第九十三話 コア

「(ダストン様、でもおかしいです。無限の回復力なんて……)」


「(あくまでも推察だが、俺も弱点はあると思っている)」


「(弱点ですか?)」


「 (ヒントは、人間サイズのメリーの方だ)」


 ネオメリーの攻撃をかわしつつ、様々な武器や武装で攻撃して時間を稼ぎながら、俺とプラムは秘匿回線で作戦会議を行っていた。

 このままただ破壊しているだけでは、いつかこちらが疲れ果ててしまう。

 もしそうなったら、俺とプラムはネオメリーによって殺されてしまうであろう。

 確かに彼女の言うとおり、無限の回復力というのは信用できない。

 それに近い機能はあるが、必ず弱点はあるはずなのだ。

 俺なりに分析してみた結果、絶対無敵ロボ アポロンカイザーのアニメ三十六話に似たような機械大人が出てきた。


「(ネオメリーの弱点は、その体のどこかにあるコアだと思われる)」


 コアがあるから、ネオメリーはいくら破壊されても飛び散った破片を再び引き寄せ、回復し、復活してしまうのだ。

 だがもし、コアと思われるメリーの埋まっている位置がわかれば……。


「(コアとなっているメリーの破壊ですか? しかし、首を刎ねても……)」


「(ネオメリーの巨大な顔は、コアではないさ。コアが破壊されればネオメリーは終わりだから、当然コアは一番破壊されにくい場所……腹部か頭部の中心部にあるはずだ)」


「(そこを無敵剣で真っ二つにするのですか?)」


「(あれだけの巨体をピッタリ真ん中から真っ二つにするのは難しいだろう。あの必殺技を使う。カイザーサンアタックだ)」


「(神話で最後に使われることが多い必殺技ですね)」


 絶対無敵ロボ アポロンカイザーのアニメでは、最後にカイザーサンアタックという必殺技が使われることが多かった。

 まるで太陽光線のような超高熱で、機械大人を一気に溶かし、破壊してしまうものだ。


「(そういえば、初めて使うんですね)」


「(これまでは、使わなくても倒せていたからな)」


 カイザーサンアタックは、現時点で最強の必殺技であった。

 決して出し惜しみをしているわけではないが、いくら威力があるからと言ってどんな敵にでも使ってしまったら、すぐに分析されて対策されてしまうかもしれない。

 必要な敵のみに使うということが、秘密保持のためにも必要なのだ。


「(プラム、頼みがある。あいつの動きを止めて欲しいんだ)」


「(カイザーサンアタックを確実に命中させるためですね)」


 それも、メリーの本体がいそうな胸部か胴体の中央部分に確実に命中させる必要があった。

 メリーの本体は頑丈な外部に守られているので、外側からの衝撃にはとても強い。

 だが、恐ろしいほどの高熱で溶かしてしまえば打つ手がないはずだ。

 なにより分厚い装甲の中に埋まっているのだから、高温にさらされても逃げることができない。

 外部が溶け始めた頃には、自分も高熱でその身が保たなくなっているはずなのだから。


「(たからなるべく、正確に敵の中心部分に当てたいわけだ)」


「(わかりました、足止を開始します!)」


 もしこの策が失敗したら、また別の作戦を考えなければ、結局ジリ貧になって負けてしまうであろう。

 成功してほしいものだ。


「行くぞ!」


 俺は上空へと飛び上がり、ネオメリーに対しカイザーアイビームやフィンガーミサイルを連発して相手の気を引いた。

 これまでと同じような戦い方なので、ネオメリーに警戒はされていないと思いたい。

 そしてプラムであったが、俺の攻撃の合間を突いて無敵剣でネオメリーに斬りかかった。

 ところが、その頑丈な両腕で斬撃を防がれてしまう。

 続けてその怪力で押し出され、プラムはネオメリーの真正面の地面に叩きつけられた。


「きゃっ!」


「ふんっ! 惰弱な小娘め! そのまま踏み潰してやる!」


 ネオメリーは地面に倒れ伏したままのセクシーレディーロボ ビューティフォーを足で踏み潰そうとするが、それは立ち上がったプラムによりギリギリのところで防がれた。

 ただ回避は間に合わず、セクシーレディーロボ ビューティフォーのに二十倍近くも体高があるネオメリーによる踏みつけ攻撃を、その身で防ぐのが精一杯だったのだ。

