第九十八話 決戦

「 あはははっ! これが力なのだ! この力があれば、新ラーベ王など!」


「ダストン! 親不孝者は死ねばいいわ!」


「ダストンを惨たらしく殺してやる! 兄よりも優れた弟である俺様を本気で怒らせた罰だ! 勿論、俺様の誘いを断ったビッチも同じ運命だ!」




 終わった……。

 ゾーリン王国はもう終わりだ。

 現在、王都は瓦礫の山と化した。

 陛下……もうこんな男は王でもなんでもない!

 自身も巨大ゴーレムと化し、さらにわざと悪政を敷いて絶望を感じさせた人々が続々と金属製の巨大ゴーレムに変化してしまい、彼らは王都やその周辺に住む住民を無差別に殺し始めた。

 ゾーリン王もそれに参加しており、重税に耐えかねて先に逃げ出した者たちと、運よく逃げ出せた者以外は皆殺しにされてしまった。

 もはやゾーリン王国は、 機械の巨人が占拠する国となってしまったのだ。

 人間が巨大な金属製のゴーレムと化す。

 事前に何度も新ラーベ王国から警告がきていたか、連合軍に参加していた国々はすべて無視していた。

 そんなことはあり得ないし、『自分たちが暴君だとでも言いたいのか?』と大きな怒りを買うだけだったのだ。

 しなしながら、その警告を無視した結果がこのざまなのだから、我々は笑うしかなかった。


「剣! 私に剣で勝てる奴などいないのだ! はははっ! 少しぐらい剣の腕前に優れているからという理由でいい気になっていたレブン子爵を真っ二つにしてやろうと思ったら、剣が大きすぎて潰してしまった。新ラーベ王を真っ二つにする前の準備運動にもならないな」


「ダストン! 次こそは、あのポンコツごと締め付けてスクラップにしてやるわ!」


「凍らせてから粉々にしてやるぜ! 俺様を一度でも倒した罰だ!」


 王都で殺戮を繰り返している巨大ゴーレムたちの中でも、ゾーリン王と他二体は他のゴーレムたちを遥かに超える力を持っているようだ。

 王都は三体の巨大ゴーレムたち縄張りと化し、他の機械魔獣たちは北上を続けていたのだから。

 ゾーリン王は巨大な剣で王都を破壊し、人々を斬り殺すというよりも叩き潰している。

 彼は剣の腕前に優れており、以前はそれを自慢にしていた。

 ところが、ゾーリン王国にはレブン子爵という周辺国にまで知られた剣の名人がおり、彼に勝てないと知ったゾーリン王は剣の腕前をひけらかすことがなくなった。

 きっとその事実に大きな不満を抱いていたのであろう。

 巨大ゴーレム化したあと、すぐにレブン子爵を見つけて殺してしまった。

 彼がいなくなれば、自分がゾーリン王国でナンバーワンの剣の腕前だと思っているからであろう。


「あの二体……ダストンへの恨み? ダストンは確か……)」


 そしてもう二体。

 確か、新ラーベ王の名前がそうだったはずだ。

 彼に恨みがある……親不孝とか、兄よりも優れた弟とか言っているから、彼の肉親がああなってしまったのであろう。

 大変に不幸なことだが、彼ら三体は人間の頃と同じく喋れた。

 王都から出て北上を開始した、ゾーリン王国各地で発生し続けている巨大ゴーレムたちは喋れないそうなので、彼らは特別ということになる。

 はたして、新ラーベ王はあの三体に勝てるであろうか?


