東砦

 到着後直ぐに、王族専用休憩所にて会談が開かれた。通常であれば王族歓迎会の後日に会談を行うが、今回は王女からの要請にて歓迎会は会談後とした。その旨は、早馬にて予め伝えている。


 会談への参加者は、東砦側からは、駐在武官リードン、第四騎士団東砦団長ラハッタ、副団長センリャン、法術師範ライザ、騎乗突撃隊隊長ロングーの5人。マリーナ王女側からは、神聖法術士エリーとミシェル、念波法術士ルミネ、土水デュアル法術士キニュ、近衛騎士団長ロイド、特別顧問黎明のジュンの7人、総勢12人である。


「お疲れの所、早々の会談にご参加頂き恐悦至極に存じ上げます。火急に審議する必要事項が持ち上がった為、東砦に御参集頂きました。」審議官が述べた。

「お待ちください。わたくし達は共和国遠征の帰路に於いて問題に遭遇した故、こちらに寄らせて頂いたのです。火急の審議もこちらに参集する旨も存じ上げておりませんでしたが。」


「・・・え。大変失礼致しました。少しお待ちください。」駐在武官であるリードン審議官が補助官に確認している。

「王国に向け3日前に伝書鳥を発出致しました。このタイミングで王女様御一行が御到着されたのは些か早すぎた様ですので、こちらの早とちりでありました。大変申し訳ありませんでした。どうかお許しください。」審議官が深々と頭を下げた。


「いいえ、お気にせずに。東砦での火急なる審議とわたくし達の遭遇した問題とタイミングが合致したのであり、機会を逸せずに大変良かったと思います。」


「ありがとうございます。」審議官が恭しく深々と頭を下げた。


「失礼致します。お飲み物をお持ち致しました。」

「入りなさい。」補助官が扉を開け誘導する。

 各席の前に飲み物とお菓子が添えられた。王女様御一行へは出される前に神聖法術士エリーにより検分されている。


「私共の火急な審議事項を話し合う前に、王女様の遭遇された問題を先に行いましょう。」審議官が述べる。


「ありがとうございます。審議官には心より感謝致します。」

「それでは、わたくし共の遭遇した問題を先にお伝えさせて頂きます。」


 マリーナ姫は、共和国遠征に於いての成果を簡潔に述べた後、共和国内で知り得た不穏な情報。通常使わないコースでの帰路に魔獣族による待ち伏せと思われる襲撃。この砦を目指し、魔の森の緩衝地帯での盗賊らしき一団による待ち伏せなどが実際に行われ辛くも撃退して来た事実。盗賊の頭目らを尋問し、リングル城下町のハンター連合近くの居酒屋で会合が行われ、姫を誘拐する話が成された事。それらから導き出した陰謀などを話した。




 マリーナ姫が話し終わった後、場内は静まり返った。


「なんとも、とんでも無い事が起きている様です。」目を丸くしながら審議官が述べた。

「最初に王女様の共和国に於いての成果に、心よりの賛辞をお送り致します。」

「いいえ、ありがとうございます。この様な事が起こらなければ心より楽しむ事ができたと感じています。」マリーナ姫は目を伏せ伝えた。


「先ほど王女様が御導き出されました陰謀の御話しですけれども、私共の火急な事案とも合致するかも知れません。王女様の御審議の途中ですが私共の話しをさせて頂きたく存じます。」述べた審議官にマリーナ姫は頷いた。


 審議官の話しは次の様なものであった。


 ほんの数ヶ月前まではグリー族からの攻撃が絶えなく行われていたが、ここ二週間程魔獣の数は減ってはいないが種族形成している者達からの攻撃が無くなっている事実。

 砦から最南方、南壁と崖の接する近くに壊された痕跡が発見され修復したがひと月前の定例見回り時に再び発見し修復した事案。壁の破壊と修復の繰り返しにより直接的な攻撃より壁を壊して侵入する可能性が高くなったのではないかという懸念。


 三週間前、リングル城下町に休暇で入っていた騎士からの報告によると、城下町での犯罪が近年にない程の上昇率を示している事案。辺境伯領地内の水源の一つが急に汚染され最近回復させたらしき事案。水源の影響なのか、城下町に疫病が発生する兆候が見出された懸念。


「なんという事なの。ブラウエル辺境伯との連絡はどうですか。」マリーナ姫が述べた。


「辺境伯領地での問題に関しましては、2名の探索員を潜入させた所です。ある程度の状況把握ができた上でと考えております。ブラウエル辺境伯殿への直接的な連絡はまだしておりません。現状何が起こっているのかを確認でき次第、王国への報告を第一義と考えておりました。」


「おじさまの所で犯罪が増えるとは考えられない事です。何が起こっているのでしょうか。とても心配です。・・・それに、魔獣族が待ち伏せなどを行うなんて思いもできません。盗賊達の件と絡んでいると見た方が良いでしょう。最悪、これら全てはわたくし共への攻撃と関連していると考えた方が良さそうですね。」マリーナが俯きながら述べる。


「砦周辺の王国直轄地と辺境伯様の御領地は、外敵からの攻撃に際しての重要な役割を司っています。王女様の御命を狙う動きは継承権問題を、辺境伯様の御領地での様々な懸念すべき問題は外敵からの侵略行為を想起させます。」マリーナ姫の侍女であるルミネがハッキリと発言した。会談への参加者全ては上下の区別無く討議に参加する事ができる。


