第3話 人殺しの少女
【
「四憑…… 聞いたことがあるような、無いような。 まぁ良い、場所が分かった、こういう時は焦らず警察に電話をしよう、地図は駄目でも、非常用の回線か何かがあるかもしれない」
俺は独り言で、気を紛らわせながら、スマホで110番に電話をかける。
プルルルル とコール音が鳴り始めた。
「よし! いけるかもしれない」
プルルルル
……四憑小学校。
――電話をかけながら掲示板を見て、何かが引っかかった。 やはり聞いたことがある学校名だ。
プルルルル
……【四憑】、【休校】、【6月のおしらせ】
聞いたことがあるんじゃない、このプリントの文字を俺は見たことがある。
プルルルル
「四憑、児童失踪事件…… 」
プツン と一瞬ノイズが混じって、電話のコールが途絶えた。
「そうだ、思い出した。 四憑は、俺が遊んでいたホラーゲームの舞台だ。 でも何で? 全く同じ地名なのか―― いや」
この教室も、よく見ればところどころゲームで見た記憶がある。 あっちではドット絵のグラフィックだったから、色と配置ぐらいしか分からなかったけど……
「そんな、じゃあ俺はあのゲームの世界に? たしかストーリーは…… 」
◆
物語の舞台となるのは、その四憑にある廃校。主人公は、かつてその学校で生徒だった人物で、ある思い出を調べるために学校に戻って来る。彼は学校に秘められた謎を解き明かし、なぜか再び現れた怪奇現象と向き合うことになる。
主人公は、高校2年生の男子。 謎めいた過去を抱え、昔の学校での出来事に呼び寄せられ、
学校に魂を繋ぎ止められた幽霊、そして徘徊する殺人鬼との遭遇を回避しながら、事件の謎を解き、散り散りになった登場人物を集めて、その中に紛れ込んだ真犯人――殺人鬼を暴くことがゴール。
◆
「――とかそんな感じだったような。 たしか、真犯人は女の子で、名前は
そう思うと、確かに教室の端々には茶色い染みが付いていて、「やっぱりこれは人の血なのかな…… 」とここがホラーゲームの中なのだと実感した。
事件は、地元の富豪と、地域の信仰に根差した儀式が原因で、それが作中では噂や都市伝説にもなっていたりした。 細かい場面も、ヒントさえあれば、なんとか思い出せそうだ。
「ただ、俺は裏設定とかは分からないからな…… 」
普段は徹底的に考察まで楽しむのだが、四憑を舞台にしたこのゲームは、ステージやシナリオの規模が大きく、そこまで至っては居なかった。
「本当に、ここが四憑なら、俺は無事に生存できるのだろうか。 出来るだけ仲間を助けて、どうせならトゥルーエンドを目指したいけど…… 」
俺は掲示物を再び確認して
「この教室は5の1…… プレイヤーと同じ目線か」
ならばここは新校舎の2階、最初のイベントはここの1階にある、昇降口。
「まずはここを移動しよう」
俺が教室を出ると、タッタッと足音を鳴らし、廊下の奥から誰かが走って来る。
「ゲームではこんなイベントは無かったはず、一体誰が! 」
俺は急いでスマホのライトを消し、教室に戻り息を潜める。
そいつは、俺の居る教室内に駆け込み、ガラガラとドアを閉めた。
「(はぁ、はぁ……) 何なのよ、ここは―― 」
どうやら息を切らした声の主は、女の子のようだ。
でもこの口調…… 初期に誰かに出会うイベントなんてあったっけ?
その時、俺はうっかり、手に体重をかけて、ギィと床を
「きゃぁ! な、何?! 誰かいるの! 」
無言で、やり過ごせるだろうか? 俺は体勢を直そうとして、またギシッと音を立ててしまう。
「ねぇ、誰かいるんでしょ? 」
声の主は、明かりをこちらに向けてきた。 これは仕方がない。
俺はスマホを点けてから、声を掛けつつゆっくり立ち上がる。
「えっと、怖がらないでくれ、敵じゃない。 俺は
「………… 」
制服姿で髪の長い少女は、しばらく逡巡してから。
「
柏原瑠璃。
いま、俺の目の前に居るのは、
ゲーム中盤で出会うはずの、恐ろしい殺人鬼だ。
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