第9話 俺は、姉からデートに誘われる。
(side:健一郎)
チュン チュン
日差しとスズメの鳴き声で、俺は目を覚ます。
俺は起きた瞬間、昨日の出来事を思い出して、深いため息をつく。
「昨日はあれだけで済んで、本当に良かった」
昨日の夜のことを思い出していると、のどの渇きを覚える。
渇いたのどを潤すため、下へ水を飲みに行こうとベッドから起き上がる。
すると、右腕を掴まれる。
「どこ行くの?」
服を若干はだけさせた姉が、俺の右腕を掴んでいた。
起きてたとは、と思いながら俺は行先を答える。
「ちょっと下に水を飲みに」
「その前にぎゅーして」
姉が甘えた声でねだってくる。
俺はそれを適当にあしらう。
「昨日散々したじゃないですか。嫌ですよ、離してください」
「むぅ、ならわたしからいくから」
姉がそう言って俺の腕を引っ張り、俺をベッドに引きずり込む。
引きずり込んですぐに、姉は俺に抱き着く。
「またですか?やめてください、こんなこと」
「いやっ」
「なら、どうすればやめてくださいますか?」
姉は俺の問いに、即座に答える。
「わたしのことを静って呼ぶこと。お父さんやお母さんのことは実の家族を呼ぶように呼ぶこと。
わたしたちに対して敬語を今後一切使わないこと。それがやめる条件」
「それはできません」
俺は姉の条件を一蹴する。
それは言わば、前の家族のことを忘れろ、ということと同義だと俺は考えているから。
それをしてしまえば、今の家が本当の家だと、自分で認めることになる。
俺はこの家では赤の他人でしかない、その事実を否定することになる。
俺は生みの父や母のことを、忘れたくない。
そう思ってるから、俺は姉の条件を吞まなかった。
すると姉は、昨日見たのと同じ真面目な顔になる。
「健くんは、わたしの言葉を実のお父さんとお母さんのことを忘れろ、て解釈したんだと思う。
でもね、わたしは実のお父さんとお母さんのことを忘れろなんて言ってない。
わたしは、わたしのお父さんとお母さんのことを、もうひとつの家族として認識してほしいだけ。それもダメなの?」
「ダメです。できません」
俺は姉の問いかけに即答する。
すると姉はすごく悲しい顔をする。
「そっか。わたしのことも、わたしのお父さんやお母さんのことも、これからずっと、家族として認めるつもりはないってことなんだ。
じゃあ、わたしたちのことを家族って認めるまで、ずーっと健くんのことを抱きしめ続けるからね」
すると姉は、俺に腕だけでなく、脚も使って抱きしめてくる。
まずい、この状況をどうやって解決して下に降りるか考えていると、部屋のドアが不意に開かれた。
「静、そろそろ朝食の時間だから起きなさい。え?あっ……フーン。昨日はお楽しみだったようね」
母はニヤニヤしながらこっちを見る。
俺は母に、なぜこの状況が起こってるか説明しようとする。
「母さん、違うこれは」
「っ!?」
母が驚いた顔で俺を見る。
俺はなんで母がそんな顔したのだろうか、と一瞬思ったが、自分が彼女を"母さん"と今まで呼んだことないのを思い出す。
いやそんなことを考えてる場合じゃない。言い訳できる状況じゃないが、言い訳せねばと俺は焦る。
「これには理由があってこうなったのであって、母さんが想像するようなことは」
「あら、私は別にそういう関係になっても構わないわよ?
だって、あなたたちは姉弟だけど、全く血がつながってないでしょ?
あなたたちが仮に恋人同士の関係になって、結婚したいってなったとしても別に何も問題ないわけだし。
だから、私は一切止めはしないわ」
俺は母の言葉に呆然とする。
義理とはいえ、姉弟が恋人同士になることに対して全く口を出さないというのは、親としてどうなんだ。
「し、しかし」
「私がいいと言ったらいいの。巌さんも、あなたたちが付き合うってなったら、むしろ喜ぶわよ。
『さっさと結婚しろ』なんて言うかもしれないわね。それじゃ、早く降りてきてね。朝食できてるから」
そう言って、俺に説明の余地を与えないまま、母が下へと降りて行く。
俺は母のさっきの言葉に、どこまでも困惑する。
しかし母が降りてこいと言った以上、いつまでも今の状態でいるわけにはいかない。
ん?そういえば俺、かなり焦っていたとは、気づいたら義母の明美さんのことを『母さん』て!?し、しまった。
明美さんのことを『母さん』て呼んでしまうとは。おまけに姉の前で。すまん、父さんと母さん。俺は、ついにこの家の子になってしまった。許してくれ。
「ねぇ」
呼ばれて姉のほうを見る。
見ると、姉がしたり顔で俺のことを見ている。
「ちゃんと呼べるじゃん。なら、わたしのことも静って呼んで」
俺は先程のことでやけくそになってしまい、姉のことを名前で呼ぶ。
「静、いい加減起きろ。朝食食べに下に降りるぞ」
「うん。下に行こっか」
俺が名前で姉のことを呼ぶと、姉が嬉しそうな顔して起きる。
そして姉は、俺と一緒に下に降りる。
下に降りてリビングに行くと、父がすでに椅子に座っていた。
父の名は伊良湖 巌。
背は、標準より高い俺より更に高く、巨躯という言葉がぴったりな体格だ。
肌は浅黒く体のあちこちに怪我の跡が垣間見える。
筋肉がかなりついており恰幅もそれなりにある。
年齢はそこそこいってるはずなのだが年齢を一切感じさせないかなり若々しく見える容姿だ。
そんな父が、俺の姿を見て朝の挨拶をする。
「おう、健一郎、静。おはよう」
「おはよう、父さん」
「おはよう、お父さん」
「!?」
父も母と同じ反応をする。
「つい昨日まで名前呼びだったのに、急にどうした」
「それは、その、色々あって」
俺は目線をそらす。
父は俺と姉の双方を見て、ははん、とニヤニヤしだす。
「ほほう、そういうことか。明美から聞いていたが、なるほどねぇ。
まぁ俺としちゃ、健一郎と静が結婚してくれれば安泰だって思ってるからよ。
それじゃ、俺は自分の部屋に戻るぜ」
父がそう言って席を立つ。
母にあの状態を目撃されてから、なんかよからぬことになってる気しかしないんだが。
「健くん、朝ごはん食べよ」
そんなことを思っていると、姉が俺を向いて言う。
俺はうなづき、姉と一緒にリビングにある食卓の椅子に座り朝食をとる。
朝食をとり終わり、自分の部屋でマンガを読んでいると、部屋の扉をノックする音が聞こえる。
俺はすぐに返事をして、扉を開ける。
扉を開けると、部屋の前に姉がいた。
姉が俺の目を見て突然言う。
「ねぇ健くん。今からわたしとデートしよう?」
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