「(どうにかこの王都から逃げ出さなければ……)」


 新ラーベ王に仕官してもいいが、ゾーリン王が勝利するかもしれない。

 危ない橋を渡れないので、今はとにかく生き延びることが重要だ。

 だが、今迂闊にに動けばあの三体に殺されてしまう。

 幸いガレキの中に身を隠しているから、ここなら安全……。


「あーーー! 見つけた! ゴミみたいな人間だぁ!」


「こんな雑魚、ダストンを殺す前の座興にもならないわね」


「家臣のくせに、私を見かけてから頭を下げるとは不敬な! 偉大なる私がお前を見つける前に頭を下げなければ、死刑に決まっているだろうが! 死ね!」


 私は、ゾーリン王に反論する時間的な余裕すらなかった。

 すぐさまゾーリン王が振り下ろした巨大な剣に押し潰されてしまったからだ。

 こんなことなら、一か八か王都から逃げ出しておけばよかったが、それもあとの祭りというもの。

 せめて天国に行けることを祈ることにしよう。




「陛下、王妃様。探索データを転送します。もの凄い数の機械大人と機械魔獣です」


「なるほど。ゾーリン王国でわざと悪政を敷き、これからの生活に絶望した人たちを機械大人にしてしまえば、そう簡単に滅ぼされることはないということか」


「かもしれませんが、それではゾーリン王国が……」


「その点はあえて無視したんだろうな。新ラーベ王国がなくなれば、破壊の後の再生も可能であろうと」


「自分のことしか考えていないんですね」


「連合軍の盟主なのに、真っ先に逃げた奴だからな」


 レップウⅣで先行したミアから、北上を続ける数十体の機械大人と機械魔獣の位置情報が転送されてきた。

 途中にある町や村は大きな被害を受け、生存者はかなり少ないものと思われる。

 もはやゾーリン王国は、国の体を成していなかった。

 目につくものを破壊し殺し尽くした機械大人と機械魔獣の群れが、新ラーベ王国という新しいイケニエにしようとしている。

 軍をゾーリン王国に入れず、俺とプラムと偵察担当のミアで先行して正解だった。


「飛行型機械魔獣の群れを発見しました! ミサイルを全弾発射してから補給に戻ります」


「それでいい。無茶はしないで、『ミサイルパック』も装備して来い。アトランティスベースもすでに前進しているはずだ」


「了解です!」


 レップウⅣは大切な戦力で、ミアは貴重なスキル持ちだ。

 無理はせずに、遠距離から対空ミサイルをぶっ放し続ければいい。

 レップウⅣには、多数のミサイルを搭載できるミサイルコンテナを装備するため、一度アトランティスベースに戻ってもらう。

 遠距離から多数の対空ミサイルをぶっ放し、飛行型機械魔獣を一体でも多く倒してもらうためだ。

 今回は偵察目的であったため、航続距離を確保するために重たいミサイルパックは装備していなかったからだ。


「六体の飛行型機械魔獣の撃墜を確認しました! 補給のため、アトランティスベースに戻ります」


 ミアが操縦するレップウⅣが一時後退し、俺とプラムがとある草原にまで到着すると、そこには数百体の機械大人と機械魔獣が待ち構えていた。


「無秩序に動いているのかと思えば、ゾーリン王の命令は聞くんだな。あいつ、そんなに死にたくないのかな?」


「ダストン様、いくら元は家臣や領民だったとはいえ、機械大人と機械魔獣が人間の命令を……もしかして!」


「そういうことさ」


 プラムも気がついたようだな。

 すでにゾーリン王も、機械大人化しているという事実に。

 そうでなければ、機械大人と機械魔獣の群れが俺とプラムを待ち構えるなどあり得ないのだ。


「それでこれだけの数が一度に……」


 アニメでもなかった……映画でもなかった……ああ、絶対無敵ロボ アポロンカイザーは不人気だったから劇場版はなかったんだ。

 企画はあったので、その資料が続編のそれと一緒に、完全版メモリアルBDにオマケとしてついてきたから、俺は全部目を通して覚えている。

 この手のスーパーロボットアニメでは、数十対一が限界……でもないのか。


「プラム、すまないな」


「いいえ。私はダストン様に救われた身です。それに……」


「それに?」


「最近、ダストン様が言っていたことがわかってきました。こんなに大きなゴーレムを自分の手足のように動かすのって楽しいですよね」


「そうだよな。こいつらは前座らしい。ゾーリン王を倒すため、まずはこいつらからだ」


 元は人間だったが、こうなってしまうと元に戻すことは不可能であった。

 可愛そうだが、すべて破壊するしかないのだ。


「プラム、受け取れ」


「無敵剣も馴染んできました」


「プラムは、俺よりも剣が上手だからな」


 俺はいつものようにプラムに無敵剣を渡し、俺は遠方の機械大人目がけてダブルブーメランを投げつける。

 すると三体の機械大人を切り裂いてから俺の手元に戻ってきた。


「機械大人なのに弱いな」


 レベルアップの影響かもしれない。

 もしかしたら、もうアニメ最終話の絶対無敵ロボ アポロンカイザーよりも強いかもしれないな。

 だからこそ、機械大人を大量に?