 プラムは全力で、ネオメリーによって踏み潰されないよう両腕を上げて抵抗しているが、 パワーと体重差を考えるとそう長くは保たないだろう。

 だが、ネオメリーはプラムを踏み潰そうとするあまりに動きが止まっており、見事俺の頼みをクリアーしてくれた。


「(動きが止まった……)今だ! カイザーサンアタァーーーック!」


 絶対無敵ロボ アポロンカイザーの胸部より発射された必殺の光線がネオメリーの胴体部分に命中すると、超高温のあまりすぐにネオメリーの体が溶け始めていた。


「なんだこの光線はぁーーー! 熱ぃーーー!」


 俺の予想どおり、メリーの本体を直接攻撃するとダメージが大きいようだ。

 先に溶けてしまった両腕がドロドロになって地面へと落ちるが、メリーの本体は超高温に苦しみ、いつものように回復させなかった。


「このままでは……ぎゃぁーーー!」


「覚悟を決めるんだな! 女帝アルミナスの四天王よ! お前が一人目だ!」


「かっ、下等生物のくせに! アルミナス様ぁーーー!」


 ついに高温に耐え切れなくなったようで、ネオメリーはすべてドロドロに溶けてただの金属の塊になってしまった。


「復活はないか……メリーの本体は……あれかな?」


 一番大きな溶けた金属の塊の中に、メリーは存在するはず。

 ただその本体は完全に溶けており、もう二度と悪事は働けないはずだ。


「ダストン様! やりましたね!」


「プラムが足止めしてくれたおかげさ、ありがとう」


「これぞチームワークですよ」


「確かにそうだ」


 もしプラムがネオメリーの動きを止めてくれなかったら、あれだけの巨体だ。

 適切な場所に、カイザーサンアタックがちゃんと命中しなかったかもしれないのだから。


「一番の難物を倒せた。あとは……」


「南方の戦線が気になりますね」


「急ぎ向かうか」


「もしかしたらもう、戦いは終わっているかもしれませんが……」


「その時はその時さ」


 機械大人となってしまった元貴族たちを操り、最後には自分の体の素材にしてしまった女帝アルミナスの四天王であるメリー。

 こいつが今回の事件の黒幕と思われ、その死により黒幕を失った連合軍はこれで瓦解してくれれば……そんなに甘くないか。

 敵の巨大ロボを倒すスーパーロボット乗りの仕事は終わったので、人間を相手にする一国の王に戻るとしよう。





「……終わったな……」


 私は、巨大ゴーレムたちに破壊されたノースタウンに戻って来た。

 そこには金属の残骸と、巨大ゴーレムたちに踏み潰された死体しかなく、あの時咄嗟になにもかも捨ててこの町から逃げ出した私は、生き残るという点においては間違っていなかった。

 だが、この様子では私の家族も全員死んだかもしれない。

 それを考えると、私は人間のクズかもしれないな。

 ただ私の妻も子たちも、ただ配給される食料と酒を飲み食いして太り、なにか努力することなく日々を無為に過ごしていた。

 私が勉学なり鍛錬するように言っても子供たちは無視していたし、あのままなにもせずにただ生きていくよりは、今死んでしまった方がマシかもしれない。

 かなり末期的な話ではあるが……。


「本当になにもなくなったな」


 新ラーベ国王は、国内の情勢を悪くする不穏分子だった我々を処刑せず、真面目に開発をすれば豊かな土地になるはずのノースランドを与え、衣食住を保証してくれた。

 とても寛大な方なのだか、我々はそれを利用できなかった。

 どんなにチャンスを与えられても、過去の栄光に縋ってなにもできない人たちがいたのだ。

 私もあまり人のことは言えないが……。


「生き残りはいないのか?」


 瓦礫の中を探し続けるが、死体しか見つからなかった。さっき私の家族の遺体も発見している。

 ろくに運動もせず超え太っていたから、私のように逃げ出すことができなかったのであろう。

 私も家族を気にかけていたら、きっとこの死体の仲間入りをしていたはずだ。

 後世、きっと多くの人たちが家族を見せた私を批判するであろう。

 だがそれも、このノースタウンの街でなにもしてこなかった報いかもしれない。


「せめて一人でも生き残りがいれば……」


「ううっ……」


「大丈夫か?」


 若い女性と……貴族の娘であろうか?

