第五章 疑念の答え
5.1.火葬
嗅ぎ慣れた煙の匂いは過去を多く思い出させてくれる。
だがその中で楽しいと思える記憶はほとんどと言っていいほどない。
仲間と共に焚き火を囲み酒を飲みあった時に、楽しいと感じたくらいか。
それ以外は苦しいものばかりだったように思う。
集めた枝木に火を着け、ドリーを火葬する。
この辺りはアオの魔法でずぶ濡れになってしまったため、少し離れた場所から乾いた物を調達しなければならなかった。
とはいえ大した手間ではなく、比較的容易に枝木は集まった。
この世に火葬という風習はないらしく、話を聞いたアオとチャリーは驚いていたように思う。
ではどうするのか、と刃天が聞いたところ土葬という言葉が返ってきた。
土に埋める行為は変わらないが、肉を焼いて骨にするか、そのまま土に埋めるか……という違いがあるらしい。
(まぁ、そっちの方が肥しになるやもしれぬしなぁ)
そんなことを思いながら、パキパキと音のする大きな火を眺めた。
今回火葬を選択した理由は、特にない。
強いて言うなれば埋めるのが楽だから、というくらいだ。
二人も特に気にするようすはなく、刃天の指示に従った。
今は刃天と同じように……燃える火を眺めているだけだ。
「さて、どうするか」
「やることは決まっています。まずは小さな村か、水に関連する問題を抱えている町、村に向かいたいですね」
「まずは恩を売る、か。その方が俺としても楽だな」
「ギルドで登録ができないんですもんねぇ……」
「そういうこった」
この辺りのことは既にチャリーに共有している。
あの水晶は下手人を判別する力を持っている物であり、刃天が触れてしまうと真っ黒に染まりあがってしまう。
名前を選別水晶といっただろうか。
さすがにあれは予知できないし回避することもできなかった。
なんにせよ、刃天は冒険者として活動することは不可能。
これだけで相当不利な立場に置かれているわけだが、やりようは他にもあるらしい。
チャリーが口にしたのもその一つ。
言い方は悪いだろうが、恩を売って依存させてしまおうという話だ。
水不足が多く発生しているこの近辺では、水魔法を使える魔術師の存在は重宝される。
大きな国では水を保持し続けられるかもしれないが、村や小さな町ではそう都合よくはいかない。
そこに付け入るのだ。
村を救って英雄となり、そこを拠点に力を蓄えて認知してもらう。
ゆくゆくは村から町となり、国となれば目的を果たせる準備が完了する。
道のりは長いだろうが……それでもやる価値はあるだろう。
俗に言う下剋上というやつだ。
その一端に加われるというのだから、刃天としてもこの世で生きる意味と目指す目標を見出だせるので丁度いい。
アオについていく限り、退屈はしないだろう。
「まぁ……最初の内は大変だろうけどね」
「シュイシュイ」
「んん?」
アオがぽそりと呟いた言葉にロクが首を縦に振って肯定する。
珍しく言葉の意味を捉えきれなかった刃天は小さく首を傾げたが、大したことではないだろう、として言及は避けた。
「まっ、なにはともあれ次の村にいかねぇとなぁ」
「その前に刃天にお願いがあるんだ」
「お?」
振り返った青い瞳がこちらを真っ直ぐに見つめている。
簡単な頼みではなさそうだ、と思った刃天は居住まいを正してアオに向き直った。
「言うてみろ」
「街道を戻って追っ手を何とかしてほしいの」
「……はっはーん、なるほどね」
一瞬思考し、その必要性を理解した。
アオはこの近くにいる追っ手を警戒している。
ドリーとの会話で彼奴が近くにいることは分かっており、彼に施されていた契約魔法で己らが今何処にいるかも把握されているだろう。
情報を共有されたとき、最も早く動くのは隣街に潜んで待機している追っ手連中。
これを早い段階で仕留められれば、こちらが自由に動き回れる時間も増えるというもの。
だがそこで考えてしまうのは『幸喰らい』だ。
追っ手が何人かわからないが、確実に数人は切り伏せなければならない。
また道がなくなりそうだ、と胸の内で呟いてから栂松御神を撫でた。
「いいだろう。ともなれば、暫し別行動か」
「そうなるね。僕たちはここで待ってるよ。片道四日だけどたぶん向こうもこっちに来るから……」
「鉢合うのに二日、もしくは一日か。相手が馬を使ってくるなら二日で終わらせてやろう」
「頼りになりますねぇ~……」
「お前も頼られるくらい強くなれ」
「ふぐ……!」
捨て台詞を吐き、踵を返す。
相手の情報伝達がどれ程のものか分からないので日程にズレが生じるかもしれない。
手早く終わらせたい刃天は『早く来いよ』と胸の内で呟きながら街道を歩いていった。
残された二人は刃天の背中を見送ったあと、互いに目を見合わせる。
「僕たちはある程度でいいから村の位置を確認しよう。護衛よろしくね」
「任されました!」
「シュイ!」
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