ブラウエル辺境伯
賊の拠点の一室にて、3人がテーブルを挟んで向かい合って座っている。
「間者を見つけた後、城下町での隠れ家の跡を捜索したのち街道で監視をしながら待ち伏せをしていた賊の一味共を撃退しました。間者と賊の一味を尋問した所、宰相の関与が明白となり第一王女側の辺境伯様の力を落とし動けぬものとする為の画策として、領地内での犯罪を増加させ、水源の汚染や疫病を発生させるべくの動きであったと分かりました。」
「その片付けをしていた最中に姫様からの伝石が届いた次第です。」ロイドが真剣に述べた。ドアがノックされ騎士団の一人がロイドに耳打ちし出ていった。
「首人相と馬車から確認させていましたが、持ち主が判明しました。」
マリーナ姫と私が視線を交わしロイドを見つめる。
「半年ほど前に業績を上げて一代限りの男爵位を叙爵されたケルウェーヌ男爵でした。王都には既に早馬を出しておりますので一掃されるでしょう。その折にケルウェーヌが接していた隣国なる所も判明するかと考えております。」
「隣国がどこなのか分かると良いですね。」
「ロイド殿にとって、王国の宰相とはどんな方なのか教えてもらえますか。」私は真剣な目をロイドに向けた。ロイドはマリーナ姫を窺うと、マリーナは微笑んで頷いた。
「私は騎士団に入り幼い姫様を見守りながら鍛錬に邁進し近衛騎士団に入隊しました。入隊したその日に近衛隊士としての誓いを立て、団長に就任する際に騎士としての最後の誓いを公に誓約しております。それは今でもこれから先でも変わらぬ誓いであり、私の忠誠は全てマリーナ第一王女様に捧げております。」
「王女様、ジュン様、私は宰相を信じてはおりませぬ。逆に近衛隊士として宰相と第四王子の動きには最大限の警戒を持って接しております。賢王ルミナス様の側仕えの一人には私の懐刀を置いておりますが、数ヶ月前から第四王子の非公式な謁見後に賢王様の体調を崩す事が多くなっているとの報告が届いております。」ロイドは一息に話すとホッとした表情で姫様に向き合い頭を下げた。
「ロイド、良くぞ話してくれました。貴方の忠誠に心からの感謝を。」
「ははっ。勿体なきお言葉でございます。」ロイドは椅子から外れると、姫様に跪き騎士としての威厳と共に姿勢を正した。
「ロイド殿、辺境伯領地に起こっている諸問題を解決したら王城でのお掃除に参りましょうか。」
「はは。黎明のジュン様。お供させて頂きます。」ロイドは笑顔で答えた。
辺境伯のリングル城へ到着したマリーナ姫と私はブラウエル辺境伯に謁見を申し込んだ。辺境伯の好意で本日は休養に充て翌日の朝、行う事になった。
「ハーディナル王国第一王女マリーナ様、英雄であり黎明のジュン様、お越しであります。」案内係が大きな声を上げると共に、重々しい大きな扉が開いてゆく。謁見の間である。煌びやかな衣装を纏ったマリーナは神々しい位に輝き、付き従う私はいつも以上に磨かれたコンバットスーツに光学迷彩マントを落ち着いた光度で七色に変化させながら辺境伯の所へ進んでゆく。
両側に並んだリングル精鋭騎士団の真紅の装いと、その後ろに控える真っ白な法衣を纏ったリングル精鋭法術隊が荘厳さに花を添えている。
王女様は辺境伯の前で優雅に王族の挨拶を行い、私は騎士の如く跪いた。
「王女様と英雄様に忠誠の礼。」案内係が大声を響かせた。すると両側の精鋭達が一斉に右足を踏み鳴らす。ザンッと大きな振動と音が鳴り響き精鋭達が姿勢を正す。この礼により騎士として公の場での最高の挨拶を二人に贈った。
「よく参られた。王女と英雄よ。ささ英雄殿はお立ちなさい。この国では賢王様以外に頭を下げる必要が無いのが英雄よ。このブラウエルを含めてな。ハッハッハッハ。」豪快に笑った。
「ブラウエル辺境伯様、集う精鋭の皆様。最高の賛辞を賜りまた、此度の謁見をお受けくださり心より感謝いたします。」マリーナ姫が恭しく伝える。
「正式な場での無作法をご容赦ください。騎士の皆様の礼には驚きと共に感謝を申し述べます。」ジュンが恭しく伝える。
「いや、良い良い。礼儀など気にせずに申すがよい。」
