第九十二話 ネオメリー

「プラム! 無敵剣を使え!」


「ダストン様は?」


「これでいい。スペース青龍刀!」




 俺は無限ランドセルから取り出した無敵剣をプラムに渡し、自分はスペース青龍刀を上段に構え、落下速度も利用して一気に標的目がけて振り下ろした。

 落下エネルギーとスペース青龍刀の切れ味のおかげで、象型機械魔獣は綺麗に縦真っ二つとなった。

 続けて、近くにいる機械大人機械魔獣を次々と斬りつけていく。

 プラムも無敵剣を振るい、縦横無尽に機械大人と機械魔獣を破壊し続けていた。


「手応えがないな」


「機械大人と機械魔獣とは、こんなに弱いものなのでしょうか?」


 プラムも不思議がっているが、今は注意しながら倒していくしかないだろう。

 たとえ弱い機械大人と機械魔獣だとしても、俺とプラム以外の人間からすれば脅威でしかないのだから。


「一体として逃がすわけにいかない」


「そうですね、ヘッドレーザー!」


「カイザーニードル!」


 機械大人と機械魔獣は、次々と俺たちに味方を倒され続けても南下を止めなかった。

 こいつらが自発的にというよりは、誰かが命令を出していると見た方が正解であろう。


「プラム、なにか察知できないか?」


「いえ、このこの集団に南下を促しているボスのような存在……もしかして、女帝アルミナスでしょうか?」


「彼女まではいかなくても、彼女の配下の幹部クラスが策を弄している可能性がある」


「見つかればいいのですが……」


「どうやらかなり慎重な性格のようだな。それも、こいつらが全滅すれば策は失敗に終わるわけだから、見つからなくても問題はないけどな」


「全部倒した方が早いですよね」


 それからは二人で、意地でも南下を止めない機械大人と機械魔獣の撃破をひらすら続けた。


「随分と多くはあるが、機械大人と機械魔獣にならなかった元不平貴族たちは少ないんだな」


 ボンドの情報によると、せっかくチャンスを与えたのに、ノースタウンの開発を一切進めず、こちらが支給している酒と食料で宴会をし、俺や新ラーベ王国への不満を述べていただけだったそうだ。

 ノースタウンを大きな街に育て上げ、俺を見返してやろうという気概のある人物は一人もいなかったというわけだ。


「せめて恨みのある相手に一太刀でもと思い、機械大人と機械魔獣になった連中はまだマシだそうで、その気概すらない元貴族たちはそのまま踏みつけられてしまったと」


 心の闇を利用されて機械大人になってしまうのもどうかと思うが、曲がりなりにも以前は国や広大な領地を統治していた貴族たちが、酒を飲んでくだを巻き不満を述べているだけというのもどうだろうか?。

 それは、旧領の統治がこちらが予想していた以上に上手くいくわけだ。

 旧国の貴族たちでも、能力がある者は人手不測の新ラーベ王国にはチャンスがあると言って仕官していたし、大規模農園の経営を始めたり、商売を始めたりと、新しい道に進む者たちも多かった。

 そのどれも選ばなかった者たちの末路というわけだ。

 チャンスを与えても活かせない人というのは存在する。


「最後まで気を抜かずに頑張ろう。ダブルアームトルネード!」


「パイオツミサイル!」


 数が多かったため、俺たちは普段使っていなかった武装と武器の試験も兼ねて、機械大人と機械魔獣の軍団を全滅させることに成功した。


「終わったか………」


「手応えがなさ過ぎますね。やはりおかしいです」


「別におかしくはないよ。お前たちは、まだなにも撃破していないのだから」


「誰だ!」


 急ぎ声の主を探すと、破壊された機械大人の残骸の上に一人の若い女性冒険者が立っていた。

 こんなところに人間が立っているなどおかしいわけで、きっと彼女が女帝アルミナスの配下なのであろう。


「お前は、何者だ?」


「アルミナス様の四天王の一人、機械魔獣のメリー」


「機械魔獣? 人間なのに?」


「私は外見がまったく人間と変わらない機械魔獣。おかげで人間の中に潜り込むことは容易いわ。こういう工作で、アルミナス様から大変に重宝されているのよ」


「メリー……もしや! ゾーリン王に様々な助言をすることで重用されている謎の女性とはお前のことか?」


「そうよ。私が、ゾーリン王の信用厚い『女占い師メリー』というわけ。占い師の方はあまり認知されていないけど、 ゾーリン王は私の助言をよく聞いてくれるわ」


「連合軍の結成か?」


「ええ。バカは操りやすくていいわね。そっちはもう戦うだけだからどうでもいいのだけど、こっちはね。私が手を貸さないと。王族だの貴族だのと言っても、所詮はこの程度。呆れるしかないよね」


「女帝アルミナスの配下なら、逃がすわけにはいかないな。わざわざ登場して自己紹介までしてくれるとは、ご苦労なことだ」


「わざわざ顔を出したのは、勝算があってのことよ。 この機械大人と機械魔獣たち。弱すぎると思わない?」


「ビックリするほど弱かったな」


「まあ仕方がないわ。まだ完成していない部品なのだから。私は人間型の機械魔獣。普段はこの姿だけど、アルミナス様の四天王である以上は戦闘でも力を発揮できるのよ。こうやってね!」


