深まる絆
七海と初めて話した日から、一ヶ月が経っていた。七海が一緒に帰らない?と僕を誘った日から毎日一緒に帰っている。僕の高校生活に光がさした気がした。それに比例して、七海との距離はどんどん近くなっていた。
12月24日。
放課後、僕たちはいつも同じように教室を出て、一緒に駅へと向かった。七海の家は駅から反対の方向なのに、相変わらず「一緒に帰ろう」と誘ってくれる。
「祐介くん、今日さ、駅の近くに新しいたい焼き屋さんができたんだって!行ってみない?」
七海が楽しそうに言い、僕は、気がつけば笑ってうなずいていた。僕は普段、自分から積極的に行動するタイプじゃないけれど、七海と一緒にいると、不思議とそんな気持ちもどこかに消えてしまう。七海が「楽しそう!」とキラキラした目で見ていると、僕もなんだかワクワクしてくるから不思議だ。
たい焼き屋は商店街の一角にあって、店先から甘い香りが漂っていた。僕たちはそれぞれカスタードとチョコレート味を一つずつ買って、冷えた手を温めるようにほおばった。
「これ、美味しいね!エンセラドスにはこんな甘いものあんまりなかったんだよ」
「へえ、じゃあエンセラドスの人は甘いの苦手だったりする?」
「ううん、食べてみたいとは思ってたんだけど……甘いお菓子って文化がなかったんだよね。ほら、わたしたち地球で言う魚?みたいなのしか食べてこなかったから!てか、地球の味、けっこうハマっちゃったかも!」
頬をほころばせる七海を見て、僕も思わず微笑む。彼女は不思議とどんなことにも興味を持っていて、何でも楽しそうに試してみる。そんな姿を見ていると、僕ももっといろんな場所へ連れて行ってあげたい気持ちになっていた。
帰り道、街中のイルミネーションが一段と輝きを増して、僕たちの歩く道を照らしていた。七海は、時折足を止めて、きらきらと輝く光をじっと見つめていた。
「地球の冬って、こんなにきれいなんだね……」
彼女がつぶやくと、僕はそっと「また来年も、ここで一緒に見られるといいね」と言いかけたが、最後まで声に出すことはできなかった。
両星間民族交換プロジェクトは、いつまで続くのか明かされていなかった。どうしてだろう、どうしても七海が地球にずっといるわけじゃないような気がしていた。
それでも、彼女は僕のそばにいる。そんな今の時間が愛おしくて、僕はただ一緒に歩き続けた。
そうして季節は巡り、高校3年生の冬になっていた。
あれから約一年経った今も、僕たちは放課後になると同じように一緒に帰っている。七海の家は相変わらず駅とは逆方向だけど、そんなことはもうお互い当たり前のようになっていた。毎日一緒に歩くのが僕たちの日常になっていて、僕にとってはそれが何よりも大切な時間だった。自転車通学は彼女と歩くためにやめた。
学校も受験モードに突入して、僕も夕方からは塾に行ったり家で勉強をしたりと、去年よりずっと忙しい日々を送っていた。でも、七海との帰り道だけはどんなに忙しくても外せなかったし、七海も僕に合わせるように待っていてくれた。
七海はいつも、「勉強ばかりで大変だね」と気遣ってくれる。だけど彼女の横顔を見ると、不思議と心が落ち着いて、「よし、頑張ろう」って思える。彼女が、僕の唯一の支えだった。
受験が迫るたびに焦る気持ちもあるけど、こうして七海と話しながら帰ると、自然と肩の力が抜けてくる。時々、勉強のことを忘れて彼女とくだらない話をして笑うと、ほんの少しでもリフレッシュできる気がした。
僕たちの毎日が、そうして積み重なっていった。
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