シニガミゲーム
膝関節パキオ
第1話 緊急告知
「突然ですが! 明日のお昼にエラい人が死んじゃいますっ! 頭がナイナイになっちゃうのぉ……生放送中に起きるからね、気になる人は仕事や学校をズル休みしてでもテレビを観てごらん? きっとみんなにとって一生の思い出になるからね! お楽しみにー!」
あ
【釣り乙】
たぬきうどん
【通報しました】
となりのコソドロ
【これって犯行予告じゃない?】
タクヤ
【可愛いからヨシ!】
・・・
12時00分。動画投稿サイトに突如としてアップロードされた短い動画は、開設されたばかりのチャンネルであるためか再生数は少なく、通報をほのめかすコメントや、若い女が「顔出し」をしているリスキーさに触れるコメントなどが数件、見られるのみであった。
◉ ◉ ◉
「あれ、今日マヤ休み?」
「さぁ? なんか電話にも出ないし、既読もつかないし……」
「もしかして事故とか?」
「事件だったりして!」
カバンから教科書を取り出しているときに、私がいうところの「金魚のフン」たちが唐突に口にした「マヤ」という名前に、一瞬だけ硬直した。
教室に姿が見えないと思ったら、どうやら今日は来ていないらしい。少なくとも足を引っかけられたりする心配はなさそうだ。
思えば嫌がらせをされるようになったきっかけなんて、本当に些細なものだった。彼氏とやらに貰ったという高級なバッグやルージュの写真を自慢されて、反応に困って「へぇ……」と、いわゆる塩対応をしてしまっただけなのだ。
それからというもの、友達を味方につけては教科書を隠したり、トイレに行こうとしたときなどにわざと教室の出口を塞いだり……堂々と幼稚なことばかりする連中だけど、マヤという司令塔がいない今、彼女たちはごく普通に談笑をするだけで私に干渉してくる気配はない。
回想と安堵をしていると、ほどなくしてチャイムが鳴った。同時に先生も到着する。
相変わらず、シャツが少しだけヨレヨレだ。入学したばかりの頃と比べると、艶のあった髪も心なしか傷んでいるように見える。
30代にさしかかったとはいえ、おしゃれをサボるタイプの人だとは思っていなかった。そう考えていたところ、金フンのひとりが声をあげた。
「先生ー、今日ってマヤお休みですかー?」
「あー……そうね、今日は体調不良ということで、一日お休みするそうです」
先生の報告に、金フンの二番手もすかさず続く。
「でもさ、電話とかしても全然出ないし…もしかして重い病気とか?」
「風邪かもしれないとは言ってたけど……とりあえず電話は控えて、しっかりとお休みさせてあげましょう」
私からしてみれば迷惑な話だが、マヤは意外にも学校を休むことはなく、毎日学校に来ていた。あんな人間でも風邪は引くらしい。
やがてホームルームが終わり、私に話しかけてくる者がいた。裏切り者……とまでは言わないが、見捨てた人だった。
「なぁ、トモミ」
「……久しぶりだね、同じクラスだけど」
私は思わず、嫌味を言ってしまった。
「なんかごめんな。けど今日はマヤちゃんいないから、さ。また前みたいに普通に話せると思って……ね?」
幼馴染としか言いようがないが、コイツは私が絡まれるようになってから、なんとなく距離を置くようになったのだ。今の今まで。
……鬼のいぬ間に洗濯、ではないが、マヤのいぬ間に、ようやく自然な会話ができると思ってすぐに彼を——カイトを受け入れた。
そして、久々にのびのびとした気持ちで授業を受け、問題なく用を足して、次の授業の準備もして……
当たり前の行動が当たり前にできる、ただそれだけで喜びを感じる単純さに自分で呆れながらも、昼休みを迎えた。
「トモミ、一緒に食ってもいいか?」
「おかず分けてくれるならいいよ」
いつもの関係に戻ったのだから、妙に腰を低くしなくてもいいのにと思いつつ、私は条件つきで承諾した。カイトは犬のように表情を変えては、前の席の椅子を借りて向かい合わせに座った。
「お前、コロッケパンだけか?」
「前は弁当だったけど、あんまり長々と食べてたらあいつらが来るからね。女らしくないもの食べてるとか、いちいちうるさいのよ」
「あー……それでおかず乞食になったのか」
「まぁね。とりあえず卵焼きちょうだい」
私の要求にカイトは、箸でつまんだ卵焼きをコロッケの上に乗せてこようとする。
そんなやり取りをしていたときだった。周りの生徒たちが騒がしくなったのは。
「これ観た?」
「観たよ! てか普通にやべぇよな?」
「こんなこと日本で起きるんだね」
「これ歴史の教科書に載るんじゃない?」
教室で昼休みを過ごしていた皆々が、ひとりのスマホに集まっては、自分のスマホもと確認している。
私たちは目を合わせ、立ち上がった。
「どうしたの?」
「すごい盛り上がってるけど」
一番近くにいたグループに声をかけると、「これ観て」と動画をみせてきた。
そこには記者会見をする総理大臣がいて、これがどうしたのかと二人で画面に近づいたとき——
画面の真ん中に、真っ赤な花火があがったように見えた。
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