街道の敵

 日の出と共にキャンプをたたみ王都への移動を始めた。ジュンは王族用馬車に招待され、中をひと通り案内された後、マリーナ姫の向かいに腰を下ろしていた。


 この馬車は二部屋構成になっていて側面の扉から入ると直ぐに狭い廊下になり左右の奥に扉があった。左側の奥は侍女四人の専用部屋と簡易厨房兼食糧庫であり姫への軽食や飲み物を用意する事もできる様になっていた。慣れれば過ごしやすいと話していたが、見た目は凄く窮屈そうだ。


 右の部屋は王女様専用で王族が四人まで乗車できるように豪華な内装で造られていた。広さは数日の移動には十分なものであろう。




「畏まらなくても良いわジュン。ここにはわたくしと貴女の2人だけだもの。隣の侍女たちの部屋には声が届かないのよ。それに、2人きりの時はマリーナと呼び捨てにして欲しいの敬語もいらないわ。貴女とは2歳違いで年齢も近いし、より親密なお友達になりたいと思っているの。・・・迷惑・・・かしら。」マリーナは顔を伏せ、恥ずかしそうに囁いた。


「いいえ、迷惑なんて事は・・・。」ジュンは本来22歳であるが、外骨格年齢通りの14歳と自身の歳を伝えていた。


 ドアがノックされた。

「お入りなさい。」軽やかにマリーナ姫が答える。


「王女様、お菓子とお飲み物をお持ちしました。」

「ありがとう、ミシェル。いつも感謝しているわ。」

「そんな王女様、恐れ多い事でございます。」


「ジュン、ミシェルは慈愛の恵みと言う神聖法術の使い手なのよ。」

「・・・神聖・・・法術。」

「神聖なる力を神様から与えられ、その力で怪我や傷を立ち所に治してしまうのよ。」

「それは、素晴らしい力ですね。ミシェル様」

「黎明のジュン様、私達侍女に様や敬称は不要です。」笑顔で伝えるミシェル

「・・・ありがとう。ミシェル。」


「では、王女様、黎明のジュン様、私は控えの間に戻りますので御用命があればお呼びください。」


「涼やかな方ですね。」

「ええ、いつも笑顔を絶やすことの無い子なのよ。常に励まされているわ。」



「ジュン、貴女には昨晩も少しお話ししたけれど王国に着いたらわたくしの父とお会いして頂きたいの。」

「・・・ええ、それは構いません・・・。」

「ありがとう。とても嬉しいわ。」


「貴女はこれから・・・、どこか目的地はあるのかしら。・・・あ、もちろん王国でわたくしの父と謁見した後の事になるのだけど・・・。」


「・・・えっ、謁見。非公式な場では無かったのですか。・・・困りました。公式な場に出席できる様な衣装の持ち合わせはありませんし、礼儀などには不慣れですので・・・。」


「大丈夫よ。すべてわたくしに任せて。」素敵な笑顔で答える姫。


「・・・はい、ではお願いします。」


「先ほどの続きですが、今は特に目的地がある訳では無いけれど、何処に行くべきなのかを探す旅になると考えてます。最初は生活できるような知識を得て、いろんな所を見て回りたいなと思っているんですが。」


「目的地があるので無いならば、提案があるのだけど。聞いてもらえるかしら。」

「・・・ええ。」キョトンとした顔でマリーナを見つめる。


「わたくしの所に来るといいわ。城下町も案内したいし、何よりもしばらく一緒に過ごしたいわ。ぜひのお願いなんだけど、どうかしら。」顔を少し赤らめながら早口に話したマリーナはとても可愛らしかった。


「・・・ではしばらくの間、甘えちゃおうかな。」にっこりとマリーナに頷く。

「もちろんよ。」アリーナは満面の笑みをたたえた。

「ずっと仲の良い妹の様な友達が欲しかったの。」

「えっ、ご兄弟がいらっしゃるのでは。」


「ええ、4人兄弟だけど継承問題が出て来てから複雑な関係になってしまって。今では表面は繕っていても内面ではギクシャクしてるの・・・信頼も消えてしまったわ。わたくしが信頼しているのは父と近衛師団長のロイド、それにわたくし付きの侍女達4人だけ。」


「大変なのね。継承するって。」

「それに、貴女は凄く強いし・・・。」


「あっ、待ってマリーナ。」

  〈進行方向500mに強い殺気反応。集団です〉RIRIが囁く。

『詳細は』意識を集中しRIRIに伝える

  〈進行方向左右に同程度の集団反応、奥行き20m〉


「・・・怖い顔。どうしたの。」マリーナが心配して聞く。

「この先で知り合いと待ち合わせとかしてる。」早口に答えるジュン。

「いいえ。ちょっと待って。」マリーナは窓を開けると直ぐ横で騎乗しているロイドを呼んだ。


「はい、姫様何かございましたか。」

「この先で誰かと落ち合う予定とかあるかしら。」

「いいえ、砦迄にはまだ1日の距離がありますので。」


  〈こちらに気付いた様です。殺気の大小で俯瞰モードを起動します〉


「この先に街道の両側で待ち伏せしている集団がいる様です。私が出ますので部隊はこのまま進み、前方での戦いが見えたところで防御陣形をとってください。」


『ステルスシステムは』

  〈20%で3分、再チャージ間隔5分〉

『戦闘モード、シールド二重オン、ステルスモードスタンバイ』

  〈完了〉


「えっ」ロイドが驚いた顔をしている。

「時間が無いので説明は後で、マリーナ姫をお願いします。」


「・・・はい。」


 呆気にとられているロイドを後に内扉を開ける。


『外扉を開けたらステルスオン』

  〈了解〉


 内扉を閉め、外扉を開けて一気にジャンプしたジュンは側面に展開している騎乗騎士達の頭上を越え草原に着地し右翼の潜伏した敵へ向けて加速する。後方ではいきなり開いた王族馬車の扉に驚き騎乗騎士が一騎、馬車に寄せていた。


