ずっと放課後のカウボーイ

川詩夕

ずっと放課後のカウボーイ

「なぁ、聞いたか? 大きい声じゃ言えねーんだけどさ、ルイがわれたらしいぜ」

「ルイ君が食われた?」

「バカ、声がでけーよ」


 小学五年生のリクは隣の席に座っているユウキの口を慌てて塞いだ。


「食われたって、食べられちゃったって事?」

「そっちの意味の食うじゃねーよ」

「どっちの意味の食うなのさ?」

「ユウキ知らねーのか? 最近噂になってる学校の怪談」


 ユウキはぽかんと口を開けて首を傾げた。


「男子だけが襲われる学校の怪談だよ」

「どうして男子だけが襲われるの?」

「知らねーよ、放課後のカウボーイに直接聞いてみろよ」

「放課後のカウボーイ?」


 リクは呆れた表情で頭をだるそうにぽりぽりと掻いた。


「この学校の高学年の男子が立て続けに放課後のカウボーイに襲われてるんだよ」

「襲われるって、どうやって襲われるのさ?」

「だからその、喰われるんだよ、なんつーか、ほら、分かるだろ?」

「全く分からないよ」

「あー、もー、んー、焦ったい、パンツを脱がされてアソコを喰われるんだよ」

「えっ、何それ、怖い」

「だろ?」

「怖いってかキモい、ルイ君は放課後のカウボーイに食べられて死んじゃったの? だから最近、学校を休んでるの?」

「死んでねーよ、勝手に殺すな」

「だって、アソコを食べられたって言うからさ」

「テレビドラマとか映画で大人がよく言ってるだろ、異性を喰ったの喰われただのって」

「そんなの知らないし聞いた事もないよ」


 リクは心底うんざりした様子で深いため息を吐いた。


「放課後のカウボーイは名前の通り放課後に現れるらしいぜ、カウボーイハットを被ってるからすぐに気が付く」

「どうして放課後のカウボーイはカウボーイハットを被ってるの?」

「カウボーイに憧れてたけど、カウボーイになれず死んじまったらしい」

「そうなんだ」

「ユウキもせいぜい気を付けろよ」

「気を付けろって言われてもさ……」


 ユウキは血の気が引いたように青ざめていた。


「襲われたくねーからさっさと帰るわ、じゃーな」

「……」


 リクはユウキに背を向けて一人で帰ってしまった。



 ユウキはクラスでお花係りだった。

 今日は水やり当番の為、放課後に一人で学校の裏庭へと向かっていた。

 裏庭には広範囲にかけて花壇かだんがあった。

 ユウキは大きなジョウロにたっぷりと水を汲んで、花壇に植えられた色とりどりの花に水を注ぎ始めた。

 しばらくの間その作業に夢中になっていると、突然背後から声を掛けられた。


「お花は好きかい?」


 声の聞こえた方へ振り返ると、カウボーイハットを被った背の高い大人がユウキを見下ろしていた。


 放課後のカウボーイだ。


 放課後のカウボーイはカウボーイハットを目深に被っていて顔の表情までは見えない。


「お花は……好きかい……?」

「うん……好き……」

「君のお花を……見せてくれるかい……?」

「え……?」


 放課後のカウボーイは戸惑うユウキを花壇へ勢いよく押し倒した。


「ぎゃっ!」


 放課後のカウボーイは慣れた手付きでユウキの体操ズボンを下着と一緒にずり下ろした。


「ぎゃっ!」


 放課後のカウボーイは声を張り上げて立ち上がると足早にその場から去ってしまった。


「放課後のカウボーイ……? 何っ……怖っ……」


 ユウキは震えながら下着と体操ズボンを履き、お花への水やりを放ったらかしにして駆け足で帰宅した。

 ユウキは危機一髪のところで、放課後のカウボーイの魔の手から逃れる事ができた。

 ユウキはふと学校のクラスで話したリクとの会話を思い出した。


「男子だけが襲われる学校の怪談だよ」


 ユウキは少年の様に短く切り揃えた髪を自分の手で撫でながら一言呟いた。


「女子で良かった……」


 放課後のカウボーイが次に現れるのは、君の学校かもしれない。

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ずっと放課後のカウボーイ 川詩夕 @kawashiyu

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