9.13.Side-チャリー-ダネイルからの手紙
夜に紛れる為、暗い色の服装に着替えたチャリーは身を隠しながら以前訪れた領主の屋敷へと向かっていた。
街は酒場から零れる光と賑かさでまだ活気があるように思える。
明かりがある場所を避けて息を殺し、着実に目的地へと近づいていった。
しばらくそんな調子で歩いていると、ようやく目的地にたどり着く。
テレッド街領主、リテッド男爵の邸宅だ。
もしレノムの話が正しければ彼は裏切り者だということになる。
その証拠さえ手に入れる事ができれば、今住んでいる村の問題も結果で挽回できるし、ここ街を掌握することで復讐に向けた大きな一歩を踏み出せるはずだ。
責任重大なこの任務。
絶対に失敗するわけにはいかなかった。
チャリーは身を潜めながら移動する。
時々『実態移動』を使えばばれることなどまずないはずだ。
大きな庭を横切って真新しい邸宅にたどり着く。
新たに増築を行っているようで、建築のための資材が多く積み重なっていた。
身を隠すのに丁度いい。
気配を殺しつつ、資材に登って建築途中の建物に飛び移った。
「さて……と」
ここからが本番だ。
移動している最中も見張りの兵士が幾らか散見できたが、『実態移動』を使えば問題はない。
とはいえ見張りが多いのは厄介だ。
帰るとき困ってしまう。
そんなことを考えながら、真っ暗な窓を探した。
二階にある窓に目星を付け『実態移動』ですぐにそこまで到着する。
流石に戸締まりはしっかりとしているらしい。
窓は開かなかったので『実態移動』でささっと中に侵入した。
(侵入時は鉢合わせたりするので使いたくないんですよねぇ……)
今回は運が良かった。
暗い中で目を凝らしてみれば、この部屋はどうやら子供部屋らしい。
大きなベッドから小さな寝息が聞こえてきた。
子供を人質に取るという手段もあったが、アオの顔がちらついたのでその考えは即刻放棄する。
それに今回は相手に思惑を知られるわけにはいかない。
対処されてしまえば元も子もないからだ。
子供を起こさないように扉の前まで近づき、外の音を聞く。
足音はせず、気配も感じ取れない。
今なら移動できそうだ。
一瞬で扉の外に移動して周囲を把握する。
幸いにして廊下も暗いので、使用人も眠りについている頃合いだろう。
と、なれば……。
(明かりが灯っていた二階……。仕事部屋はそこですかね?)
検討をつけたチャリーは、灯りが扉も隙間から零れている部屋を探しだす。
廊下が暗いので場所はすぐに把握する事ができた。
近くで耳を澄ませてみると、確かに誰かが中にいる。
鍵が閉まっていてもチャリーであれば問題なく侵入できるが、この状態では危険だ。
こういう時は時間をたっぷり使って、中で作業している人間が寝室へ戻るのを待つしかない。
そういえば他にも灯りが点いた部屋があったはずだ。
何処だっただろうか、と二階の吹き抜けから一階を見下ろしてみれば、朝食の仕込みをしているシェフらしき人物が片手に蝋燭を持って去っていった。
一階の灯りは厨房だったか、と知って探索を中断する。
予定通り作業部屋の灯りが消えるのを待つ。
元より遅い時間帯だ。
思ったよりも早く扉が開き、施錠がされる。
部屋の主が去ったことを確認してから、チャリーは『実態移動』を使用して侵入する。
部屋は案の定書斎だった。
机の上が綺麗に片付けられているので、今日は戻ってこないだろう。
更に施錠もされたので、部屋の主が戻ってくる可能性は至極低い。
早速ダネイル王国から届けられた手紙を探し始める。
夜目は利く方なので引き出しや棚を調べることは容易だ。
だがいくら探しても手紙らしきものが一つも出てこなかった。
(流石に用心して隠してるっぽいですね……。こういうときは……)
金庫など、施錠することができる場所に隠されている事が多い。
だが隠し金庫の場所は大方見当がつく。
チャリーは床に触れて光の元素を集め、正確な場所を教えてもらった。
この元素はとても素直なのだ。
こういった使い方をすることはほとんどないし、一般的には知られていない。
実際、チャリーも偶然知った知識だった。
暫く光の元素を集めていると、元素の集合体が棚の一点に集まる。
立ち上がって本を抜き取ってみれば、隠し金庫が現れた。
(鍵開けもできるんですよっ……と)
魔法袋から取り出したピッキング用のツールを使い、簡単に解錠する。
ようやく中身を確認してみれば、幾らかの金塊と手紙が入っていた。
目的の物は手紙だ。
一枚を手にとって印を確認してみれば、それは確かにダネイル王国からの手紙だった。
(任務完了っと……。中身は見なくても大丈夫ですよね。これがここにある事事態がおかしな話ですし。よし、帰りましょ)
目的のものを手に入れたチャリーは、丁寧に金庫を閉めて本を元の位置に戻しておく。
全て整えたあと『実態移動』を使用して外へと脱出した。
雲がはけて強い月明かりが道を照らしている。
邸宅から十分離れたチャリーは、隠れることを止めて堂々と宿へと戻った。
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