第21話 始まった

 ――――ありがとうございます。


 俺は人がボチボチいる美容院の中で深く頭を下げる。それには勿論理由はある。

 先輩はいやいやながら髪を切ってくれた。

 とは言っても、無理矢理切ってもらったという感じだ。

 しかしこれは這い上がるためには必要な儀式だ。

 この英断が俺の、俺達のこれからを左右する。


「ありがとうございます。これで戦えます」

「戦うって…………、誰と?」

「もちろん第七軍の人達です」

「はへぇ」


 先輩は鏡を見ながら髪を整える。

 今は美容師が混んでいるレジを捌いているので、先輩は椅子に座ったまま放置状態だ。

 美容師って、人手が足りないのかなぁ?


「でも、さすがにやりすぎたかな? 元々髪は短めだったからマンバンもどきみたいなっちゃったけど…………」

「いえいえ。とても良くお似合いですよ?」


 先輩の髪は爽やかさを失った。

 その代わりに髪を後頭部の上の方で結んでいるので、男らしさが増したという感じだ。

 前髪も横髪も全てをその結びに寄せている。

 こういうのはもっと年を取らないと似合わないと思っていたが、先輩みたいなイケメンがやると結構様になるもんだな。


「赤月。お前なんかニヤニヤしてないか?」


 おっと。

 バレてしまった。

 やはりいくら似合っていても、髪型が大きく変わると最初は笑っちゃうもんだよなぁ。

 これは高校生あるあるだ。

 きっと大人になればこのくらいの変化は、隣人が変わる程度にしか感じないだろう。

 …………結構変わるな。



 でも、この散髪が第一歩だ。



 しばらくして、俺と先輩は美容院を出て先輩のお家に戻る。

 そして先程見た先輩のヤンキーファッションをいくつか着てみる。


「おぉ…………」


 先輩は驚いた。

 俺も無言で驚いた。

 想像以上に服が決まっていたので俺もビックリという感じだ。

 先輩は確かにヤンチャ卒業系の大人に見える。

 しかし、つい一時間ほど前とはうってかわった。

 大人は大人でもそこらへんの地元大好き元ヤンおじさんとは違っていて、経営者という感じだ。

 けどまぁヤクザっぽいのは抜けていないんだがな。



 

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ファッ神! キクジロー @sainenn

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