第九十九話 再生親子機械大人
「生意気なダストン! 必ず絞め殺してやるわ! クケーーー!」
「ふんっ!」
パワーアップしたら、さらに下品になったようだ。
ヘビにも変形できるルーザは、素早く俺に飛び掛かった。
急ぎスペース青龍刀で斬りはらおうとするが、体が細いので簡単に避けられてしまう。
前に戦った時は最後っ屁で巻き付いてきただけなのだが、再生しただけあって性能が良くなってるようだ。
ヘビとなったルーザは、連続して軽快に俺に襲いかかってきた。
スペース青龍刀では斬ることができず、体に巻きつかれないように振り払うのが精一杯の状態だ。
「(どうにか攻撃を当てたいが……)今だ!」
ようやくチャンスを見出し、俺は空中を飛んで襲いかかってこようとしたルーザにスペース青龍刀の一撃を入れた。
これで一体目……と思ったら。
「甘いわね、ダストン。私はパワーアップしたのよ」
「そんなバカな!」
なんと、ルーザはスペース青龍刀に巻き付くという器用な技を見せ、そのままアポロカイザーの腕を伝い、胴体に巻き付いた。
「そして、蛇に特化した私は、容易にダストンを絞め殺すことができるというわけ! 食らいなさい!」
「これは……」
以前とは比べ物にならないパワーでアポロンカイザーが締め付けられ、まったく身動きが取れない状態になってしまった。
そして、まったく動けなくなってしまった俺に対しフリッツが動いた。
「はははっ! 以前のマイナス一億度を超えるマイナス五億度の冷気でダストンごとカチカチになってしまえばいいさ! ババア、ご苦労!」
「フリッツ! お前は、誰に対しそんな口をーーー!」
この二人、最後はいがみ合っていたのを思い出した。
復活したからといって、仲直りしたわけではないようだ。
その点は有利なんだけど、アポロンカイザーに強力に巻きついたルーザは、フリッツによるマイナス五億度……そんな温度、 アニメの設定以外であり得ないと思うが、それは事実のようだ。
絶対零度ごときでは何事もないアポロンカイザーが、本当に凍り付いてしまったのだ から。
そして、一緒にルーザも凍り付いてしまった。
自分の勝利のために、実の母親すら犠牲にする。
感心はできないが、フリッツの悪知恵は大したものと言えよう……などと感心している場合ではなかった!
「まずい! コックピットの中まで寒くなってきた……」
アポロンカイザーに搭乗した際に着ているスーツは、絶対零度くらいではまったく寒さを感じない作りになっている。
ところが今は、少しでも気を抜いたらそのまま凍死してしまいそうなほど寒かった。
「 このままでは……」
「いい気味だな、ダストン! もうすぐお前は死ぬんだ」
「お前の母親も死んだがな」
「親は、子のために身を投げ出して当然というものさ」
などと偉そうに言うが、フリッツはただ単に自分が可愛いだけだ。
せっかく再生したというのに、すぐにカチンコチンに凍りついてしまい、ルーザもある意味哀れな人かもしれない。
「カイザーサンレインボーアタァッーーーク!」
「なにも起こらないじゃないか。ダストン、もうすぐ死ぬか?」
最大の必殺技である、カイザーサンレインボーアタックを発動させてもなにも起きず、ほんの少し寒さが和らいだぐらいだ。
あまりの超低温のため、カイザーサンレインボーアタックでも暖かくならないのだ。
「パワーアップにもほどがあろうだろう……」
再生機械大人というのは、アニメでも大して強くなかったはずなのに……。
「ババアが巻きついたまま凍り付いて身動きも取れず、もう打つ手がないようだな。ダストンはあと何分で……いや、何秒で凍死するかな」
「嫌味な奴だ……」
とはいえ、このままだと本当に凍死してしまうであろう。
プラムとゾーリン王はいまだ対峙を続けており、俺を助ける余裕なんてない。
それよりも、もし俺がこのまま倒されてしまうと、フリッツはゾーリン王と対峙しているプラムを容易に攻撃できてしまう。
「このままでは、プラムも……」
「そこそこいい女だが、俺様に靡かなかった中古品に興味はないね。すぐにお前と同じく凍死させてやる。あっそうだ! 先にあっちを始末するか」
フリッツの奴。
俺が動けないからといって、先にプラムを倒すつもりか!
「 やめろ!」
「ああ、いい声だなぁ。俺様はそれが聞きたかったんだよ。そんなに恋人が大切か? 俺はこのあと、お前のすべてを奪って世界の王となるんだ。そうなれば、世界中の美女が俺様のものに傅くというわけさ。たった一人の女に拘って、だからダストンは駄目なんだよ」
こいつは言うに事欠いて、好き勝手なことばかりの言いやがって!
俺はもう許さないぞ!
