第百話 決着
「やるな! プラム王妃!」
「あなたもです、ゾーリン王」
ゾーリン王とセクシーレディーロボ ビューティフォーを操縦するプラムは、いまだ対峙を続けていた。
双方が長時間動かないのは、その実力が伯仲しているからだ。
下手に先に動くと自分が不利になってしまうため、お互いにわずかな隙を見出そうと神経をゴリゴリと削る対峙を続けていた。
「スキル『剣術』もない雑魚のくせに、よくやるではないか!」
「……」
ゾーリン王の挑発を、プラムは冷静に聞き流した。
彼は世界トップレベルとまでは言えないが、各国の王の中では一番剣術に優れているという評価だそうだ。
そこまで自信があるということは、確実に剣術関連のスキルを持っているのであろう。
少なくとも、『上級剣術』以上のはず。
一方プラムは、剣術関連のスキルを持っていない。
なにしろ、スキル『セクシーレディーロボ ビューティフォー』だからな。
俺もそうだか、どうやらあまりに強力なスキルのため、二つ以上のスキルを持つことができないようだ。
「(そういえば、どうしてプラムに剣術の才能が現れたんだ? 昔は全然だったのに)」
彼女と初めて会った時。
剣を使ってハンター業をしていたが、剣術関連のスキルがなかったので、一年間スライムだけを倒してギリギリの生活費しか稼げない状態だった。
それが、俺にスキル『セクシーレディーロボ ビューティフォー』の使い方を教わってからというもの、俺は無敵剣をプラムに預けることが多かった。
俺よりも圧倒的に上手に使いこなすからだ。
つまり、スキル『セクシーレディーロボ ビューティフォー』には剣術関連のスキルも混じっているものと思われる。
「(ゾーリン王は王様だから、プラムのことも調べたんだろうな)」
剣術の才能がなかったはずなのに、実際に対峙してみると互角に近い状態であった。
最初はプラムを褒めつつも、きっと納得できないのであろう。
だから挑発して、彼女の調子を崩そうとしている。
「自信のある剣術で、プラムに負けそうだからか? 残念だったな」
「新ラーベ王! 貴様!」
ゾーリン王もちゃんと話すことができる機械大人のようで、俺の挑発に上手く乗ってくれた。
こういう時、先に心を乱した方が不利だからな。
「今の私は無敵の王なのだ! そのようなポンコツに乗っているお前たちになど負けはせぬ!」
「お前はポンコツそのものになってしまったがな」
「新ラーベ王! 俺と剣で一対一で勝負しろ!」
「嫌だね」
なんのために、先にる再生機械大人として復活したルーザとフリッツを倒したと思っているのだ。
二人で袋叩きにするに決まっているだろうが。
「なにか勘違いしているようだが、これは剣術の試合ではないぞ。戦争だから卑怯もクソもなく、命を賭けた戦いだということを理解しないのか?」
「王なれば、前線で見事に剣を振るうべきだ!」
「できていなかっただろうが。先日の連合軍の盟主になった時に」
自分と自分の国の軍勢を最高を最後方に下げ、自慢の剣を一切振るっていないくせに。
盟主だから最前線に出るのはどうかと思うが、一番後ろに引っ込んでいたから、ゾーリン王はろくに指揮も執れずに負けてしまったのだから。
「それは私が盟主だからだ! 最初私は前線に出ると言ったのだ! 剣で一人でも多くの敵を斬るためにな! 家臣たちに強く反対されたため、後方で指揮を執らざるを得なかったのだ」
「お話になりませんね」
ゾーリン王の言い分に対し、先に俺ではなくプラムが反論した。
「一国の王にして、他国の軍勢も指揮する連合軍の盟主に就任したにもかかわらず、前線で剣を振るえないからという幼稚な理由で後方に下がり、味方が負け始めるととっとと逃げ出した。そのような王が、いくら機械大人になって剣の勝負を挑んだとしても、ダストン様がそれを受ける理由など一つもありません。挙句のはてに悪の誘惑に乗って自国の王都を破壊し、多くの人たちを殺め、王都から追い出してしまうなど。あなたは王失格です!」
そこまで言うと、プラムは再び剣を構えた。
それに激高したのか。
表情が硬くなったゾーリン王も、臨戦態勢に戻ったようだ。
「ゾーリン王! あなたは私が斬ります!」
「やれるものならやってみればいいさ。剣術のスキルもないくせに」
「今の私にそんなものは必要ありません。 実際、ああたには剣術のスキルがあっても、いまだに私を斬れていないではないですか」
