10.12.Side-チャリー-手を組む
「後にして欲しいんですけど!」
「今じゃなきゃダメだろ!」
今にでも魔法を使って逃げる気満々なチャリーを、デルクは何とか留めようとする。
そんな様子を双子とリタンは眺めていた。
時間がないのだ。
チャリーがこうしている間にも、レノムは何かを画策していいるかもしれない。
アオが傍に居る時に攻撃しなかったのも何か考えがあってのことだ。
それを実行させるわけにはいかなかった。
「ほんっとに時間が無いんです!」
「よし分かった三十秒くれ! いいかよく聞け! 俺はヴィンセン領の人間で水不足を解決するために動いている! お前と二人の反応を見るに、アオ? だったか!? そいつはウィスカーネ家の子供だろ! 生き残りがいるとは聞いている! そいつが協力してくれるってんなら、俺もすべての情報を差し出す! チャリー! お前は帰る前に情報が欲しいんじゃねぇのか!?」
まくしたてる様に言い切ったデルクは、息を大きく吸って息を整えた。
どうやら今の台詞は一息だけで言い切ったらしい。
チャリーは彼の話を聞いて思いとどまった。
確かにテレッド街に帰る前に情報が欲しい。
その点、ヴィンセン領の人間であり、尚且つ水不足を何とか解決しようと暗躍しているデルクと協力関係にあるというのは大きなメリットとなる。
時間は惜しい。
だがそれと同等、もしくは重要なものを彼は持っている。
「~~! 分かりました! 早く情報をください!」
「だがまず確約をくれ! そのアオって奴が手を貸してくれるなら、ヴィンセン領は潤うか!?」
「誰に向かって言ってるんですか! ディセント・ケル・ウィスカーネ家のご子息であるエルテナ様ですよ! できないわけがないでしょう!」
「おっしゃそれが聞きたかったぁ!」
それと同時に二人はようやく手を取り合った。
一応これで協力関係には至ったはずだ。
「じゃあまずはこっちからだ。現状を説明するとヴィンセン領はベレッド領から流れて来る水で何とかやりくりをしている。だがそれも限界が近い。ベレッドの領主は教会に敗北しほぼ傀儡に近い状態で、ヴィンセン領の領主は苦しむ領民の為に自腹はたいてベレッドに金を納めている。自領で生産してる革細工や、狩りの成果だけじゃまかいない切れねぇ。……それと、ベレッド領が豊かな理由は貴族の領土だからだ。最も被害に遭ってんのはヴィンセン領」
「だから苦しんでいる人が居なかったんですね」
「アオってやつが何か起こす気なら、まずはヴィンセン領に来い。そこで領民全員の心を掴め」
「ではこちらも計画を。アオ様はテレンペス王国に寝返ってベレッド領とヴィンセン領を掌握するつもりでした。この事に問題はありませんか?」
デルクは小さく笑った。
「誰でもいい。俺たちを助けてくれや」
「承知しました」
「話は通しておく。恐らくベレッド領の領主もこの話をすれば食いつくはずだ。もう何もしてくれねぇダネイル王国にはうんざりだからな」
「だったら遠慮はいらなさそうですね。メックとレックはここに居て。証人として二人についててね」
「「わかった」」
これだけ聞ければ十分だ。
味方になる可能性がある人間が領主であるならば、打てる手は多くなる。
ヴィンセン領の領民の心だけはアオに掴んでもらう必要があるが、これも何とかなるだろう。
チャリーは一つ頷く。
デルクも頷いたところで、話は終わった。
「では、私は戻ります!」
「おう。気を付けろよ。お前が架け橋なんだ。絶対にアオを連れて戻って来いよ!」
親指を立てて返事をしながら消え去ったチャリー。
それにデルクはもちろん、リタンも目を瞠った。
「光魔法!?」
「そりゃ動揺も少ないわけだぁ……」
二人は乾いた笑いを零した。
メックとレックもそれに混じって軽く笑った。
「「それでどうする? ベレッド領の領主を説得しに行く?」」
「相変わらずとんでもハモリねぇな……。いや、まずはヴィンセン領だ。喜ばせて情報が漏洩しちゃいけねぇ」
「だね。そんじゃ戻ろっか」
「水がねぇんじゃなかったっけ?」
「僕が魔法で移動させれば、今持ってる分で充分だよ」
「先にそれを言えよ」
「無駄に魔力消費したくないし」
そう言いながら、リタンは杖を少し掲げてカンッと落とす。
その瞬間、四人の姿はその場から消え去った。
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