「無礼とは存じますが、王国とマリーナ姫様、両者についてブラウエル辺境伯様の心うちの思いをお聞かせください。」真剣な眼差しにてブラウエルを見つめる。
「ふむ。良い眼差しである。私もここにいる精鋭達も全てお主達に忠誠を捧げておる。つまりブラウエルは、自身の持ちうる全ての物を持って二人の後見を行う事を賢王ルミナス様に親書を贈ることで宣言しておる。王国にではなく、賢王ルミナス様とマリーナ王女様と英雄ジュン様への忠誠だ。」
「ありがたきお言葉を賜り恐悦至極にございます。」ジュンが頭を下げる。
「ハーディナル王国は魔の手により危機を迎えようとしています。」マリーナ姫が説明を始めた。周囲がざわめく。
「王国宰相の陰謀により第四王子を傀儡とし、賢王に時間を掛け毒を盛り健康を害し始めました。賢王を亡き者にし、政を掌握し王国の武力を弱体化させる様々な手段を行なった後、まだ判明せぬ隣国により我が国を焦土と化すためにうごめいている事を突き止めました。」
「ここ辺境伯様ご領地内での最近重なっている。犯罪の上昇、水源の汚染、城下町での疫病の兆候など、これらは全て辺境伯様の動きを御する為に行われていると賊共を厳しく尋問した結果から情報を得ております。また、まだ判明せぬ隣国では魔獣を使役する者が動いているのではないかと、先日の魔獣族による待ち伏せを受けてから考えている所です。」
「ハーディナル王国並びに民の繁栄の為、辺境伯様のお力をお貸し頂きたく申し上げさせて頂きました。」マリーナ姫が頭を下げた。
「ううむ。お主達でそこまで掴んでおるとは、正に大義であった。我がリングル精鋭騎士団並びに精鋭法術隊を鍛え上げて来たのは、その様な野望を打ち砕く為である。それに、先程申した通り、我々はお主達に忠誠を誓っておる。安心なされるが良い。」
「リングル城内は綺麗にした。まもなく城下町も綺麗に掃除される事だろう。リングル城下町の騎士隊も法術隊も優秀だからのう。」
「二人ともここ数日は大変な経験をしておる。心身ともに癒やさねば戦に立ち向かうは難しかろう。本日は一日ゆっくり過ごし夕食には皆で飲もうではないか。」
マリーナ姫とジュンは用意されたマリーナの個室に向かった。そこで侍女達と合流し夕方までの時間をリングル城下町の散策に費やした。
「美味しかったわね。ジュンったら二つも食べて随分気に入ったのね。」マリーナが微笑みながら話した。
「王女様も赤いお菓子がお気に入りになられましたか。」ミシェルが囁いた。
「赤色はここの精鋭騎士団の色であり辺境伯領の主要な色だものね。美味しかったし香りも気に入ったわ。さすがは赤色のお菓子よね。」マリーナが答える。
「二つ食べた緑色のお菓子はチョット甘すぎだったかな、でも身体が求めたから仕方ないかも。嫌いじゃ無いけどね。」私。
「お菓子も美味しかったですけど、あのジューシーなサンドイッチは素晴らしかったと思います。」私と目が合った途端、頬を赤らめたエリー。
「わたしは、特製シチューが美味しかったわ。」ルミネ。
「でも、みんな同じものを食べてないからどれが一番美味しいのかは分かりませんよね。」キニュは不思議そうに言った。
「うふ、そうねキニュの言う通り。自分が美味しいって思ったのが一番なのよ。」マリーナは笑顔でみんなに言った。
美味しいものを堪能し久しぶりに雑事もなくゆったりと過ごした。
夕方から始まった晩餐会はブラウエル辺境伯の挨拶に始まる。マリーナ姫と私は辺境伯の両隣に席を与えられ豪華な食事とお酒が振舞われたが、二人ともアルコールの無い葡萄飲料を所望した。
辺境伯のテーブルの前に大きな演舞空間が用意されていて、そこで華やかな踊り子や曲芸師が熱烈な踊りなどを披露し周囲のテーブルの間を走り回っていた。場が落ち着くと涼やかな音色の音楽や歌が披露されてゆく。
中盤を過ぎると晩餐会用の正装甲冑を着こなした精鋭騎士団の団長ルヴィックが演舞空間で片膝を付き訓練用の刃を落とした剣を横にし両腕で差し出して、「勇者殿、是非貴殿の技を伝授して頂きたく参上致しました。リングル精鋭騎士団長ルヴィックと申す若輩者にどうか剣舞を。」
いきなり周囲から歓声が上がり場が盛り上がってしまう。この状態では断ることも出来ない。
