9.4.作戦修正
「僕は反対です」
考えていた策をアオにしてみれば、スパッと否定されてしまった。
悩む素振りすら見せなかったということは、なにか決定的な欠点があるのだろう。
衣笠が問えば、アオは彼の方を向く。
「策としては成功する可能性が高いです。ですがそのあとのことを考えると……どうしても無理です。周囲が敵だらけになることと、ゼングラ領民の不満からそう考えます」
アオは一つ一つ説明していく。
「皆さんと獣人が力を合わせれば容易くゼングラ領を落とせるとは思います。僕とチャリーがいるので喜ぶ領民も多いかもしれません。ですがダネイル王国の中心付近に敵国の領土が出現することにもなります」
ダネイル王国は異物を排除しようと大きく動くはずだ。
その兵力は計り知れない。
「それと、領民は戦争を望んでいる訳ではありません。どれだけ少ない犠牲で落としたとしても、その先に待っているのが戦争なら、多くの不満が出るはずです。この村への移住をお願いしても同じでしょう。誰も最初から村を起こしたくはないはずです」
移住により生活水準が下がれば、これもやはり不満は出てくるだろう。
不自由のない生活は慣れてしまった人にとって手放すのは難しい。
これらの理由から、アオは反対意見を出した。
「であればどうする。放っておけば敵は勢力を強め、ここに雪崩れ込んで来るぞ」
「狙いを変えます。落とすのはゼングラ領ではなく、テレッド街」
刃天と地伝は『なるほど』と呟いた。
この村の立場をあまり理解していない衣笠だけが首をかしげる。
「それでどうなる?」
「まずテレッド街がダネイルに寝返っている証拠を見つけます。そのためにこの村は情報を提供した、という事にしましょう」
刃天が笑いながら顎を撫でる。
「テレッド街ではなくこちらに水売りが来たことに違和感をもった、とすれば気付く理由にもなるか」
「テレッド街の寝返りの証拠を見つけて告発すれば、この村が情報を提供した事実を許容してくれるかもしれないってこと」
「ほお……」
幼いながらによく頭が回る、と地伝も感嘆した。
「おい待て……分からぬ」
「ああ、この村は敵に情報を流していたのだ。露見すれば打ち首だとさ」
「とんでもない村だな」
それは間違いない。
言い返すことができなかったアオと刃天は苦笑いを浮かべた。
だが、テレッド街がダネイルに寝返っているかどうか、まだ確証がない。
チャリーが見てきたことを元に予測を立てただけなので、まずはこれを証明する必要がある。
成功すれば、テレッド街を得られるかもしれないとアオは睨んでいるのだが……。
これはディバノの父親次第だろう。
そのためにも彼にはしっかり出張ってもらう予定だ。
「なんにせよ敵情視察が必須です」
「話は分かった。これが成せれば孤立もせず後ろ楯も確立する。では、水の子に従おう」
「はい。……えっと、その水の子ってなんですか……?」
「貴様のことだ」
「いやそれは分かってるんですけど……。アオ、でいいですよ?」
地伝はそう言われると視線を落として薪を素手で弄った。
「ハッ。鬼も童は苦手か」
「やかましい」
「おっ認めた。気にすんなよアオ。こいつはこういう奴だ」
「知ったような口を利くでない」
「知らねぇ仲じゃねぇだろー?」
「仲がいいんですね!」
「「そういうわけではない」」
「あれぇ……?」
アオはこの二人の関係性が更に分からなくなった。
だがこれだけの軽口を叩き合えるのだから、仲もそこまで悪くはないのだろう。
と、いうことにしておく。
さて、策の修正は終わった。
テレッド街へと調査に向かわせる者が必要となったが、これはチャリーがいれば十分だ。
こちらはこちらで村を育てていかなければならない。
やることは今もなお多くある。
それにともなって課題も大量にあった。
「あ、そうだった。アオ」
「なに?」
「この鷹匠。家を建てられる。それと大体何でもできる」
「えっ! 本当!?」
「あ? なんぞなんぞ? 建前ができる者が居らぬのか? であれば道具を一式頂こう」
「ああー日ノ本の道具ってねぇんだよな」
そこに地伝が割り込んだ
「砂鉄はあるか?」
「知らねぇ」
「では鉄屑でもよいわ。道具であればすぐに作ってやる」
「えっ!? もしかして鍛冶師さんですか!?」
「生業としてはおらぬが、炎と鉄を操るのは得手としている。三百年前鍛冶は極めた」
「お前そんなことできたのか……」
「長く生きていると暇なのでな」
出来なかったことが一気に解決していくような気がした。
鉄製品がここで製作できるとなれば、村の水準は大きく跳ね上がるだろう。
アオは子供らしくキラキラとした目線で二人を見た。
「刃天より凄いですね!」
「どういう意味だコラ!」
「はっはっはっはっはっはっは!」
「鬼と人を比べるべからず」
「じゃあ僕ディバノに伝えてくるね!」
「待てコラ! おい!! アオー!!」
騒がしく出ていった二人の背中を、呆れながら見送った。
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