11.3.作戦実行準備


「……で、私の力が必要だと?」

「らしいんだわ。まぁ殿のためにな」

「私は死ぬつもりは毛頭ないが」

「いいんだよそれで。俺たちが逃げられる時間を稼いでくれればそれでいい。お前なら余裕だろう?」

「……ふむ。できなくはない。また貴様らに好き勝手言われては面倒だ。此度は私も出張るとしよう」

「おおー。地獄の獄卒さんがよーやっと重い腰をあげなすったかぁー」


 地伝に今回の作戦を説明した刃天。

 どうやら付き合ってくれるということだったので、帰り道に問題は生じないだろう、と少し安堵できた。


 しかし同行するとは思っていなかったので面食らう。

 ありがたいことではあるが、彼がこういった姿勢を取るのは珍しい。

 何か、他に理由があるのだろうか?


「先も言った通りだ。好き勝手されては面倒だからな」

「ああ、そう。出立は明日の朝。さっさとやって、さっさと終わらす」

「承知した」


 時刻を伝えると、地伝はすぐにその場から去ってしまった。

 これから特にやることもないだろうに、いったいどこへ行くつもりなのか。

 とはいえ刃天には関係のないことだ。

 とにもかくにも伝えなければならないことは全て伝えた。


 あとは、数名でダネイル王国に向かうのみである。

 他に準備しなければならないものは特にない。

 アオは作戦を練り続けており、チャリーは馬車と道中の食料などの調達に取りかかっている。


「……あ。地伝って何食うんだ……?」


 興味がなかったので全く知らない。

 だがこの世の飯の多くは美味いものが多いので、別に気にしないでいいか、と勝手に決めつけた。


 さて、刃天がやる仕事はもうない。

 あとは他のメンバーの準備が整うのを待つばかりだった。



 ◆



 刃天がアオの下に戻ってみれば、なにやらガリガリと手紙を書いていた。

 こちらに気づいたアオは一旦手を止めて顔を上げたが、軽く挨拶をしてすぐに作業に戻る。


「何してんだ?」

「計画……精査中……」

「ほん?」


 中身を覗こうとしたが、そういえば刃天はこの世の文字を読めない。

 刃天は『そうだった』と小さく笑ってその場を離れ、壁に背を預けた。



「地伝さんはどうだった?」

「此度はあいつも同行するらしい。何かあっても確実に逃げられるぞ」

「本当!? うわぁー心強いなぁ……!」

「まぁ動くかどうかは分からんがな。だが目立つぞあれは。どうする」

「んー、ローブかなにか身に付けてもらう方がいいかなぁ」

「絶対に着ないぞ?」

「じゃあいっそのこと牽制で傍においておくよ」

「地伝をそんな風に扱えるのはお前だけだな」


 くつくつと笑いあう。

 アオはそのまま紙に視線を落とした。

 まだもうしばらく精査の時間が必要らしい。


 邪魔しないようの口を閉じたあと、気配を探って周囲の状況を把握する。

 すると、チャリーがもどってきているようだった。

 目を開けて扉を開けば、今し方取っ手に手を伸ばしたチャリーが空振る様子を視界にとらえる。


「……見計らいました?」

「俺が気づいてからここにお前が来るまでの時間が短かっただけだ」

「そうですか」


 やり取りを切って部屋の中に入る。

 一応作戦参加者が揃ったので、アオも紙から目を離して顔を上げた。


「チャリー、どうだった?」

「大まかな準備は整いました。馬車も手配を済ませましたので、行こうと思えばすぐに行けます。アオ様が良ければ、ですが」

「うん。道中でまた作戦を考えるから大丈夫かな」

「しかし……この人数で大丈夫でしょうか? 敵地のど真ん中に行くわけですし……」

「地伝さんも来るらしいよ」

「……刃天さん。どうやって説得したんですか」

「さぁーな」


 わざと教えない、という風に振る舞ったが刃天としても地伝がどうしてついてくるのかよくわかっていない。

 なにか他の考えがあるような気がするのだ。


 とはいえ、鬼の考えなどわかるはずもなし。

 刃天はすぐに考えることをやめた。


「じゃあ、行くのは四人ね」

「地伝さんがいるのであればなんとかなりますね。では馬車に荷を積んできます。明日の朝に出立できるようにしておきますね」

「うん、お願い」


 軽く一礼すると、チャリーはすぐに部屋を出ていった。

 出立は明日だ。

 それまでにやらなければならないことは特にない。


 アオもヴィンセン領にある井戸に水をいっぱいに溜めてから出発する予定だ。

 なのでこれから少し歩き回らなければならない。

 ベレッド領に届ける水も新しくしておけば問題ないだろう。


「よーし、僕が不在でも大丈夫なようにしておこう!」

「そんじゃ行くか」


 アオが頷いたあと、二人はヴィンセン領を歩き回るために外に出たのだった

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る