第八十九話 策謀

「陛下、いかがでしたか?」


「メリー、そなたの言うとおりであったな。面倒事だけを俺に押し付けようという意図が見え見えだ」


「しかしながら、陛下は連合軍の盟主となりました。新ラーベ王国を倒せれば、この大陸の覇権は陛下のもの」


「そうだな」


 新ラーベ王国を倒したという功績は大きい。

 分配にしても、連合軍の盟主となって多く汗をかくのは俺だ。

 分け前が多くても、文句は出ないだろう。

 これにより、ゾーリン王国は大国になれるはずだ。


「新ラーベ王国の新王都には、常に巨大な船が浮かんでいると聞く。とてつもない技術力だ。これを我が国が手に入れれば……」


 古臭い他国の王たちが土地が欲しいというのなら、それはくれてやる。

 なにより先に抑えなければいけないのは、新ラーベ王国の技術力と頭脳なのだから。


「本当ならば、すぐにでも兵を出したいところだが……」


「他国の準備が終わりませんので」


「待ち続けてどうなるものでもなかろうに……。ただ待つだけなら置物にだって出来るのだから。我が国が、新王都を抑えるのだ。兵は根こそぎ連れて行く」


「思いきりがよろしいですね」


「すべては覇権を握るためだ」


 一対一では勝ち目が無いが、連合軍ならば数の優位が生かせる。

 新ラーベ王国を必ず滅ぼし、俺はその力をすべて手に入れるのだ!






『人間とは愚かな生き物よな。同類同士で争って合理性の欠片もない。さすがは下等生物。メリー、よくぞ上手く時間を稼いでくれた』


「すべてはアルミナス様のためです」


『南極に作っている基地の完成にはもう少し時間がかかる。完成までの間、どうにかして絶対無敵ロボ アポロンカイザーの動きを封じなければ』


「人間たちは愚かにも、この大陸を二つに割って大規模な戦争を始めます。いかに絶対無敵ロボ アポロンカイザーとて、他に目を配ることはできないでしょう」


『よくやってくれた、褒めてつかわす』


「ありがたき幸せ」


 アルミナス様に褒めていただき、四天王としてこれ以上の喜びはない。

 自分は世界一賢いと思っている愚かなゾーリン王に取り入り、彼に戦争をやらせる。

 同時に、世界中に機械大人と機械魔獣も展開させれば、絶対無敵ロボ アポロンカイザーに勝利は難しいだろうが、大分時間を稼げる。

 その間にアルミナス様の南極基地が完成すれば、我々は一気に攻勢に出てこの惑星を征服できるのだから。

 そして宇宙に進出し、全銀河系を支配する。

 アルミナス様の壮大な野心を聞き、元はどこにでもいるハンターであった私はただ感動するのみであった。

 巨人になる機械大人ではなく、人間に偽装できる機械魔獣になってよかった。

 もしこのままハンターを続けていたとしても、どうせ実家の両親が結婚して子供を産めと、くだらないこと言ってくることは確実。

 ろくに働きもしないのに一家の大黒柱面し、私からの仕送りがなければ生きていけない無能どもが偉そうに。

 そんな煩わしさから解放され、今私はとても充実している。

 人間に対し悪く思わないのかって?

 私に下らない人生と価値観を押し付けてくる人間たちが、どうなろうと知ったことではないわ。

 今は私の言うことを素直に聞いているゾーリン王にしたって、以前のハンターまだったら顔を合わせることすらできなかったはず。

 アルミナス様の力で生まれ変わった私だからこそ、彼は私と顔を合わせた。

 だから私はゾーリン王に上手く取り入ることに成功し、新ラーベ王国と戦争をするよう仕向けるこことができたのだから。


「(もしかしたら、絶対無敵ロボ アポロンカイザーを……あまり欲をかくのはよくないし、打倒絶対無敵ロボ アポロンカイザーはアルミナス様にお任せすればいい。今は人間たちの派手な殺し合いの準備を急ぎましょう)」