 どうやら旧ドーラ王国貴族の娘ではないようだな。

 そして彼女は、一人の子供を抱えていた。

 息子?

 いや、弟かな。

 幸い気を失ってるだけで、ほとんど怪我はしていないようだ。


「……私は気を失っていたようで……」


「潰れた家屋に押しつぶされなくてよかったな」


「あの……家族や他のトワイト王国の貴族たちは?」


「今確認をしているが、見つかった生存者は君たちだけだ」


「そうですか……」


 その後、二人で瓦礫の山を懸命に捜索するが、やはり生存者は一人もいなかった。


「たった三人だけ……いきなり天を突くような巨人が出現して、家を踏み潰して行ったのです。あれは……」


「人間の業だな」


 不満を抱えた貴族たちに、どこからか来た力が与えられ、彼らはそれを破壊に用いようとした。

 その結果、新ラーベ王国の巨大 ゴーレムたちによって完全に破壊されてしまった……命を落としたわけだ。


「そうだったのですか……母の遺体は見つかりましたが、父は……」


「遺体が見つからないということは、巨大ゴーレムになってしまい、新ラーベ王国のゴーレムたちに討たれてしまったのであろう」


 あんな巨大ゴーレムに姿を変えられてしまったあと、領地を取り戻しても意味がないのに……。

 いや、もうそんなことすらわからず破壊衝動に身を任せるだけだった。

 それは、このノースタウンの状況を見ればあきらかだ。


「仇を取るかね? 新ラーベ王国のゴーレムが相手になるが」


「いえ……ここに来てからのお父様は、毎日酒を飲み、お母様と私に辛くあたるばかりで……」


「そうか……」


 新ラーベ王の意図はわからないが、その生活を保障してしまったばかりに、かえって彼女たちを不幸にしてしまったのかも……。

 いや、新ラーベ王は我々にチャンスは与えたのだ。

 それなのに、なにもせずに酒ばかり飲んでいた我々は、領地や爵位、地位を失っても仕方がなかったのだろう。


「知り合いも家族もいなくなって、残るは弟とあなた様だけです。私はどうすれば……」


 まだ若い子だ。

 なにもかも失い、瓦礫の町で佇んでいれば不安になっても当然か。

 年長者である私がなんとかするしかない。


「すべては、一歩前に出られるかどうかだ」


「あの……」


「私は、このノースタウンを再建しようと思う。もしよければ、君もできる範囲で協力してほしい。確実に困難な道になると思うが、新ラーベ王も鬼ではないから援助くらいはしてくれるだろう。協力してくれるかな?」


「はい。私たちにはもう行く場所もありませんし……」


「それは奇遇だな。私も同じだ。まずは亡くなった者たちの埋葬からだな」


 なにもかも失い完全に一からのスタートだが、もはや失うものはなにもない。

 私の残りの人生はすべて、ノースタウンの再建と開発に使おうと決意した瞬間であった。




「化けて気概が生まれた者もいるのか……。陛下より支援は確実に行うようにと言われている。再び堕落するか、大きなことを成すか。将来が楽しみだな」


 機械大人と機械魔獣により壊滅したノースタウンの生き残りはわずか三名。

 陛下より支援は停止するなと言われていたので、国務大臣である私は、その職責において災害支援のための警備隊と、多くの物資や資材を持たせてノースタウンに向かわせた。

 新しい移住者も送り込まねばならず。

 それでも、立地が素晴らしいノースタウンが無事に発展してくれれば……。

 戦争の最中でもあり、忙しい私はすぐにそのことを忘れてしまったが、まさか三十年後。

 ただ生き残ったという理由でノースタウンを任せた元貴族が、ノースタウンの父として多くの人たちに賞賛されるようになろうとは。

 さらに彼には若く働き者の妻と、彼をよく補佐する義弟がいるとは。

 今の私には想像もできなかったのであった。

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