「このアマ! 先にお前を巨大ゴーレムごと斬り裂いてくれよう」
「その言葉、そっくりお返しします」
とは言いつつも、やはりお互いすぐに動ける状況ではなかった。
プラムとゾーリン王は、再びまったく動かない状態で対峙することを続けた。
「これは……千日手なのか?」
どちらかに少しでも隙があれば、それは敗北と死を意味するはず。
両者の剣技に差はほとんどなく、不用意に先に動けば負けてしまうため、とにかく相手に隙が出るの待っている状態なのだと思う。
「(プラム、頑張っていたからな)」
俺の予想では、自身があるゾーリン王は『上級剣術』のはずだ。
他の上級スキルに比べると剣技は人数が多いが、あくまでも他のスキルと比較してのことだ。
希少なので、ゾーリン王に自信を持たせる根拠になっているのであろう。
だが……。
「(プラムも確実に剣が上手くなっている)」
俺の予想では、スキル『セクシーレディーロボ ビューティフォー』の効果と、プラムが俺と一緒にレベルを上げ続けた効果もあるはずだ。
レベル1000超えの人間なんて、俺たち以外まず存在しないのだから。
「(スキルVSステータスとレベルというわけか……)」
緊迫した空気の中で両者の対峙は続き、たとえ動かなくても双方に肉体的、精神的な消耗が激しいはずだ。
だが、下手に先に動けば負けてしまう。
だからこそ、プラムもゾーリン王も動かない。
俺ならすぐに動いて負けてしまいそうだ。
「(プラム、今は動かずに相手の隙を狙うしかない)って!」
俺の心の声に反し、なんと先に動いたのはプラムの方であった。
さすがにこの展開は予想できなかった。
「はははっ! 先に動いたな! バカ者めが!」
ゾーリン王が先に動いたプラムを嘲笑しつつ、これで自分の方が有利になったと確信したのであろう。
悠然と剣を構え、プラムが向かってくるのを待ち構えていた。
そして両者が、剣を構えたまま交錯する。
どちらも技を繰り出したようだが、剣はイマイチである俺にはよくわからないというか、見えない部分も多く、どちらの攻撃が当たったのかもよくわからなかった。
二人はその位置を逆に代え、再び対峙を始めた。
「どちらも無傷なのか? いや !」
一見双方互角に見えたが、すぐにそれは間違いだと判明した。
甲冑を装備した機械大人であるゾーリン王の右肩のパーツの端が、プラムの一撃により切り落とされていたからだ。
「そんな……バカな……」
無言で冷静に構えるプラムに対し、余裕をもって彼女を待ち構えていたはずなのに、攻撃を当てられてしまったゾーリン王はえらく動揺していた。
「俺の剣は、この大陸の支配者の中で一番のはず! 新ゾーリン王妃に負けるなどあり得ない!」
「そうか? ハンターなら、お前さんよりも剣に優れた人なんて沢山いるだろうに」
「うるさい!」
俺の指摘が相当癪に障ったようで、ゾーリン王は俺に対し声を荒げていた。
「私は、王たちの中で一番強いんだ!」
「そうしょうか?」
彼の心の叫びに対し、すぐに反論したのはプラムだった。
「あなたが連合軍の盟主になった時、最前線で自慢の剣を振るったという話を聞きません。実戦経験もないのに一番強いと言われましても……」
「当たり前だ! 私は盟主なんだぞ! 一兵士のように、前線で自ら剣を振るうなんてあり得ない!」
「ならば、一番強いことの証明になりませんし、元より王に剣技など必要ないではないですか。王には指揮能力があれば問題ないはずです。それなのに、自分の剣技を自慢する。そんなに矛盾した話はありません」
「たとえ自ら剣を振るわなくても、王は剣技を納めなければいけないのだ。家臣や兵たちに舐められないようにな! それに、もしもの時には剣を振るう必要があるかもしれない。そんなこともわからないのか?」
「そのもしもというのは、連合軍が敗退した時でしょうか? あなたが自ら殿を務め、自ら剣を振るったという話は聞きません。ずっと後方にいて、連合軍の前線が崩壊したらすぐにゾーリン王国軍のみを纏めて国に逃げ帰ったと聞いています」
「自軍にはほとんど犠牲を出していない。私は優秀なんだ!」
「ですが、あなたは連合軍の盟主なのでは? 自国の軍勢だけ安全ならいいという話はありません。しかも戦には負けました。盟主どころか王としても失格なのに、剣技を誇っても意味はないでしょう。挙句の果てに、自分の国の首都まで壊滅状態に追い込んでしまって……」