「ルミネ、ありがとう。貴方が纏めてくれたわ。」微笑むマリーナ姫。

「如何でしょうか。審議官。わたくしの命が狙われた事が継承権問題に関わっているとしても、辺境伯領地での出来事も、この時期に重なっているのは偶然とは思えません。」


「はい、何か繋がりがあると考える方が妥当でしょう。」審議官が答える。

「魔獣族を待ち伏せに利用できるものでしょうか。」マリーナ姫が呟いた。


 審議を通し、継承権に関わる問題としても王女様の御命を狙う卑劣な行為、隣国と魔獣族からの侵略、辺境伯領地での出来事などに注視した方が良いと纏めた。


「ここ迄の件に関しての親書を用意致しますので、直接王様へ届ける為の早馬を出して頂けますか。」審議官に伝える。

「勿論でございます。」

「それでは後ほど親書を用意いたします。」


 その後、短い休憩を挟んで東砦からの年次報告、近況報告、第四騎士団の訓練状況などの報告が簡単に行われた。休憩時間にマリーナ姫によって用意された親書は東砦きっての早馬に持たせ国王の元へ走らせた。




 夕刻より王女様歓迎式典が厳かに行われた。


 テーブルには様々な料理や飲み物が沢山載せられていた。どれも美味しくそれぞれに舌鼓を打ったのは言うまでも無い。一方、マリーナ姫は大勢に取り囲まれロイドと第四騎士団東砦団長ラハッタが両脇でガードしていたが窮屈そうな表情をしている。私は4人の侍女達が交代で側についてくれたので歓談しながら料理を楽しむ事が出来た。お腹いっぱいだ。


 式典後、王族専用休憩所にて近衛騎士団長ロイド、念波法術士ルミネ、私とマリーナ姫の4人にて今後の話し合いが行われた。その結果、危険は大きいがマリーナ姫の叔父にあたるブラウエル辺境伯の所へ向かう事が決められ、近衛騎士団からブラウエル辺境伯へ先馬が夜の内に発出された。




 翌日は資材調達と馬などを休ませる必要がある為、1日休息日としてマリーナ姫と私と次女4人と護衛にロイドの7人で砦村を散策した。この砦村は商業路としての機能もあり、一般の宿泊施設や治療院、食堂や生活雑貨屋、鍛冶道具なども充実しており何よりも人通りも賑やかで活気がある良い村だ。


 負傷した騎士達は王国からの迎えがあるまで東砦治療院にて入院加療とし不足した近衛騎士団には第四騎士団から王女様の護衛任務が完了するか増援が来るまでの間、編入してもらう事になった。

 神聖法術で外傷は後も残らず治る様だが、内臓や骨にまで達した傷は時間の経過が必要らしい。戦闘の場合、損傷が激しかったり心臓や脳へのダメージがあった場合は治癒できないとの事であった。


 近衛騎士団は常に強さを求め剣技の研鑽を怠らず、尚且つ、王族警護に関しての技術をも磨かなければならないと言う卓越した騎士達の集まりである。しかも、王族に対しての確固たる忠誠心は類を見ないものだ。騎士育成の立場から定期的に東砦での駐屯及び魔獣族などへの対処及び実務をこなしていた事もあり第四騎士団とは飲み友達みたいな関係を築いていた。また、近衛騎士団の影響もあり東砦の団長ラハッタを中心に東砦全体が第一王女派を形成していた。


 余談だが、マリーナ姫と砦内を散策している時、影に潜む複数の者達を見つけた。当初は驚いたのだが殺気が全く無い事から様子を窺っていた所、ロイド殿から彼らは休暇を取って自主的に王女様をお守りする影の部隊であると言う事だった。つまりは熱烈なファンだ。東砦内では王女様の安全はそれらによっても保証されているらしい。




 広場の先の目立つ所にハンター組合と書かれた大きな看板が目についた。なんだろうと見ていると「あそこは、ここ数年で結成された狩る者達の組合です。」


「狩る者達。」ジュンはロイドに聞き返した。

「ええ、魔獣や食用の獲物とかですね。以前は魔獣が少なかったので揉め事は少なかったんですが魔獣が増えてからは田畑を荒らしたり人の子を攫ったりと。騎士団や自警団などが対応してたんですが、事案が多くなり過ぎて応援に来ていた狩猟民が中心となって形になったらしいですね。」


「ほう。」


「組合と言う組織にしたのは、領民を守る為の領主からの依頼とか、国からの討伐参加依頼とかが増えたので対応できるようにした様です。」


「まあ、討伐依頼をこなしたり狩猟した獲物を持ち込んでも換金してくれるので、収入も良い事から生活の為に狩る者に転向する者が増えたのが実像ですけどね。ルールを決めて揉め事を無くすと言う事でしょうか。」


「そうなんですね。」

「ご興味がありそうですね。一応登録制なので一緒に行ってみますか。」

「あ、わたくし達もご一緒します。」姫達がハモった。


 結局みんなで行くことになった。


 ハンター組合の中は換金が終わった後なのか閑散としていた。受付窓口に行ったら王女様に驚いて組合長が奥から出て来ての対応となった。私が登録できるか聞いた所、王女様の頷きひとつで即決だった。ハンター身分証という固い鉱石の薄い板に法術を利用して個人データが記録されている様だ。板の色がシルバーだったので聞いてみると内密にとの返答であった。どうやらランクがありシルバーは上級で換金利率が高いそうだ。


 私も生活しなければならないので、今後は活用させてもらおう。



 砦村の可愛い食堂にロイドを除いた6人で入った。ロイドは入口で立哨すると言い張ったのでマリーナ姫は仕方なく了承した。可愛い食堂が苦手なのかも知れない。


 この世界の料理はどれも格別なものがある。香草焼きシチューは絶品だった。香草で蒸し焼きにした鶏肉がゴロッと入っていて、鼻を抜ける香りは食欲を増すものだった。



 帰りにロイドとマリーナ姫様の2人で駐在武官庁舎に寄り、明日の朝に出立する旨を伝え、リードン武官にはお礼と挨拶を伝えたようだ。

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