第2話 危機を救った秘密兵器
私の名前は
都内で活動するホワイトウォッチーズという三人組地下アイドルのメンバーをやってるの。芸名はシルフィ。
センターが銀髪のぷらっち、左が金髪のキンカ。私は緑に染めてるんだけど右側で踊ってる。二人ともなかなかの美人で、提供してもらえる曲もかなりイイ感じなんだけど、なんかぱっとしないんだよね。ライブに来てくれる人はいつも十人くらいだったりする。もしかしたらこのまま自然消滅しちゃうのかなぁと思っていた時に、すごいイノベーションが私たちのところにやってきた。
「今日はこの時計を着けて踊ってみて」
スタッフが持ってきたのは、三本の白い腕時計。
ホワイトウォッチーズというだけあって今までも白い腕時計を着けてパフォーマンスしてたんだけど、今日は新しい腕時計を着けて欲しいと言う。
「これ、どこが違うんですか?」
見た目は今までの腕時計とあまり変わらない。が、スタッフから受け取った時に、ずしりと重みを感じたんだ。まるでリンゴ印のスマートウォッチのように。
「まあ、着けていつもの曲を踊ってみたらわかるよ」
半信半疑で腕時計を着けてみる。着け心地は今までの時計と変わりないが、重みが増した分、左手をちゃんと動かせるかが心配だった。
「えっ!? なに? これ……」
が、踊ってみて私はビックリする。
ぷらっちの動きに合わせて、ビビっと時計から脳へ電気信号が発信されるのだ。
試しにその信号をダンスのきっかけにしてみると、驚くことが起きた。ぷらっちとのシンクロ率が格段に増したのだ。
「予想外にいいよ、最高だよ!」
いつも厳しいマネージャーが親指を立てて賞賛してくれた。ということは、本当にシンクロ率がアップしたのだろう。
「じゃあ、今度は三人横並びで踊ってみて。タイミングは時計からの信号に従って」
ええっ、そんなことしたらぷらっちの動きが見えないじゃん。自分がちゃんと踊れているのか自信が持てないし……。
きっと私は不満顔のまま踊っていたに違いない。先ほどと同じようにビビっと来る信号を頼りにしながら、「やっぱり元の腕時計に戻そう」というマネージャーのコメントを期待して。
「すごいすごい、完璧だよ!」
しかしマネージャーが発するのは、さらなる賞賛だった。
——スタート同期ウォッチ。
新しい時計は、そう呼ばれているらしい。
腕時計がマスターの筋肉の動きの始動を検知して、その瞬間サーヴァントの腕時計にそれを知らせる。サーヴァントは、腕時計からの電気信号のタイミングで動き出せば、マスターと同じ動きができるという仕組みだ。
普通のダンスでは、マスターの動きを目で確認してからサーヴァントが動き出してしまうので、コンマ数秒の遅れが生じる。その遅れを極限に減らすことができれば、シンクロ率は上昇するというわけ。
スタート同期ウォッチを導入してから、ホワイトウォッチーズは三人が横並びでダンスをするようになったの。すると、メンバーとの距離が近くなったと評判になり、お客もだんだんと増えていったんだ。
まあ、そりゃそうよね。お客さんはメンバーを近くで観たくて地下アイドルのライブに来てるんだから。より近い方がいいに決まってる。
そして爆上がりしたシンクロ率もお客さんの満足感に繋がり、リピート率も上昇、口コミで評判も広がってライブ会場を毎回のように満員にすることができるようになった。
そんなある日、私たちのもとに新しい仕事のオファーが届く。
「ショッピングモールでのヒーローショーなんだけど、出てみる?」
ヒーローショー?
それって、なんとかレンジャーみたいな戦隊と怪人が戦うショーだよね。
そんなショーに私たちみたいな地下アイドルの出る幕があるの?
しかしマネージャーは別のことを考えていた。
「ほら、スタート同期ウォッチでダンスが格段に良くなっただろ? あれをヒーローショーに応用できないかって思ってるんだ。例えば腕時計をもう一本作って、怪人にマスターになってもらえば、どんな攻撃だって避けられるじゃん」
避けられるじゃんって簡単に言っちゃって。
ダンスが良くなったっていっても、腕時計の役割は電気信号を出してるだけなんだよ。ちゃんとシンクロしてるのは、ダンスの内容がメンバーの頭の中に完璧に入っていて、ちゃんと動けるトレーニングを欠かしていないからなの。わかる? そっちの方が大変なんだから。
ヒーローショーをやることになったら、怪人の動きや避け方を完璧に覚えなきゃいけないってことじゃない。ただでさえライブで忙しいのに、そんなことまでやってられないよ。
「ヒーローショーで人気が出たら、もしかしたらメジャーデビューもあるかもよ?」
「「「やります!」」」
思わず私たちは引き受けていた。
メジャーデビューがかかっているならやるしかない。
ヒーローショーの練習はかなり過酷だった。
普段のダンスは曲に合わせて踊るから、タイミングを合わせやすい。
が、ヒーローショーの場合、曲がない状況で腕時計からの電気信号だけを頼りに動くことになる。動きが完璧に頭の中に入っていなければ、怪我に繋がる可能性もある。
でも私たちはやり遂げた。
怪人の攻撃を間一髪のタイミングで避けられるようになったのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます