10.9.破壊・調査開始
新しく芽生えた新緑の芽が、心地よい春風に揺られていた。
次第に暖かい陽気になって来たことで生命の息吹も多く感じ取れるようになり、鳥や虫などが生を謳歌するために空を飛び回っている。
遥か上空には渡り鳥が飛んでいるようで、これから寒い地域へと向かっている様だ。
季節の変わり目を肌でも視界でも感じられる時期である。
ドン、ドン。
そんな平和な空間を小さな地響きが襲った。
音と地響きは次第に近づいてきており、驚いた鳥たちはすぐさま止まっていた枝から飛び立って避難する。
ようやく指定されたポイントに到着した地伝は『ふう』と一息だけ付いて息を整えた。
この辺りは浅い森で、木々の間隔も広く豊かな緑が広がっている場所だ。
そんな所にはもちろん小川が流れており、流れの方角はヴィンセン領とベレッド領の方角だということが分かった。
今日の地伝の仕事はこれを破壊することだ。
だが自然すべてを丸々破壊するというわけにはいかないので、森から抜ける所まで歩いていった。
しばらく歩けば森を抜け、ただ細い小川が流れているだけの場所に辿り着く。
「ここに池を作れば良さそうだな」
ため池がここに作られれば、自然は維持できるし人間に届けられる水は失われる。
仕事も完遂出来て森も守れるのだから、これ以外の選択肢はなかった。
地伝は早速仕事に取り掛かる。
「出番だぞ」
腰に携えていた地獄の刀の鯉口を聞いた。
鉄が無理矢理折れるような轟音が響いて、ようやく抜刀される。
久しぶりに本気で刃を振るうことができそうだ、と地伝も少しばかり高揚していた。
最後に本気で戦った相手は誰だっただろうか。
ここ数百年は己の力を封じ込めていた気がする。
地獄の日本刀もようやく使ってくれる、と喜んでいるのか、刀身から燃え上がる炎の勢いが衰えることはなかった。
むしろより燃え盛っている様だ。
双方やる気十分。
地伝は丁寧に柄を握り込み、上段の構えを取った。
「十だ」
そう口にした瞬間、既に刃は振り抜かれていた。
途端に地面が隆起して炎がそれを更に持ち上げる。
轟音と灼熱が一気に襲い掛かり、持ち上げられた大地がその熱によって溶けて消えていく。
大地が熱されて表面が硬くなり、熱波によって近くにあった木は炭になってしまう。
小川の水もこの一撃ですべてが蒸発してしまい、ヴィンセン領とベレッド領に向かう水は一瞬で消えた。
後ろを振り向くと森は健在であり、水もまだ残っている。
熱波が後ろに行かないように斬ったが、どうやら成功したようだ。
今の一撃で大地震が起こったが、地伝はそれと同時に足を叩きつけて地震を無理やり止めた。
そのせいもあって森の被害は一切出ていないようだ。
「まだ、衰えてはいないようだな」
己の力を今一度確認した地伝は満足そうにしながら日本刀を納刀する。
ちらりと後ろを見てみれば、巨大な穴が掘り起こされており、それは真っ黒に焼かれていた。
冷めるまで水が入ったとしても水は貯まらないだろう。
時間を稼ぐといった意味でも、良い選択だと思った。
仕事を終えた地伝は踵を返してテレッド街に向かって歩いていく。
その背後には未だに燻る大地が残っていた。
◆
「うわ! うわわ! わあああ!?」
「ヒィイインッ!」
「ど、どうどう! どうどーう!」
とんでもない大地震。
馬が驚いて足を上げたので、チャリーは落ちそうになってしまう。
だがそこは鍛え抜かれた馬上術で何とか耐えた。
すると、地震は意外と早く収まってしまう。
それによって馬も落ち着いたらしく、頭を振るいながら鳴いた。
思わぬ出来事に驚いたチャリーは後ろを振り向いて遠くを見やる。
ここから見えるものなど何もないはずだったが、遠くで赤い炎が少し吹きあがったことを確認した。
「……地伝さんかな……? とんでもないですね……」
チャリーも彼の力は知っている。
熱に強い耐性を持っており、更に怪力を有しているのだ。
村にいる間はその力を制限していたが……どうやら地震を引き起こせる程の怪力を持っているらしい。
絶対に敵に回したくはないな、と思いながら手綱を操って馬を走らせる。
チャリーの仕事はこれからだ。
手始めに向かっているのはあのベレッド領だが、そこの内情を探らなければならない。
アオから詳しい考えを聞いたわけではないが、水売りを調べれば何かが分かるのだろう。
あとはその水売りを動かしている頭が誰か。
水売りについては簡単に調べられるだろうが、彼らの頭を発見するのは時間がかかるかもしれない。
今回は聞き込みも重要になってきそうだ。
チャリーは馬を走らせながら気合を入れる。
己が調べ上げた情報が、今後アオの役に立ち、彼はそれを駆使してこのベレッド領を攻略するつもりなのだ。
あやふやな情報を仕入れるわけにはいかない。
とにかく重要な、そして正確な情報を仕入れて戦いの戦局を優位な方向へか傾けられるものを用意しなければならなかった。
責任は重大。
だがそれをやるだけの価値がある。
「やりますよ~……!」
手綱を操って馬を更に早く走らせる。
チャリーが見ている方角には、既にベレッド領が見えていた。
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