9.12.Side-チャリー-証拠


 二人は落ち着いて話のできる場所まで移動する。

 丁度この辺りはチャリーが宿を取っていた場所の近くだったので、そちらに移動することにした。


 部屋の中に入って戸締まりをしっかりとし、追手が居ないかどうか入念にチェックしたあと、ようやく腰を下ろして向かい合う。

 レノムは心底疲れたようにしながら椅子にもたれ掛かった。


「監視されてない日なんて久しぶりだねぇ……」

「今までは何を?」

「はは、ダネイル王国とこの街が繋がっていることは知ってたからね。その証拠を、ね」

「奇しくも私と同じ目的……! 私は今から探すところでしたけど」

「ああ、そうなのかい。ま、ちょっと嗅ぎ回っているのがばれちゃったみたいでねぇ。行くところも無いし、暫くは大人しく過ごしてたのさぁ」

「なるほど……。それで……」


 チャリーが言う前に、レノムは小さく親指を立てて成果を示す。

 これにチャリーは目を見張って喜んだ。


「本当ですか……!」

「まぁあれだけ豪勢に着飾っていればね。主犯はこの街を仕切っている領主とギルドのマスター。ダネイルとテレンペス双方から資金援助を得て、防御面そっちのけで街を大きくすることを目的としている。頃合いを見てダネイル側が全部くすねる算段だね」

「これがテレンペス側に知られれば……」

「まぁ領主とギルドマスターは只じゃ済まない。だけどこの街は貿易の街。次の一手がなきゃ維持はできない」


 レノムの言葉にチャリーは頷く。

 テレッド街で生産している物はあまりないらしい。

 この街の不正を正し、テレンペスの領地だけでの支援となるとまた変わってくるかもしれない。


 だが改革とは大体そんなものだろう。

 後の話は措いておいて、今はもっと大きな証拠を得る必要がある。

 レノムは不正の事実を知っているようだが、レスト領が動くほどの証拠はまだ手に入れていないらしい。


「目を付けられていたからねぇ。大きく動けなかったのさ」

「確証が得られただけでも充分です。あとは私が何とかします」

「そりゃ心強い限りだね。だけどダネイルの人間もこの街に多く潜伏しておる。下手をすれば……まぁ言わんでも分かるな」

「目立つ行動は避けますよ」


 さて、これで一応レノムからの話は終わった。

 次はこちらの番である。


「レノムさん」

「なんじゃい」

「エルテナ様が見つかりました」


 その言葉を聞いて、レノムは椅子を蹴飛ばして立ち上がる。


「……本当か?」

「今はアオという偽名を使っています。お会いになられる際は、こちらの名前で呼んでください」

「……そうか……そうか……!」

「アオ様はダネイル王国に一矢報いるため、多くの準備を整えています。カノベール家の人間も味方に付けました。あとはこの街の悪事を暴いて乗っとるだけです」

「……この街の掌握が第一歩というところじゃな?」

「そんな感じです」


 最短で戦うのであれば、やはりこれが手っ取り早い。

 維持と管理は激務になるだろうが、こちらにはディバノがいるのだ。

 彼の手腕を信じよう。


「して……えるて……。アオ様? でいいのかの?」

「です」

「アオ様はいま何処に?」

「ここは危険なので連れてきていないです。仲間も多く集まりましたので、安全な村で待機してもらっています」

「そうか、分かった。ではチャリー」

「はいはい」


 レノムは転がした椅子を起こしながら居ずまいを正す。


「領主の屋敷に忍び込めるかい?」

「私を誰だと思ってるんですか?」

「愚問だったな」


 前回も似たようなことはやったのだ。

 ただ目的が曖昧だったので途中で終わらせてしまった。

 だが今回は確実にこの屋敷に何かがある、とレノムが教えてくれた。

 それを探しだすまで諦めることはできない。


 目的の物をレノムは知っているらしい。

 彼女は真剣な表情のまま教えてくれる。


「手紙のやり取りがあるはずじゃ」

「手紙ですか」

「ダネイル王国から直々に来ている。届けられた手紙の印からして間違いない。人生の半分以上をダネイルの土地で過ごしたのだから見間違うはずはないからね」

「頼りになる台詞です。内容は?」

「流石にそこまで立ち回れなかった。その時くらいに目を付けられてねぇ……。だからこそ確信したようなもんだけど」

「なるほど。何もなければ警戒する必要なんてないですからね」

「その通り」


 そう言うと、彼女はカクンッと頭を落とした。

 すぐに持ち上げたがその表情は眠そうだ。


「限界ですか?」

「……ここ最近、気を張りっぱなしだったんじゃい……。仲間にあえてあの子も無事だ。こんな……時くら、い……」


 ゆっくりと椅子に背を預け、静かに眠ってしまった。

 わざとらしく眠ることは多々あったが、このように限界を迎えて眠る姿は見たことがない。

 この土地に来てからあまり寝ていないのだろう。


 しかしこのままではテナに驚かれる。

 彼女は友人で味方であるとの旨を記した置き書きを机の上に置いておく。

 これで敵対はされないだろう。


 レノムにテナの事を話しておけばよかった。

 だが彼女もむやみやたらに人を攻撃することはないはずだ。

 とはいえ心配なので、テナの事も記した置き書きも作っておいた。

 これで問題ないだろう。


「よぉーし……。そんじゃ、手紙を探しにいきますか」

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