 そこまで考えて、

 戦力比を整える神様なんているわけがないか。

 女帝アルミナスも、アニメの時より強くなっているのであろう。

 なにしろ、レベルが上がる世界なのだから。


「ダストン様! 上空に!」


「飛行型機械魔獣か……」


 まだミアが補給から戻って来ていないし、下手に飛んで戦うと地上から集中砲火をしてしまうかもしれない。

 俺は無限ランドセルから、『カイザーガン』を取り出した。

 レベルアップで解放された新しい武器であるが、なぜかリボルバーなのに威力と射程距離に優れた銃という設定で、アニメでもよく飛行型機械魔獣を撃ち落としていた。


「これ、弾が六発しかないのが欠点だな」


 カイザーガンを連射して次々と飛行機械魔獣を撃ち落としていくが、六発撃ったら、わざわざ無限ランドセルから予備の弾を取り出すなければいけないのが面倒くさかった。


「次は、カイザー自動小銃とか使えるようにならないかな?」


 そんな武器は資料にもなかったが、是非出てきて欲しいと思う俺であった。

 本当、弾の入れ替えが面倒なのだ。


「こいつら、清々しいまでに俺とプラムしか狙わないな」


「ゾーリン王の命令なのでしょうか?」


「他にないだろうな」


 そんな会話をしながらも、プラムは無敵剣で機械大人と次々と斬り裂いていき、同時にヘッドレーザーで次に自分に襲いかかりそうな敵を攻撃していく。

 俺も負けじと、地上の機械大人にカイザーキックを繰り出しながら、空の機械魔獣たちを破壊していった。

 プラムも、ヘッドレーザーとダブルブーメランを使って機械魔獣の数を減らしていった。


「これで終わりか?」


 大分機械魔獣の数が減ったので、ゾーリン王国の王都を目指して南下を続けた。

 すると王都には、見慣れない鎧騎士の機械大人……これはゾーリン王だろうな。ついに女帝アルミナスに心の闇を利用されてしまったか。


「連合軍のトップになってあの大敗北。ゾーリン王はプライドが高そうだったから、心が保たなかったんだろうな」


「それよりも、ダストン様! 残り二体は……」


「よりにもよって、一番見たくもないクズ共か……」


「ダストン! 親不孝な子! こうしてパワーアップして復活した以上、そのポンコツを締め付けてバラバラに砕いてあげるわ! 尊き母に殺されて満足しながら死んでいくのね」


「ふんっ! よく言うよ」


 もうこのクソババアには、一切の遠慮も気遣いもしない。

 確かにこのダストンの体の生みの親ではあるが、俺には関係のない話だ。

 それに、すでに人間でなくなった再生機械大人である人工生命体など世間的に見れば母親でないことは明確なのだから。


「ダストン! ゾーリン王から話を聞いたぞ! お前ごときが優秀な俺様を差し置いて王だと! 優秀な弟である俺様を騙して王になんてなりやがって! 俺様が殺してやる!」


「言ってろ」


 バカというのは本当に救いようがないな。

 確かに俺は王になったが、フリッツの力など微塵も関係していない。

 俺の代わりに領主になったのはいいが、まともに領地も経営できなくて法衣騎士に降爵して王都でく燻っていたくせに。

 さらにその不満から機械大人となって、俺の友であるリーフレッド13世を殺しやがった。

 この馬鹿が血を分けた弟だと思うだけで虫酸が走る。


「三対二か……」


「俺様がいれば、一人で二人とも片づけられるさ」


「引っ込んでいろ! 雑魚親子が!」


 俺とプラムでどの的に対応するか。

 答えは言うまでもない。

 俺は、元母であったルーザと元弟であったフリッツをわざと挑発した。


「実の母親に向かってぇーーー! 絞め殺す!」


「ダストォーーーーン!」


「(単純で助かった)」


 アニメでも再生機械大人は出てきたことがあるが、多少性能が上がっていても、残念なことに知能までは向上していないようだ。

 設定だと、機械大人には優秀なスーパーコンピューターが搭載されていると書かれていたが、所詮は昔のアニメの設定だ。

 俺が思っているほど頭がよくなかったというか、これは人間が機械大人化したからかもしれない。

 ルーザもダストンも、本物のバカだからだ。

 ただし、前よりもパワーアップしていることは確実なので油断は禁物だ。


「プラム! ゾーリン王の方を頼む!」


「任せてください!」


 俺がルーザとフリッツの相手をする以上、ゾーリン王の相手はプラムに任せるしかない。

 ゾーリン王は機械大人になっても、得意な剣術に拘っているようだ。

 プラムが無敵剣を構えているのも、彼の戦意を刺激したのかもしれない。

 ゾーリン王も派手な装飾を施した剣を構え、二人は身動き一つせずに対峙して、戦況は膠着状態に陥る。


「(お互いに、千日手となったようだな)」


 プラムのことが心配でないと言えば嘘になるが、彼女の救援に向かうには、まずルーザとフリッツを倒す必要がある。

 俺も、スペース青龍刀を構えて二体と対峙するのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る