聖なる魂の絆

 英霊の里の広い空間の中心にある煌びやかな台の中は空であり側には英霊の旗が風に舞って動いていた。


 横の控えの間に四人の侍女とジュンがいる。



 ミシェルが風の法術を使い、言の葉による情報を集めマリーナ王女の誘拐が判明した。その為、ルミネがマリーナ姫の波動を感じ取ろうと意識を集中していた時、エリーが呟いたジュンと言うワードがルミネの意識に入り偶然に私の波動を捉える事ができ、ここに集まったと言う事らしい。


 死んだと考えていたのが生き返ったのだから四人でも大変な騒ぎになった。と言っても抱きつかれたり泣かれたり慈愛の恵みをかけられたりで、痛かったり、笑ったりしていたのだが。


「みんな本当にありがとう。みんなの話しによるとマリーナ姫がさらわれてから数時間が経った見たいだけど。ロイド達は捜索してるのかしら。」


「ロイド様達は、城壁の近くにある騎士団駐屯所に行かれた様です。そこに王女様の捜索本部を置くと情報を得ました。なんでも王女様の捜索に辺境伯様が追跡部隊を出された様です。」


「城下町の壁を越えて、城壁の壁を越えて。マリーナ姫の寝所に行き付き、彼女をさらったなんて、どう考えても案内役が居るんじゃないかと考えちゃうわ。情報が無ければマリーナ姫の居所なんて短時間で探せないでしょ。それとも何処かに掲示されてるなんて無いわよね。」


 四人共頷く。


「ええ、考えたらおかしいですわ。王女様がどこにお休みになっているのかって通常なら外に出ない情報ですもの。」

「その通りだわ。」


「あっ。」ミシェルが声を上げた。

「どうしたの。」

「・・・。」

「何か迷ってるみたいね。」ジュンが囁く。


「ええ、ご本人からお伝えされる方が良いのですが。」ミシェル。

「この非常時よ、罰せられる事は無いと思うわ。」ルミネが伝える。

「意を決めました。」ミシェル。




「王家の血筋では、魂に導かれた出会いと確信した場合、聖なる魂の絆を結ぶ事ができるんです。ただ、生涯に何度もとはいきません。今まででは生涯に一人とだけ結ばれる事があったと伝承には残っています。」


「魂に導かれた出会い・・・。」


「ええ、神聖の掟である最上位の法術を使用して儀式が行われますが、この法術は相手が死していようと関係がありません。魂を差し出す者と絆を結ぶ者とに深い信頼関係があってこそ効力が発動するのです。」


「聖なる魂の絆を結ぶと、お互いの魂は永遠なる絆となり差し出す者の元には相手が、相手の元には差し出す者が、良き友として現れると伝えられています。」


「生まれ変わってもって事なの。」

「ええ、その通りです。生まれ変わっても良き友として巡り合う様です。」


「重要なのは、この絆で結ばれた者同士は、相手の存在を感じる事が出来、今回の事件の様な場合に相手の位置を見出す事ができる筈なのです。」


「それは、凄いわね。」


「・・・あっ。すみません。」

「マリーナ王女はジュン様と聖なる魂の絆を結ばれました。」


「・・・えええ。私と。」

「はい、私が神聖なる神様の仲介役として法術を発動しました。」


「・・・え。と言う事はマリーナ姫の居場所が分かるって事なの。」

「はい、絆の確認はされていませんけど。」


『RIRI、分かるかしら』

  〈精神感応が発動しています。この場合、マリーナ姫からの精神がジュンの精神と結び付こうとしている様です〉


「私が起きた後、マリーナ姫は私を感じるのかな。」

「はい、はっきりと感じ取れると伝承にはあります。」


『どうやればいい』

  〈マリーナ姫を心で感じてください〉


『マリーナ何処なの』ジュンは心の中でマリーナを呼びその存在を感じようとした。すると心の中心にマリーナの香りがほのかに灯った。心の中でマリーナが必死に伝えようとしている事まで分かる様になった。


「感じる。マリーナを感じるわ。」

「凄い、伝承は本当だったのですね。」


 キニュが側にきて、「王女様とお会いになるんですね。それでは綺麗にしましょう。」私の笑顔を確認するや温かな水球で洗浄してくれた。その後すぐにミシェルが浄化の法術をかけてくれた。


 汗に濡れ、火傷からの自分の体液でグシャグシャになった全身が見違えた様に綺麗になった。


「ありがとう。」


 ジュンは全身に力が漲るのを感じた。心の中心に灯ったマリーナの香りから力の波動が伝わってくる。

  〈マリーナ姫からの波動が来ています。法術の力ではと推測〉

『ええ、この力は法術の伝達の一種と仮定しましょう。心の中心にあるマリーナの香りに意識を集中すると全身に力が漲ってくるわ』


「私、行ってくる。マリーナの元に。あ、それと、城下町か城の中に裏切り者が居ると思うので、しばらくの間は私の復活は内緒でね。」みんなにウインクする。


「マリーナ王女を頼みます。」

「助けてください。」

「守ってあげて。」

「信じてますから怪我はしないで。」


 各々から励ましの言葉を受け、ジュンはマリーナの元へ。




 何処かわからない真っ暗で冷たい床に横になっている。どうしたんだろう。


「・・・うっ。腕が痛い。何。動かない。」マリーナは痛みに顔を歪める。


 わたくしは寝所で横になろうとして。

 ・・・

 風を感じたんだ。

 そのあとバルコニーを見たらカーテンが動いてて・・・

 窓が開いてると思って閉めようとして

 あ、立ち上がって


 思わず首の後ろ側に手を添えた。少し痛む。


 そうだ、首の後ろに痛みを感じた後、意識が飛んだんだ。そして真っ暗な所。どう考えても、さらわれたのね。足も自由にならないし。でも、2度も待ち伏せされたから命が狙われてると思ってたけど、なんで生かしておくんだろう。


