10.11.Side-チャリー-双子!?


 歩きながら先ほど聞いたことを自分なりにまとめていた。

 まずこのベレッド領は水が少ない。

 そのため水が高騰し、更に教会が管理しているので簡単には手に入らないといった印象が強かったのだが、領内の様子を見る限り水不足に苦しんでいるといったような人間は見当たらなかった。

 これは見えているところしか知らないので実態は分からない。


 この領地で最も得をしているのは教会だろう。

 水をどうしても必要とする職業には水を多く提供する様だが、毎月指定額を支払わなければならない。

 それらは『聖水で作られた物』として高値で販売しているようだ。

 つまりブランド商品となっていたらしい。

 だがその取引先がテレッド街とのことだったので、今後この商売は確実に衰退するはずだ。

 まだテレッド街をテレンペス王国が取り返したとは知らないのだろう。


 歴史についてはざっくりとした話しか聞けなかったが、教会側が領主に勝利したということは分かった。

 しかしそうなると現在の領主は何をしているのだろうか。

 教会の支配を認めて退いたのか……この辺は分からない。

 聞いておけばよかった、と後悔する。


 考え事をしながら街を歩いていくと、水売りが水を売っていた。

 あれは水魔法使いであるらしく、桶を持った領民が彼らの周辺に集まってきている。


(やっぱり水が貴重品すぎますねぇ)


 少し話が聞きたい。

 チャリーは水売りに近づこうと歩みを止めた。

 向きを変えて一歩踏み出した途端、景色が変わる。


「!?」


 明かるい空間に居たはずだったが、急に裏路地のような薄暗い所に瞬間移動をさせられたらしい。

 驚いて腰に携えていた二本の短刀を取り出す。

 すると、頭上から声が聞こえてきた。


「「チャリーだ」」

「は……!?」


 ここに自分の名前を知ってる人間がいることに驚きを隠せなかった。

 バッと上を向いてみると、屋根の上に背の低い二人の兄妹が座っている。

 チャリーは彼らを良く知っていた。


「メックとレック!?」

「久しぶり」

「ね、久しぶり」


 二人がそう口にすると、屋根からぴょいと飛んで地面に着地する。

 チャリーは警戒を解くことができなかった。

 そんなチャリーに二人は首を傾げる。


「んん? なんで構えを解かないの?」

「怖くないよ?」

「……」


 無機質に喋る様子は昔と変わっていない。

 今は二人の言葉全てに恐ろしさを感じられた。


 話が違うのだ。

 レノムは双子を殺したと話していたはず。

 だというのに今、目の前に現れた。

 レノム相手に生き残ったというのが信じられず、ここに居るのは本当にあの双子なのかと疑問を持ち続けた。


「なんで構えるの?」

「メック……レック……。あんたたちレノムさんと戦って──」

「「へ? 戦ってないよ?」」

「…………え?」


 聞いていた話とは違う返答にチャリーは困惑する。

 だが嘘である可能性も否定しきれない。

 ……と思ったが、この場合嘘をついているのはレノムなのではないか、という疑念が過った。


「ど、どういうこと……?」

「だから戦ってない。僕らはゼングラ領から上手く逃げてきた」

「レノムさんとは戦ってない。あれからは誰とも戦ってない」

「……信じていいの?」

「信じていいぜぇ~」


 三人は声をかけてきた人物に振り向く。

 するとそこには……先ほど別れたばかりのデルクが立っていた。


「さっきの……!」

「よっ! ほれ見ろリタン。やっぱあいつは大丈夫だったろ?」

「むぅ……。あの双子の知り合いって言うなら……確かに問題ないね」


 してやったり、とクスクス笑うデルク。

 自分の目に狂いがなかったことを証明出来て嬉しい様だ。

 一方疑い続けていたリタンは面白くない顔をしている。

 握っている長い杖から黒い靄をくゆらせていたが、それを霧散させた。


「闇の元素……。さっきの転移は貴方ですか」

「そうだよ。光魔法は自分を。闇魔法は他者をってよく聞くでしょ」

「ええ、知っていますよ」


 リタンは嘆息しながら壁に背を預ける。

 あとはそっちで上手く話し合てくれ、と手でゼスチャーを送って口をつぐんだ。

 これからの話し合いに参加する気がないと理解したデルクが一度鼻で笑ってから向きなおる。


 まずメックとレックを見て、チャリーは本当に信頼できるかを今一度確認した。

 二人が小さく頷いたことを確認し、ようやくチャリーに目を向ける。


「こいつらとの関係性は?」

「ゼングラ領で共に過ごした仲間です」

「ああ、そういうことね。んでなんか揉めてたけど……ダイジョブ?」

「お聞きしますが、二人を何処で?」

「それこそゼングラ領だな」


 デルクの答えに目を瞠る。

 双子を見やるとコクリと頷いた。


「そうなんですか? なんで?」

「俺らはヴィンセン領の人間だ。まぁ追々話すが水不足を何とかしなきゃならなかった。そこでゼングラ領に向かったわけだが……あの事件よ。戦闘に巻き込まれかけた所をこいつらが助けてくれてな」

「メック! レック! 貴方たちウィスカーネ家の側にいて……!」

「「違う違う! ディセント様からの命令だったんだよ!」」

「ディセント様の……?」


 二人は慌てて否定する。

 アオの父親、ディセント・ケル・ウィスカーネ。

 話を少し聞いてみれば、戦闘が始まる予兆があったのだが、その時にディセントは二人に頼んでできる限り部外者を避難させてくれと命令したのだ。


 常に後ろ髪を引かれる思いだったが、二人は言いつけを守って多くの人々を避難させた。

 だがゼングラ領に戻ることはできなかったのだ。

 その理由は……二人がウィスカーネ家に仕えていたから。

 あの後戻ればすぐにでも拘束され、エディバンやドリーのようになっていただろう。


 二人はそれが分かっていた。

 だがそれでも、命令には従った。


「僕たちは戻れなかった……。ディセント様の命令は、つまりそういうことだった……」

「二人の証言は俺が保証するぜ。助けてもらった礼として、今は一緒に行動してる」

「……つまり、メックとレックはゼングラ領から出て誰とも戦っていないんですね?」

「ん? ああ、まぁそうだな。少なくとも人とは戦ってねぇ」


 これを聞いたチャリーは鳥肌を立てた。

 メックとレックが今の今まで誰とも戦っていないのだとすれば……。


 レノムの発言は、嘘だということになる。

 今彼女はどこに居るかを思い出し、手で口を覆って目を瞠った。


「チャリー? どうしたの?」

「レノムさん……私たちと合流してる。アオ様の側にもいた……」

「「アオ?」」

「エルテナ様」

「「!!」」


 二人の反応は良い物だったが、それに構っている場合ではない。

 チャリーは一刻も早くこの事をテレッド街に伝えなければならなくなった。

 だがまだ情報が集まり切っていない。

 このまま調査を中止してしまっていいのか、と葛藤するがアオの命が危険に晒されようとしているかもしれない今、こちらのことは後回しにすべきだと判断した。


「私はテレッド街に戻ります。ダネイルから取り返したテレッド街の維持が怪しくなる!」

「……ん!? ちょ、ちょっと待てどういうことだ!」

「話している暇はありません!」

「お前の様子見りゃ分かるがちょっと待て! マジで待て話をさせろ!」

「なんですか!」


 デルクはバッと手を差し出した。


「手を組もう!」

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