  〈300m先、右崖上部にマーク2〉

『ドローン展開』

  〈射出、両翼に展開〉


 今後の広範囲に展開した敵や情報収集に対する戦略を強化するため、馬車に乗る前にパックパックの空間監視用ドローンをコンバットスーツ腰位置背後の両脇に2セットずつ移動し初期設定を済ませて装着しておいた。展開する前は3㎝径の薄い円盤状である。


 ジュンの視野左下の俯瞰ボックスの右側に二つの小さな窓が上空からの景色と共に開いた。意識を向けた方が拡大表示される。


 視野内俯瞰ボックスがグリーン枠になり上空からの実写版俯瞰図に表示が切り替わる。ファーストドローンの枠がオレンジに変化すると俯瞰図の敵マークの内二つがターゲット二重マークに変化した。


  〈ファーストドローン、コンタクト〉

  〈弓兵と法術兵確認〉

『殲滅する。左翼と騎士団の状況把握』

  〈防衛ドローン射出、騎士団・馬車方向へ〉


 ジュンは駆けながらHVLSを抜き右手後方に切先を向け構え、腰ほどの草原に隠れている三人の内1人目を逆袈裟斬りで仕留めた後、両手で2人目を袈裟懸け、3人目を右一文字切りで切断した。ファーストドローン表示が赤に変化。


  〈敵対行動確認〉

『脚力強化、ジャンプする』

  〈完了〉

  〈左翼側敵先頭、敵対行動予備動作確認〉


 ジュンは駆けながら足に力を込め一気に目の前の崖上に向けてジャンプした。5mの崖を飛び越え崖上木陰の2人を見下ろし、法術士らしき手を掲げている者へ上空から真っ向切りで切り伏せ、サイドステップで弓兵の背後から突き抜く。


  〈T-S100、ステルス〉解除までの時間残り100秒


 視野の右上に防衛ドローンの窓が開いた。ジュンは左下の俯瞰モードを確認し崖下にいる敵に向け飛び降り、2人を着地後すり抜けながら薙ぎ払った直後、街道を渡りながら左翼の先頭を目指し加速する。

『右翼残党を監視、左翼へ切り込む

  〈了解、右翼残党は街道右湾曲先5人、監視モード〉




 馬車から見ると街道の先は右に湾曲していて、右側の崖の横を通っている。


「法術でのマーキングが、この先からです。」ルミネが大声で叫んだ。


「防御陣形を敷け。」ロイドが先頭に走り大声を上げ指揮を執る。荷馬車を先頭に踊り出させると街道に横に設置。その背後に騎士達が防御陣形にて盾の法術を発動し王族馬車を囲む。負傷者が乗っている荷馬車は後方に捨て置く。


「マーキングが消えました。」ルミネ。

「何、間違いないか。」ロイドがルミネに向き確認する。

「ジュンが戦っている。敵からの法術マーキングが消えたと言う事は敵の法術士を倒したのではと思う。」マリーナ姫がロイドに伝える、ルミネも頷いた。


「騎士団、半数を前へ。防御盾最大に。側面と後方に注意。」ロイドが叫ぶ。


 騎士団の半数が先頭の荷馬車を超え前に出て盾の法術を発動すると、薄いグリーンの膜が大きく全体を覆った。その中でも敵方向の膜が色濃く変化してゆく。




 左翼先頭に向け疾走していると前方味方付近に薄いグリーンの被膜が立ち上がっている所だった。「・・・ん。あれって何。」


『マリーナ達は』

  〈防衛監視ドローンに異常無し、音声データとの照合により盾の法術によるシールドの一種が発動中と確認〉

「・・・ほう。」


 左翼先頭で弓に矢を番えている敵を背後から横なぎに切り伏せ、HVLSの回転力を活かして方向を2人の法術士の1人に向け短いジャンプをし上から真っ向切りで切断し逆袈裟斬りで1人を切り上げる。ステルスモードが発動している為、敵は気がつく前に倒されて行く。ジュンはHVLSを背中に戻し、ゆっくりと街道の真ん中付近に移動した。


『ステルスオフ』

  〈ステルスモードをオフにします〉

  〈左翼側敵マーク残9、右翼街道先残5〉


「あ、あそこを。」ミシェルが叫ぶと全員の視線が指差す方を見る。

「黎明のジュン様。」忽然と街道に現れたジュンの姿に驚愕する。




「な、なんだアイツは、法術はどうした、弓兵っ。」敵の頭目が叫ぶが法術士からも弓兵からも返答は無かった。

「おい、向こう側を見て来い。」頭目が近くの槍兵に叫ぶ。

「へい、お頭。」


 左翼から1人飛び出し右翼側の残党方向へ駆け出すのが見えたが、ジュンは静かに佇んでいた。


『セカンドドローンにて一帯を監視』

  〈了解〉


『ファーストは敵個体の脅威を選別』

  〈未知なる法術に関する初動動作は確認できません〉

  〈現時点での武装比較による脅威無し〉


『セカンドを残し収容』


 2台のドローンが上空からキューンと言う小さな音を立てながらコンバットスーツの設定場所に装着される。

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