そしてこの期間、夕方から深夜にかけての飲食が王国持ちで無料となるのだ。全ての民が一番楽しみにしている所だろう。いつもは食べる事もない高価な食事をお腹いっぱいに堪能できるからだ。
翌朝、特別室のベランダで外を眺めていた。お城の上の方にある眺望のとても良い場所だ。ハーディナルを一望する事ができる。日が登ってから小一時間だったけども城下町から流れてくる様々な音や匂いは、自由で素晴らしいと感じていた。
任務中に攻撃を受け、私は死ぬ間際まで追い込まれた。特務QI(Quantum Intelligence/量子知能)が備わっていなければ、エマージェンシーシステムが起動しなければ、一万分の一秒がズレていれば、堅牢なコンバットスーツが機能していなければ、様々な要因のほんの少しでも違っていれば、今、私はここにいて素晴らしい景色を堪能する事はできなかったんだろう。
何よりも、一人ぼっちで右も左も分からない時に、マリーナと出会えた事は幸運の何ものでもないだろう。盤石なる栄誉、伯爵位、領地、お屋敷、一切の費用を補填するお給金、この世界で必要な資材を集める為の基礎ができた。
今手持ちの資材に変わるものを研究開発できなければ、私は後何年生きられるのだろう。平常時でもマイクロ修復ユニットのエネルギーは必要になる。損傷を受けたらその量は何倍にもなってしまう。体内のマイクロ修復ユニットの活動低下や停止になったらと思うとゾッとする。
この世界で、特殊合金とか細胞活性剤とかの原料を探さなければ。発見できないとなれば、私自身が私として維持できなくなり、その結果として量子リアクターの誘爆という有ってはならない事態まで行く可能性は大きい。もしそうなるなら私自身を消さなければならないだろう。起動を停止し深海にでも身を投げるか。
ドアがノックされ、マリーナが入ってきた。
私の背後から優しく包み一緒に外を眺める。
「昨日は楽しめたかしら。」
「うん、あんなに楽しいひと時は・・・。」
「なんか浸ってるのかしら。悲しそうに見えるけど。」
「ううん、この世界に来て、マリーナと出会って。今があって・・・。」
「うん。」
「この先も、こんな日々が続くといいなと思って。」
「・・・大丈夫。この王国はあなたの故郷よ。」
「わたくしは、いつも側にいるわ。悲しくしないで。」
「あはは、ありがとうマリーナ。とても嬉しいよ。」
「色々な鉱物とかを調べて必要なものを探し出さないと。」
「ハンター組合に顔出そうかなとか。」
「この騒ぎが収まるまでは無理だよ。民衆に捕まって大変だよ。えいゆう様。」
「じゃあ、騒ぎが収まったら一緒に行ってみる。」
「もちろんよ。わたくしもカード貰って一緒に旅するんだからね。」
「王女様が旅できるの。」
「もちろんよ、王女は領地を視察しないとね。」イタズラっぽくウインクした。
ドアがノックされた。答えると四人の侍女たちが笑顔と共に入ってきた。やがて部屋の中は賑やかなひと時に満たされてゆく。
一日が過ぎるのが早い。みんなで食べたことのないご馳走を探そうとお昼過ぎに城下町に行ったら凄い騒ぎになった。危うく揉みくちゃにされる所だったわ。お祭りなので私服で護衛に当たっていた騎士達が居なかったらと思うと、チョッとブルッとしてしまう。
結局、侍女達が庶民の普段着に着替えて幾つかの料理を手に入れてくれたので、堪能はできたんだけど、凄い人だった。
王女様も侍女達も、色んな出来事を通して今では互いに親友同士の様な感じなのだけど、やはりマリーナの人となりなんだろうなあ、と大きなお風呂の中でハシャぐ皆んなの姿を見て強く感じたわ。
マリーナは「転生した新たな人生」を歩んでる。以前の悲しく苦しい人生では無い。私は「転移なのか召喚」なのかと最近考える事が多くなった。マリーナから聞いたけど、この世界のどこかに召喚を司る国があるらしい。私としては、そこの事も知りたいなあと思ってる。だって転移よりも召喚で来たって言う方がお伽話の様でいい感じじゃない。
そうそう、マリーナの古代龍との約束。古代龍からの龍言による「古なる祠」を探して最奥から宝玉を持ち帰らないといけないし。
マリーナを攫った隣国もどこなのかハッキリさせないといけないわよね。
原初の樹の「知識の泉」も気になるなあ。
取り留めもなく色んな事を考えていた。
やがて瞼が重くなり、ふかふかなベッドの中で夢の中に・・・。
ジュン・クロムエルの冒険 ClaudieSwan @swan_7
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます