10.6.準備……


 住民の暖かい見送りに手を振りながら、一行は馬車で山を下りていった。

 この面子で馬車になるのは久しぶりだ。

 今回は鬼も同席しているが。


 一行は山を下りてすぐにテレッド街へと向かった。

 街まではそこまで時間がかからない。

 移動距離は二日半といったところだろうか。

 道中でテノ村に向かっていると思われる兵士も数名すれ違ったが、どうやら冒険者だったらしい。

 恐らくテノ村ではなくレスト領へ向かっているのだろう。


 そんなこんなで街に着いてすぐに目に入ったのは、大規模な水路工事をしている作業員たちの姿だ。

 こちらに向かって水路を繋げようとしている。

 距離もあるので相当な時間がかかるだろうが……メノ村の方は地伝があらかた片付けてくれた。

 水源から麓までは完全な小川を作り、軽く地面を殴って湖も作ってしまっている。

 ため池の状態なので早く逃げ道を与えてやらなければならないが……。

 まだまだ時間がかかりそうだ。


 閑話休題。


 テレッド街の中に入ってみると、数日で随分様変わりしていた。

 撤去した建造物の廃材などは全て片付けられ、死体や血痕、焼け跡なども綺麗になっている。

 街のインフラもある程度回復したらしく、住民たちが商売をしたりといつも通りの姿に戻りつつあるようだ。


 目立つのは騎士団の多さだろうか。

 街の中を規則正しく歩いて警護に当たっている。

 このテレッド街には城壁らしい城壁という物がないので、こうして巡回させる兵士を多くしているのだろう。

 これもディバノの考えだろうか?


「わぁ~! ここがテレッド街かぁ~……!」

「アオ様は初めてでしたね」

「うん! 前は通りすぎちゃったしね」

「もうそんなに前になるか」

「そんなに前じゃないよ~?」


 刃天は首を傾げたが、これは大人と子供で過ごす時の時間が違うというやつだろう。

 軽く笑ってから『それもそうだな』と口にしておく。


 それから馬車を預けて徒歩で移動することになるのだが、地伝が目立つこと目立つこと。

 だが当の本人は一切気にすることなくそのままの姿で移動した。

 刃天も別に気にしてはいなかったが、アオとチャリーは強い視線に晒されながら足早に冒険者ギルドへと向かう。


「何を急いでいるんだ?」

「貴方たちのせいです……!」

「「?」」


 そんな調子で進むと案外早く冒険者ギルドに到着した。

 以前ディバノはここで仕事をしていたはずだ。

 今回もここに居ると思ってギルドの職員に話を通してみると、案の定奥の部屋に居るとの事だったので全員ですぐに向かった。


 扉の前まで案内されてアオがノックしようとするが、刃天がそのまま開けてしまう。

 アオとチャリーが苦笑いをしながら部屋の中に入ると、ディバノが机に突っ伏して眠っていた。


「ありゃりゃ」

「タイミングが悪かったかもしれませんねぇ」

「おい起きろディバノ」

「「寝かせてあげて!?」」


 こういうところは刃天らしい。

 向こうの都合など一切関係なしに、ディバノの頭をわしゃしゃと撫で繰り回すとバッと起き上がる。


「ふぁ? わぁ! アオ! 刃天さん! チャリーさん! と地伝さん!?」

「ひ、久しぶり~……。大丈夫?」

「眠い……」


 目を擦って意識を覚醒させようとはするが、さすがに活動限界が近いらしい。

 本来ならすぐにでも寝てもらいたいところだが……起きてしまったのなら共有できる事は共有しておきたかった。

 それはディバノも同じ考えだったらしく、体に鞭を打って立ち上がる。


「アオがここに来たってことは……」

「コルトとトールにメノ村は任せることにしたよ。住民たちも説得して残ってもらった。これで次の作戦に移れるよ。テレッド街はどう?」

「なんとか整備を進めて、食料事情やら何やらを解決してるところ……。まだ避難してる人がいるから建物の建造が急務……。クティにはレスト領に戻ってもらって支援を要請しに行ってもらってて、ガノフ騎士団長には僕の指示を兵士に届けて動かす伝令役みたいなことをしてもらってる……」


 今このテレッド街を指揮しているのはディバノで間違いないが、おそらく最も大変なのはガノフ騎士団長だろう。

 だが彼らにもなかなか解決できない問題があるはずだ。


「今一番問題なのは?」

「水! 水路……っていうか川? が開拓村と繋がるまではきつそう……!」

「手を貸そうか?」

「そうしてくれると本当に助かる! 高い水を買わなきゃいけないんだよぉ!」

「はははは……。そうだよねぇ……」


 今このテレッド街はダネイルからの貿易を遮断している形になっているので、水資源が乏しい。

 その結果水を売っている人間がぼろ儲けをしているのだ。

 夏になる間には何としてでも開通させたいと思っていたのだが、アオが来てくれたのであればこの問題は大きく解決する。


 とはいえやりすぎは厳禁だ。

 アオをこのテレッド街に縛り付けるわけにはいかないので、住民全体に十分に水が行き渡る量を維持してくれるだけでいい。

 余裕を持って作りすぎると、水路工事の意味も無くなってしまうからだ。


「……あれ? メノ村?」

「あ、名前が決まったんだ。メノ村になったよ」

「そうなんだ! じゃあ開拓村って言わなくても済むね!」

「だね。他に何か困ってることある?」

「眠い」

「寝よっか」


 一気に気が抜けてしまったのか、ディバノはそのまま倒れてしまう。

 しかし瞬時に反応したチャリーが一瞬で移動して支えた。

 そのまま抱え上げる。


「寝かせてきますね」

「うん。よろしく」

「随分無茶をした様だな。だが、水以外のことは大方手を打ったか」


 あの時と比べて町は見違えるほど綺麗になっている。

 手順を踏んで復興に尽力したお陰だろう。

 ディバノの根回しもあっただろうし、ここは流石と褒めてやらなければならない。


 すると、地伝が口を開いた。


「私はどうすればいい。もう動くか?」

「あれ? 刃天。地伝さんに何も教えてないの?」

「ああ」

「そうなんだ。じゃあ教えますね。地伝さん」

「うむ」


 地伝はアオを見て指示を待つ。

 台詞は既に考えていたらしく、アオは迷うことなく説明した。


「とある地形を壊してきてください」

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