 転生前の記憶では、第四王子と宰相が結託して王に長い間、毒を盛り病死として殺害。騎士団を弱体化させ他国からの侵略を許して・・・王国を破滅させた。


 このタイミングで、わたくしを誘拐する必要が分からないわ。以前の記憶で誘拐された事は無かったはずだし。・・・と言う事は矛盾が生じてる。


 違う要因が現れたと考える方が良いのかも知れない。


 おじさまのお城からさらうなんて、普通では考えられないわ。誰か手引きした者がいるという事になるわね。


「・・・ああ、痛い。」腕が痺れて痛みが強くなってくる。目が慣れて来たのか、周囲の物の輪郭が朧げながら見えてきた。


 直ぐ後ろに壁がある事に気づき、ズリ寄りながら壁に背中を付けた。痛かったけど、なんとか壁を背中にして座る事ができ腕の痛みを和らげる事に成功した。


 物音一つ聞こえてこない。


 ジュンと出会った事は、幸運だったわ。2度も命を助けられた。まるで妹みたいに可愛い子が、あんなにも強いんだもの。

 転生したわたくしの為に女神様が遣わしてくださったと信じてたのに。だから直ぐに打ち解けたし・・・ずっと側にいて欲しかった。

 怪竜から守ってくれた。3度目。大勢の命と引き換えに死んじゃうなんて。


 マリーナは周囲から音がしない静かな空間で、ジュンとの思い出や助けられた事などを深く考えていた。


「会いたい。」マリーナの想いが口からこぼれる。


 次の瞬間。マリーナの心の中に温かな疼きが目覚めた。なんだろうと思い、温かい所に集中しているとジュンの爽やかな香りを感じた。


「・・・えっ。ジュンなの。」


 強く、集中し、強く、温かな物に意識を沈めて行く。


「あっ。見つけた。生きてたのね。」マリーナの瞳から涙がこぼれる。

「ジュン。」


 マリーナの心からあふれて来る温かい想いが膨らみ、マリーナを優しく包んでゆく。マリーナは理解した。心が繋がっている、と。わたくしの命は貴方のもの。貴方は絶対わたくしを見つけてくれる、と。


「ジュン、わたくしは此処にいます。」


 上の方からガタンっと大きな音がした。靴の音が次第に近づいて来る。階段を降りる音、そしてついに目の前まで来た。


 扉が開くと同時に明るくなり「なんだ、起きてたのかよ。」


 マリーナの心臓がキュッと。




 みんなと別れて城下町方面に進む。


『RIRI、戦闘はどの程度』

  〈最大強化をしなければ、通常戦闘モードは可能です〉

『光学迷彩システムは』

  〈80%まで問題ありません〉

『それでは、アサシン戦闘モード及び迷彩発動』

  〈モード発動します〉


 歩いていたジュンの姿がモード発動と共にかき消えた。外に出ると、シュンと音がしてドローンが戻って来た。所定の場所に装着され充電に入る。


『おかしい。城下町を出たような事を言ってたけど城下町の外壁は越えてないみたいだわ』

  〈現在マリーナ姫から受けている精神感応波をシステムに記録し各種モードに使用できる様に再構成しました。今後はジュンが意識を集中しなくても大丈夫です〉


『ありがとう、RIRI。意識に集中しなくて良いのは助かるわ』

『マリーナの特定お願い』

  〈しばらくお待ちください〉


 ジュンの心の中のマリーナの香りが小さく固くなった感じがした。


『マリーナに苦痛が迫ってるのかも知れない』

  〈解析してます〉


『大体の方角で構わないから』

  〈俯瞰モードでます〉


 ジュンの視野内左下に四角い枠が現れ、現在地を中心にした簡易地図が表示される。城下町の外側近くに青色の点と距離が表示された。ワイヤーフレーム化された城下町を疾走する。この表示はマリーナからの精神感応波をRIRIにより視覚化した物である。今後は微調整が必要となるだろう。


『上空支援にドローン射出』

  〈上空支援用ドローン出ました〉


 視野内右下にドローンからの映像が表示される。


  〈目的地に向かう移動体複数〉

  〈移動体から離れた地点に潜む者有り〉


 俯瞰図が拡大表示に変わり赤いマークが3つ移動している。

 移動している赤点の斜め上方向に灰色の点が強調表示される。


 ジュンはスピードを緩めながら周囲を探す。俯瞰図の状況と照らし合わせ。対象と思われる場所が廃屋であると特定する。直ぐに廃屋の向かいの屋根に背後から取り付く。赤点マークの一つが中に入り、他の二つは入口で止まっている。屋根を伝わり、そっと現状を目視で確認すると図体がデカくロングソードで武装している者と灰色のローブを纏っている法術士と思われる二人を確認した。


 俯瞰図から、灰色の点方向を見ると壁の前に潜んでいる者を見つける。


  〈多数の移動体が近づいてます〉


 蹄の音が激しく聞こえてくる。その方向にドローン映像をパンさせると騎士団の集団が映った。後方には法術士部隊が追従している。灰色の点が騎士団が来るであろう方向へ移動している。


『まずいな。音が大きすぎる。』


 目の前の廃屋の入口に陣取っている二人が物陰に隠れる。


 丁度隠れた時、目の前の交差点から騎士団が雪崩れ込んで来た。先頭のロイドが指揮を取り廃屋を囲む様に騎士団を配置してゆく。ロイドの動きからこの場所を特定した様だ。


 指示を出しているロイドに向け物陰に隠れていた敵の法術士が攻撃を始めた。

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