第3話 2日目 エプコットセンター

トラベル小説


 夜2時近くに寝たので、朝起きたのは8時過ぎだ。4人ともはっきりしていない。でも、朝食を食べようということで、ホテルのビュッフェに行ってみた。でも、棚から取り出して最後に会計をするシステムだ。このあたりがコスパ優先のカジュアルホテルだと思った。調理をするシェフは一人も見えない。電子レンジがあるので、あったかい物が食べたい人はそこでチンするのであろう。コーヒーは煮詰まっていて、とてもおいしいとは言い難かった。結局、サラダとパンとコーヒーだけとなった。

 そこで、日本料理店があるエプコットセンターに行こうということにした。ホテルからのシャトルバスに乗り込んで、エプコットセンターに向かう。シャトルバスは5系統ぐらいある。ディズニーワールドは東京の山の手線内の2倍の広さがあるので、泊まっているホテルからは結構時間がかかる。いくつかのホテルやパークを経由して、1時間ほどでエプコットセンターに着いた。ここはディズニーワールドができた時からあるパークで、いわば中心的存在である。銀色に光った球体のシンボルが入り口にそびえたっている。ここもアトラクションである。最初に、人気のソアリンの予約をとった。各所に予約ブースがあって、空き時間が示されている。すると夜6時に空きがあった。ちょうど夕食時なので空いていたのだろう。時間を設定して例のリストバンドをセンサーに近づけてOKである。人気のあるアトラクションなので、予約すると特別料金がかかる。

 そうしているうちに昼近くになり、エプコットセンターの一番奥にある日本の料理店がやっている鉄板焼きの店に行くことにした。他にもうどん店があったが、おなかが空いていたので、しっかりと食べたかった。

 もう一組のファミリーといっしょに8人がけのテーブルにすわる。そこに日本人のコックさんがやってきて、カチャカチャとへらをたたいて、器用に焼いていく。海鮮や肉がいい臭いをかなでている。コックさんの軽妙なトークもおもしろい。子どもたちも興味津々だ。小皿に盛りつけられた食べ物もとてもおいしかった。

 半分ほど食べ終わったところで、2つ離れたテーブルに新しいお客さんが案内されてきた。すると、娘の祐実が

「アイちゃんだー!」

 と叫ぶ。皆がそっちを向く。たしかにアイちゃんファミリーだ。向こうも気がついて、近くにきて、

「半年ぶりですね。食べ終わったらごいっしょしましょう」

 ということで、アイちゃんファミリーが食べ終わるまでロビーで待つことにした。

 30分ほど待つと、アイちゃんファミリーが出てきた。

 祐実とアイちゃんはすごく楽しそうだ。圭祐もまんざらではない。アイちゃんがかわいいからだろう。

 2家族でワールドショーケースを見てまわった。ここは比較的すいている。ノルウェー館のボートには興奮していた。アナ雪の世界である。出てからアイちゃんパパにいろいろ聞いてみる。

「よくこの時期に休みがとれましたね」

「えー、夏には帰国が決まったので、その前に家族サービスと思いまして・・帰国したら1週間の休みなんてとれませんから」

「さすが、T社の営業」

「そちらこそ、H社の工場経営で辣腕をふるっていたじゃないですか」

「お互いさまですよ。われら日本の自動車メーカーが日本の産業をささえているといっても過言じゃないですよね」

「さすが・・・経営側にたつ人は違う。将来の工場長、いや社長かな?」

「そんなことはないですよ。今は新規事業に向けて四苦八苦しています」

「いいんですか、ライバル企業にそんなこと言って」

「それぐらいは誰でも知っていることです」

「そうですけど・・いつ来られたんですか?」

「昨日の飛行機です。格安航空券なので19時間かかりました。少し時差ボケです」

「日本から来ると時間に逆行しますからね。私たちは明日の飛行機で帰ります」

「ヨーロッパだと直行便があるから楽ですね」

「そうですね。それにしてもここで会えるとは思いもよりませんでした。家内は知っていたみたいですが、まさか鉄板焼きの店でいっしょになるとは・・」

「そうですね。奇跡かもしれませんね」

「アイにとっては、いい思いでになります。日本に帰ったら、また会いましょう。おっと、入れ違いで海外勤務かな?」

 と、こちらの動きをさぐる言葉で終わった。海外事業部の仕事を他社にもらすわけにはいかない。

 ソアリンの予約時間に近くなったので、アイちゃんファミリーと別れた。娘どうしはハグしあって別れをおしんでいる。圭祐はアイちゃんに握手を求められ、照れながらも喜んでいる。女の子と握手したのを初めて見た。妻に

「アイちゃんママと連絡をとりあっていたのか?」

 と聞くと、

「うん、今日までいるとは聞いていたの。でも、エプコットで会うとは思ったいなかったわ。アイちゃんと祐実の思いが引き合わせたのかもしれないね」

 という返事だったが、わが家が初日で昼食に鉄板焼きを食べにくるとアイちゃんママが予想して、それがぴったしはまったということらしい。

 ソアリンは想像以上に楽しかった。ほぼ360度スクリーンで、自分が空を飛んでいる感覚だ。足がぶらぶらなのでハンググライダーに乗っているみたいだった。子どもたちも歓声をあげている。東京DSにもソアリンがあり、映像が違うという。それなら行ってみたいと思うアトラクションだった。

 ソアリンを出ると、人がレイクの周りに集まっている。アイちゃんママから

「夜のショーは必見よ。日本と迫力が違うから」

 と言われていたので、レイクサイドに陣取った。

 花火が打ちあがり、ショーの開幕。レイクの水に花火が反射してきれいだ。すると水のスクリーンがでてきた。そこにディズニーのキャラクターが出てきたり、アニメの名シーンが映される。マーメイドのたこの化け物が出てきた時は、本物かと思うぐらいの迫力だ。祐実はママに抱きついている。レーザー光線や花火が一面に拡がり、30分でショーは終わり。

「フー」

 と思わずため息をついてしまった。こんなに激しい夜のショーは見たことがない。これが毎日開催されているとなると入場料が高いのも納得だ。今回は3日間チケットなので割引になっているが、1日券だと一人1万円を越えてしまう。でも、子どもたちの喜んでいる顔を見ると、そんなことは忘れてしまう。ふだんは寝顔しか見られないのに、子どもたちのいろいろな表情を見られるのは最上の喜びかもしれない。

 最後にバスで1時間ゆられてホテルに帰ることさえなければ、最高の一日だったかもしれない。

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