第2話 燃えさかる学校

「えっ!?」

その光景でもちろん驚いたが、一緒に観ていたカイトの叫び声で余計に驚いた気もする。

 確かにこの映像はショッキングだ。内容としては、いつものように北の国から飛翔体なるものが海に不法投棄されたとかで、官邸で記者会見をしていたところらしい。

 テンプレートのように遺憾の意を示している、まさにその真っ最中に……


「いやいや、あれじゃないか? ほら……フェイクニュースみたいな!」

 幸いにもカメラは固定されているらしく、倒れたあとの遺体は映っていない。カイトは人差し指を立てて、誰もが最初に思いつく可能性を口にした。

 ひとまず自分のスマホでも確かめてみることにする。

……やはりトレンド入りしている。「総理」というワードの入った書き込みが8万件を超えているらしい。


 タップしてみて一番上に出てきたのは、さっき見せてもらったものと同じく20秒弱の切り抜き動画。つい30分ほど前の投稿なのに、すでに10万ものいいねが付いている。

「放送事故やん」

「トラウマになった」

「誰かに撃たれた?」

「でも官邸の中だぞ?」

「撃たれたっていうより爆発に近いよね」

などなど、様々なコメントで溢れている。そして、大手のニュースアカウントも【速報】としてこの出来事を記事にしていた。どうやらこれは、本当にテレビの生放送中に起こったことらしい。


「やっぱり本当らしいね。今日はマヤがいないから、いい感じに過ごせると思ったんだけど……全部ふっ飛んだわ」

「ああ……」

 ふたたび向かい合って座った私たち。私とカイトだけでなく、みんながお通夜の雰囲気になった。

 静まり返った教室で、声をあげた生徒がひとりいた。最初に動画を観せてくれた子だった。


「ちょっと待って……!」

スマホを見ながら、思わず片手で口元を抑えている。総理の動画を観たときと同じくらいの緊迫した様子を見せるものだから、周りのみんなも注目する。

「どうしたの?」

「え、犯人が見つかったとか?」

その子は首を横に振るばかりで、詳細を話そうとはしなかった。私を含めた人間の輪ができ、そのスマホを覗きこんだ。


 とある一言を添えられた写真があった。

それを見た私は、無意識のうちに「えっ」と声を出していた。


【総理の死を言い当てた予言者発見!】


 誰かがその文章とともに、動画投稿サイトのスクリーンショットを添付していた。

そこにはシークバーと、「エラい人が死んじゃいます」という字幕。

そして【シニガミちゃんの未来予報】と書かれたタイトルが映っていた。

……いや、ここで問題になってくるのは決して字幕でもタイトルでもない。


 肝心の「投稿者」の姿が、ことだ。他人の空似であればよかったものの、彼女がマヤであると裏付ける証拠がはっきりと映っている。

「マヤちゃんだ!?」

「しかも制服じゃん……」

「さっきの映像もやばいけどさ、これ……もっとやばいんじゃないか?」


 いったい今日という一日だけで、どれほどの衝撃を受ければいいのだろうか。

総理の頭が破裂して、鮮血でいっぱいになる決定的瞬間が拡散されたかと思いきや、同級生がその事件を予言していたりと……いろいろとワケが分からない。


「学校に苦情の電話とかきそうじゃない?」

 誰かがふとそう言って、私たちは職員室へと急いだ。この制服はデザインが少し特徴的だから、ネットユーザーの手にかかればすぐにバレてしまうだろう。

 いつも通りであってくれと願ってノックもせずにドアを開ける。


 先生が集まっていた。みんなして受話器を耳に当てている。電話を切ったかと思いきや、矢継ぎ早にまた違うところからかかってきているみたいだ。

「いよいよまずいな……」

「大変なことになったね」

私とカイトは顔を見合わせる。学校が特定された今、私たち生徒はこれからどうなるのか想像もつかない。

 元はといえばマヤのせいだが、そもそも、本当に予言なんてしたのだろうか? まだ動画を確認していない。私は職員室前の廊下で「シニガミ 未来予報」と検索する。

出てきたのは、皮肉にもメイクもバッチリなマヤのサムネイルだった。再生ボタンを押す。

……ふざけた口調ではあるものの、内容はまるっきり合致している。投稿されたのも昨日だ。

【シニガミちゃんねる】なんていう、不謹慎なチャンネル名も実に気になる。


「とりあえず教室に戻ろうぜ」

カイトはその場にいるみんなに呼びかけた。不安と、納得のいかない顔をしてはいるが、ぞろぞろと階段のほうへ移動を始めた。

 そんな中、ふいに校内放送が流れた。

「全国生徒にお知らせします。まだお昼休みの途中ですが、至急、自分たちの教室に戻ってください」

校長が喋っているらしい。これだけを言い残すと、すぐに放送は切られた。


「絶対、マヤちゃんのことだよな」

「うん。それ以外にないもんね」


◉ ◉ ◉


 結論からいうと、この日は午後から放課となった。

総理大臣が派手な死に方をする最悪な一日だったが、ちょっとした朗報もあった。

この一件で学校側は、生徒たちの安全を確保するという名目で、夏休みを早めて翌日からにするという決断を下したのだ。

 そして騒ぎの当事者とは、未だに連絡がつかないという。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る