怒りのあまり、今にも凍え死にそうだったはずが、徐々に体の中が熱くなってきた。
「そうか! 俺のスキルは『絶対無敵ロボ アポロンカイザー』だったんだ!」
本物に劣るかもしれないが、最近ではレベルも上がってきて大分強さも近づいてきたはずだ。
スキルがあるということは、俺にも体の中に超圧縮太陽炉が存在するはず。
「俺の体中の超圧縮太陽炉よ! 最大出力で燃え続けろ! そしてアポロンカイザーよ!」
俺の体内の超圧縮太陽炉と、アポロカイザーの超圧縮太陽炉を同時に最高出力まで上げてから、再びカイザーサンレインボーアタックを発動した。
「一回では駄目だ! マイナス五億度の氷が溶け、アポロンカイザーに巻き付いているルーザをも溶かす極輪の太陽よ! もっとだ! もっと燃えろ!」
このまま凍死するよりはと、俺は限界など一切考えず体内とアポロンカイザーに搭載された超圧縮太陽炉の出力上げ続けた。
体内の方はスキルなので、頭の中でイメージするだけだが、間違ってはいなかったようで体が熱くなってきた。
もはや寒くなくなり、続けてアポロンカイザーのボディに巻きついていたルーザもカチコチに固まった状態から回復した。
「フリッツゥーーー!」
「ルーザ、俺の相手はお前だぞ」
「生意気なダストン! 再び巻きついてくれるわ!」
「させるか! さらにカイザーサンレインボーアタックだ!」
凍りついてる時ならともかく、完全に元通りの状態でカイザーサンレインボーアタックを食らったルーザは、徐々にその体が溶け始める。
いくら機械大人でも、カイザーサンレインボーアタックを至近で食らえば無事に済むわけがない。
「連携どころか足を引っ張り合っていたのと、俺に巻きついていたのが仇となったな」
「体が溶ける……死にたくない……」
どうやらパワーアップしたルーザであったが、そのボディーは銀河アパタイト製のままであったようだ。
「二度とこの世界に復活するな! そのまま溶けて消え去れ! トドメのカイザーサンレインボーアタックだ!」
「ダストーーーン! 親不孝者がぁーーー!」
ルーザは最後にそう叫びながら、完全に融解して金属の塊になってしまった。
「親不孝? あんたにそれを言われるとは最高の褒め言葉だ。あとは……」
「ひっ!」
「フリッツ、どうした? マイナス五億度が通用しなくなって焦ったか?」
「俺様にはもっと凄い技があるんだ!」
「なら、見せてみるんだな」
本当に凄い技が繰り出されるかもしれないが、だからといって俺が攻撃を躊躇するわけがない。
不幸なことにフリッツは、凍らせることに特化した機械魔獣であった。
パワーアップしてその性質が変わるということもなく、接近しつつある俺に次々とマイナス五億度のブリザードをぶつけてくるが、スキルのおかげで体が熱くなっている俺と、アポロンカイザーには通用しなかった。
「ひぃ!」
「フリッツ、これでもう終わりだ。お前は二度と復活することもなく、地獄で反省の日々を送るんだ」
「俺様が地獄?」
「当たり前だ。これまでに自分がしたことをよく考えてみろ。お前が天国に行けるわけがないだろう」
むしろあれだけやらかして、まだ自分は天国に行けると思っている精神構造が信じられなかった。
「これで終わりだ」
「そんな! 可愛い実の弟を殺すのか? それも二度も!」
「なにをバカなこと言っているんだ。実の弟だからこそ、不始末をしでかしたら責任を持って処分するだけのこと」
俺は反省している。
ルーザもそうだが、すぐにフリッツを殺さなかったせいでかなりの犠牲者が出てしまったことを。
すぐに殺しておけば犠牲者は一人も出なかったのだが、今さら反省しても死んだ人は帰ってこないだろ。
ならば……。
「今ここでお前を確実に殺しておく。それが俺の兄としての義務というわけだ。覚悟するんだな」
「そんなぁ……お願いします! 許してください!」
さっきまで散々偉そうなこと言っていたのに、フリッツは情けない声を出しながら土下座を始めた。
再生機械大人が土下座をする。
俺は、機械大人とは随分と足の関節などもしっかりしているのだなと、変なことに感心してしまった。
なお、フリッツを助けようという気は微塵もなかったが。
「残念だが、諦めるんだな。貴族のくせに往生際が悪い……」
「うるさい! 死ねぇーーー!」
土下座をしていたフリッツは、俺の予想どおりに一か八かの賭けに出たようだ。
なりふり構わず俺に襲いかかってきたのだが……。
「あがっ……」
「そんなことだろうと思ったぜ」
フリッツは、豪槍(ごうそう)アポロニアスを構えていたところに突っ込み、その体を貫かれた。
「ちゃんと顔を上げて前を確認してから、突っ込むべきだったな。本当にサヨナラだ。カイザーサンレインボーアタァッーーーク!」
「ダストン! お前は俺様のぉーーー!」
カイザーサンレインボーアタックはルーザと同じく溶解した金属の塊になってしまい、これにて再生した二体の機械大人はまたも完全に破壊されたのであった。
「二度と復活してくるな」
俺はそれだけを願ってから、プラムとゾーリン王との決戦いの行方が気になり、急ぎ二人の元へと向かうのであった。
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