ブラウエル辺境伯の言うには、果たし合いの様な斬り合いではなく、酒の場を盛り上げるための腕試しの様なものだと言うことだが、周囲の状況を見る限りでは違うように感じるのだが。どうやら前に出て差し出された剣を横にしたまま両手で受けなければならない様だ。
私が立ち上がると、城内は騒然とした。すかさず光学迷彩マントをコンバットスーツに収納する。するとそこでも喝采が起きた。やれやれな感じである。
テーブルを回りルヴィックの前に出て両手で差し出された剣を受け取る。割れんばかりの歓声が巻き起こり各テーブルに座っていた騎士達が演舞空間を取り囲む。呆然としていると、目の前に居たルヴィックが立ち上がり反対方向へと演舞空間一杯まで下がると外野から同じ型の剣が渡された。
「お受けくださり感謝いたします。このひと時は私にとって最良の褒美となりましょうぞ。」
〈相手の剣に波動を感知〉
『え、マジ。疑似戦闘モード』
〈セットしました〉
ルヴィックは剣を変則的な中段で構え合図を待つ。構えた剣が淡く光を帯びてくると周囲が静まり返った。私がゆっくりと剣を中段で構えると合図が出た。
ルヴィックが素早い直線的な動きで私の右側面に動きながら剣先を私の目の高さで射抜くように振り抜いた。私はその場から動かずに剣先で素早くルヴィックの剣を絡める様にして跳ね上げながら弾いた。ルヴィックが私の右側面に到達した時には剣は空中を飛んでいた。
どよめきが起きる。
ルヴィックが剣を失った事に気づき、私の側面を通り過ぎる力を回転力に変え斜め後ろから回し蹴りを放った。私はその場で飛び上がり蹴りが通り過ぎた後にルヴィックの放たれた足の内側に軽く足先を当てると、ルヴィックは回転力が倍増しそのままの形ですっ飛ばされた。わたしは笑顔のままルヴィックの姿を見ていた。
「やめっ。そこまで。」と大きな声が響いた。
私は最初に受けた様に剣を横にして両手で突き出し会釈をし号令をかけた者に渡した。城内が一気に歓声に沸いた。
ルヴィックがヨロヨロと立ち上がり、私の前で跪き「ありがたき幸せでございます。一歩もお動きにならぬとは、驚愕でございました。」と一気に述べ頭を垂れた。
「こちらこそ、ありがとうございました。」と私は答えるのが精一杯だった。
全くヤレヤレな感じである。
辺境伯の隣の席に戻ると、満面の笑みで褒め称えられた。なんでもルヴィックは城内で敵なしと言われる程の腕を持ち、法術を纏わせた剣ではどんな強い力を与えても逆に剣に纏った法術で跳ね返される程だったらしい。
その法術を纏った剣を、私が簡単に空中に絡めあげた瞬間は多くのものにとって驚異的な事だったようだ。
翌朝、マリーナ達と合流してから王都に向かうために馬車に向かおうと外扉に向かうと両脇にずらっと真紅の精鋭騎士隊と真っ白な精鋭法術隊が一糸乱れず整列していた。私たちの姿に気づくと号令が鳴り、全員右足を打ち鳴らした後、剣士は抜剣し天に掲げ斜め上でピタッと静止させた。正面にはマリーナの王族用馬車が横付けされ、その横にブラウエル辺境伯が佇んでいた。
『ああ、なんて感動的なんだろう。この世界って素敵だわ』
〈心が高鳴りますね〉
『マジ、最近のRIRIっていい感じよ』
マリーナを先頭に馬車に向かう。真ん中ほどの所まで来ると精鋭法術士たちの腕が空に伸び詠唱を始めた。私たちの周囲に空から温かい白銀の雪が降り注いで来た。
「うわ、凄い。」みんなが呟いた。心が温かくなる。
「ブラウエル辺境伯様、歓待心よりお礼申し上げます。」軽く会釈し馬車に乗り込むマリーナ。その後に侍女達が会釈しながら続いて乗り込む。
「素敵な贈り物を頂きました。この感動は忘れる事が出来ないでしょう。」私は、辺境伯に右手を差し出し握手を交わした。
「英雄であり黎明のジュン様、道中お気をつけて、姫様達をお頼み致します。リングル精鋭騎士団が王都途中までご一緒させて頂きます。」
「感謝いたします。先に王都に行きます。御息災であれ。」私が伝えると、ブラウエル辺境伯が跪き私の右手の甲に爽やかなキスをした。
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