 女帝アルミナスの四天王を名乗ったメリーだが、突然眩い光を放つと同時に、周辺に散らばった機械大人と機械魔獣の破片が恐ろしい勢いで集まってきて巨大な金属の塊となった。

 さらに目を瞑らなければ潰れてしまうほど勢いよく光を放ち、それが収まったと思ったら、全高二百メートルは超えていると思われる女性型の巨大機械大人が姿を現したのだ。


「合体したのか」


「あーーーはっはっ! 戦闘モードになった『ネオメリー』に勝てるかしら?」


「私たちが破壊した機械大人と機械魔獣は部品ですか……」


「そうよ。破壊してもしなくても、結局は同じこと。 だって私がその気になれば、すぐにネオメリーの一部に再合成されてしまうのだから。ネオメリーになった私は無敵よ。絶対無敵ロボ アポロンカイザーとセクシーレディーロボ ビューティフォー。ここで破壊されるがいいわ」


「それはゴメンだな」


 巨大なネオメリーが拳を振り下ろしてきたが、俺もプラムも簡単に回避することができた。

 やはり巨大になった分、どうしてもスピードが落ちてしまうようだ。


「いくら攻撃力は高くても当たらなくてはな。それに……」


 俺とプラムはネオメリーの攻撃をかわしつつ、 二人で同時に膝の関節の裏側を斬りつけた。

 巨大 なネオマリーは、一気にバランスを崩してその場に倒れ込んでしまう。

 全高二百メートルもの巨体が倒れたので、まるで地震が起きたかのように周辺の地面が揺れ、盛大に土埃があがった。

 ここが未開発の荒野で助かった。


「立ち直る隙を与えるな! アームミサイル!」


「ヘッドレーザー!」


「コールドフラッシュ!」


「パイオツミサイル」


 倒れ込んだネオメリーに対し、次々と攻撃していく。

 言うまでもなくすべてが命中し、盛大に爆発しながら周囲に破片をまき散らしていた。


「巨体だったのが、かえって仇となったな」


「はたしてそうかしら?」


「まさか、これだけバラバラにしたのにまだ稼働するのか?」


「ネオメリーは無限の回復力を持った。無敵の機械魔獣なのよ」


 破壊と爆発により、ネオメリーの周囲に飛び散った破片が再び集まり、すぐに元通りとなってネオメリーは立ち上がった。

 あれだけの攻撃を加えて破壊しても、すぐに元通りになってしまう。

 まさに無限の回復力であった。


「大きすぎて動きが遅くても、すぐに回復してしまうから問題はないのか」


「でも、無限の回復力というのはあり得ないのでは?」


「小娘、疑ってるようなら何度でも試してみればいい」


「誰が小娘ですか!」


 プラムは現在十七歳。

 この世界ではあまり小娘扱いされない年齢だし、胸もお尻も大きくスタイルもいいのだが、ネオメリーは二十代前半くらいには見える。

 機械魔獣にされる前の年齢がそのくらいなのであろうが、だとしたらプラムを小娘扱いしても変ではないのか……。


「私は夫のある身です。あなたはどうなのですか?」


「機械魔獣となり、アルミナス様の下で崇高な使命のために働いている私はもう人間ではなく、結婚などという瑣末なものに拘らないのよ」


「結婚できない人に限って、そういうことを言うののですよ」


「……言ったわね! 小娘の分際で!」


 ネオメリーには、人間の頃の感情が残っているようだ。

 未婚であることをプラムに指摘され、かなり激高していた。

 だが、プラムにばかりかまけていると……。


「はあっ! カイザースコップ!」


 色々あって、カイザースコップをかなり上手に使いこなせるになった俺は、プラムに怒っているネオメリーに気がつかれないよう、音も立てずに飛び上がり、カイザースコップでその首を刎ねた。


「やはりスコップは使い勝手がいいな」


「やりましたね、ダストン様」


「プラムの引きつけ方がよかったのさ」


「いくら機械魔獣でも、首を刎ねられてしまえばもう復活できないはず」


 卑怯なやり方だという人もいるだろうが、ネオメリーをた倒せなければ新ラーベ王国の民たちに大きな被害が出てしまう。

 そんなことは気にせず、確実に敵を仕留める方が大切なのだ。


「南方戦線のドルスメル伯爵たちが心配なら」


「急ぎ応援に向かいましょう」


「プラム、いいのか?」


 なぜなら、これまではいくら元は人間とはいえ機械大人と機械魔獣を相手にしていたので、人を殺すという感覚が非常に薄かったからだ。

 ところがこれから向かう戦場では、多くの敵兵を殺さなければならない。

 俺は、自分だけが援軍に向かおうと考えていたのだ。


「私はダストン様に助けていただき、スキルの使い方を教わり、新しい国を人になり、あなたの妻になることができました。私はとても幸せです、その幸せを守るために夫の実の手を血で汚させることはできません。なぜなら私は、あなたの妻なのですから」


「……ありがとう。まあ、ドルスメル伯爵たちがもう勝利してるかもしれないけどな」


「新しい兵器と装備を沢山ありますからね」


「そういうことだ」


「安心しなさい。あなたたちは南に援軍に迎えず、ここで私に殺されるのだから」


「生きていた……」


「クビを刎ねたのに……」


 少し目を離した隙に、切り落とされたネオメリーの首は完全に元通りになっていた。

 無限の回復力というのはホラでではないのかもしれない。

 俺とプラムは、これまでにない危機に見舞われていた。

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