珍しくプラムが強くゾーリン王を批判しているが、間違ってはいない。
新ラーベ王国征服を主導しておきながら、いざ前線が崩壊したらすぐに逃げ出してしまう。
さらに、統治者不在の国々を火事場泥棒的に併合してしまい、新ラーベ王国に戦争で勝利するため自ら機械大人になってしまった。
そして、その巨体で振るう剣技を自慢する。
確かに彼は、王様としてかなり問題があった。
いくら個で強くなっても、国を統治するにのには大して役に立たないのだから。
プラムは、その点を強く批判してゾーリン王の怒りを余計に買っていた。
「(間違いなく相手の怒りを誘っているんだろう)」
現時点でも、剣術ではプラムの方が優れていたことが判明している。
これに加えて、彼女の挑発を受けてゾーリン王が心を乱せば……。
実際、プラムは挑発を続けながらも、剣を構えたのは一分の隙も見せなかった。
「王とは、ただ剣を振るえばいいというものでも、個の強さを自慢していればいいわけでもないのです。純粋な剣技なら、ダストン様はあなたよりも劣るでしょう。ですが、王としてはあなたよりも完全に上です」
「なんだと! 私が新ラーベ王よりも王として劣るだと? 成り上がり者の伯爵の子供が、ゾーリン王家の直系であるこの私よりも?」
「血筋など関係ありません。 結果がすべてではありませんか。大規模な戦を扇動して敗れ去りながらも先に逃げ、一緒に戦っていた国を混乱に乗じで掠め取る。通常の手段では新ラーベ王国に勝てないからといって、ついには自分まで機械大人と化し、その暴力衝動が抑えられず、自分の国まで破壊してしまう。 残念ですか、多くの人たちのためにあなたは生かしておくことはできません」
「言ってくれたな! このアマがぁーーー!」
事実を指摘されブチ切れたゾーリン王は、剣を構えて全力でプラムに襲いかかった。
彼女はこうなることに期待してゾーリン王を挑発したのだろう。
冷静に無敵剣を構え、再び勝者が交錯した。
再び、二人はその位置を入れ替える。
「手応えがあった! 生意気なアマが、この私に逆らうからだ!」
「残念ですが、その手応えは私の機体ではありません。無敵剣の刀身です。そして気がつきませんか?」
「えっ? 気がつく……ああっーーー! そんなバカな!」
ゾーリン王は腰の部分を綺麗に斬られ、上半身と下半身がズレている状態であった。
ああも見事に上半身と下半身を斬り離されれば、たとえ機械大人でも助かる術はなかった。
「私はゾーリン王なんだぞ! 若くて新進気鋭で、将来はこの大陸を統べる……」
「そのような夢物語は、あの世でどうぞ」
「ちくしょうぉーーー!」
斬られた下半身が地面に滑り落ちると同時に、下半身と共に機械大人と化したゾーリン王は大爆発を起こした。
「プラム、さすがだな」
「以前は、こんなに剣は得意ではなかったのですが……。これも、スキルと大幅なレベルアップのおかげでしょうか。あの、ダストン様は……」
「心配してくれてありがとう。すでに死んだものを再び破壊したところで、なんの感情も抱けないから大丈夫さ」
それに、やはり再生機械大人は弱いんだなと。
この世界でもアニメの設定と同じであった事実を確認し、俺は悲しむよりも納得してしまったというのが現実であった。
「勝利はできたが……」
「酷い有り様ですね……」
力を得るため女帝アルミナスの誘惑に乗って機械大人と化し、自分の国の王都や民たちにまで被害を出してしまうとは……。
ゾーリン王国も、 ゾーリン王国に占領されていた国々も統治体制が崩壊してしまっており、新ラーベ王国ががどうにかしなければならない。
「誰よりも大陸の統一を願っていたゾーリン王は死に、そんなことを願ってもいないダストン様が大陸を統一してしまいました」
「こんな皮肉はないな。だが放置するわけにもいかない」
統治者不在で不安定な土地から、またも女帝アルミナスの誘惑に乗り機械大人化してしまう人たちを防がなければ。
俺とプラムは家臣たちにあとの処理を任せてアトランティスベースへと戻ったが、またしばらくは王と王妃として忙しい日々をすごすことになりそうであった。
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