 この星を静かに支配するため、愚かで馬鹿な人間は数を減らしておくに限る。

 それにしてもゾーリン王も愚かな男ね。

 王だからといって、必ずしも賢くないことが実証できたのは面白かったわ。


「アルミナス様、もう少しで邪魔な人間の間引きが始まります。ご期待くださいませ」


『妾も楽しみにしている』


 ここで、アルミナス様との通信が切れた。

 次には最良の報告ができるよう、頑張ってゾーリン王に戦争の準備をさせなければ。


「新ラーベ国王と王妃には弱点があるわ」


 それは、あの二人は機械大人と機械魔獣を倒すことに躊躇しないが、人間を殺すことには躊躇いがあるということ。

 甘っちょろいにも程があるし、どうせ連合軍は敗れ去るだろうけど。

 双方泥沼の戦いとなり、人間たちは大きな被害を受ける。

 戦争によりこの世に絶望する人間が多くなればなるほど、アルミナス様が召喚する赤い玉と青い玉を植えつけられる候補者が増えて好都合というもの。


「必ずや、絶対無敵ロボ アポロンカイザーとセクシーレディーロボ ビューティフォーは破壊され、この星はアルミナス様が支配するようになるわ。そして次は宇宙よ!」


 アルミナス様が全銀河を支配する。

 きっと、下等な人間が支配するよりも素晴らしい世界になるはず。


「素晴らしき世のために、邪魔な人間は全員死ねばいいのよ」


 どうせすぐに新しいのが増えるし、あとから増えた若い人間の方が教育もしやすい。

 アルミナス様を神と称え、人間たちは醜い争いをすることもなく従順に生活する。

 きっと、理想の世界が実現するはずなのだから。





「ザクセン王国領内にも、ゴーレムたちの大量生息地があるんだな」


「ええ、ザクセン王国は工業国として有名でした。ここで取れる金属資源を加工することにより技術を蓄え、周辺諸国に金属製品を輸出するまでになっていたのですが……」


「すべて機械大人が破壊してしまった」


「はい、王妃様」


「結局あの機械大人は、どういう人が女帝アルミナスの誘惑に負けてしまったのでしょうか?」


「もしかしたら、スラムの住民かもしれません。バンブー公爵その家族ですが、その機械大人によって一人残らず遺体の確認もできないほどバラバラに磨り潰されたそうです」


「王様のお気に入りなのをいいことに、大分好き勝手やってたようだからな」


「そのため、共同墓地にも遺体を埋葬……ほとんど残っちゃいませんがね」


「墓を作ればいいのに」


「作ったんですが、すぐに墓石が破壊されてしまうんですよ。犯人の候補者には事欠かないほど恨まれてますからね。どうせ再建しても破壊されてしまうので、どうしたものかなと……」


 統治機構と工業力を支えていた工房群が崩壊したザクセン王国であったが、新ラーベ王国が出血大サービスで再建と大規模開発、統治をしていたおかげで、どうにか立ち直りつつあった。

 それに大規模工房の経営者たちは多くが殺されてしまったが、ザクセン王国の技術力を支えていた中、小規模工房の職人たちはほとんどが生き残っている。

 彼らは仕事がない人たちを雇い入れ、シゲールが再建中の工房団地に配置、教育しながら働かせているので、そのうちザクセン王国でも多くのものが生産されるはずだ。

 残念ながら、新ラーベ王国の工業力はアトランティスベースによるチートのせいで嵩上げされているが、非常に層が薄い。

 ザクセン王国の優秀な職人たちは、こちらにとっては好都合であった。

 うるさそうな大規模工房の経営者たちの多くが死んでいたのも好都合だった。

 こういうことを言うと不謹慎だと言われそうだが、最近の大規模工房の経営者たちは職人としての本分を忘れ、いかに経費を削って利益を上げるかしか考えていなかったそうだ。

 賃金が安い地方に工房を移し、王都やその周辺に住むベテランの職人たちを切ってしまう。

 その理由は給料が高いからだそうで、少数だけを指導役として残して、あとは地方の農民の次男以下や、職がない者たちを安い給料で雇う。

 または、王都や大都市にあるスラムの住民を安く雇って使い捨てる。

 不景気になると切られるのはスラムの住民たちからだそうで、このところ不景気で多くの人が仕事をクビになって貧困に喘いでいたそうだ。


「なるほど。だから『お母さん』と最期に……」


 あの機械大人はスラムの住民で、母親が亡くなったか、貧困に喘いでいた。

 そしてその原因となった大規模工房の経営者たちや、彼らとグルで蓄財に励んでいたバンブー公爵 。

 この情勢で贅沢三昧な暮らしをし、政務をバンブー公爵に丸投げしていたザクセン王とその家族は遺体の判別ができないほど 磨り潰されてしまったのか。


「バンブー公爵……因果が巡ったかな……」


 大規模工房の経営者たちとバンブー公爵は、スラムの住民など、不景気になると簡単に切り捨てられ、好景気の時は安金で扱き使える、使い捨ての都合のいい駒だと思っていたのであろう。

 それは事実だったかもしれないが、まさかその中に自分が機械大人になってまで恨みを晴らそうとした者が現れるとは。


「共同墓地に入れようにも、多くの人たちが反対してダメなんですよ。どこに埋葬したものか……」


「誰もいない山奥にでも、そういう墓場を作るしかないな。このゴーレムの大量生息地の近くに、そういう場所はないかな?」


「ありますけど、お参りに行くのも困難ですな。ああっ、バンブー公爵の墓参りをする人なんていませんか」


「可哀想な気もしますけど、彼のせいで多くの人たちが死んでいますからね」


 バンブー公爵は、直接刃物や魔法で多くの人たちを殺したわけではない。

 お金を回さないという手法により、まるで真綿で首を絞めるかのように多くの人たちを貧困に追いやり、死なせてしまった。


「バンブー公爵は、『職がなくて、ザクセン王国に税も納められないような役立たずは、死んでも自己責任だ!』と常々言っていたそうだ。機械大人に殺されてしまっても、『逃げられなかったのは自己責任だ』とか言われるんだろうなぁ」


「実際に言われてますけどね」


 それにしても、バンブー公爵は余計なことをしてくれた。

 おかげでボロボロのザクセン王国を併合し、周辺国の警戒度がさらに増した状態で、こちらが赤字を切りながら国土の再建をしなければいけないのだから。


「実は、女帝アルミナスの手先なんじゃないかと思ってボンドに調べさせたんだけど、そういうことはなかったみたいだ。純粋に自分だけか金を得て贅沢しなかったんだろう」


 そしてこんな奴を、贅沢をする経費を沢山捻出してくれるからといって重用したザクセン王。

 ザクセン王国は滅んでも仕方がなかったのであろう。


「そして、ザクセン王国の貴族たちには呆れるしかない」


 せめてもの罪滅ぼしに、新ラーベ王国に仕官して旧ザクセン王国領の再建と統治に協力してくれればよかったのに、大半が家族と持てるだけの財産を持って、他国に逃げてしまったのだから。

 そのおかげで、わずかに祖国に残った優秀な下級貴族たちや、平民たちを役人、軍人などに抜擢できて仕事が早く進んでいるというのは皮肉な話だな。


「忙しいかな?」


「抜擢していただきましたおかげをもちまして」


 彼は軍を率いて、機械大人により破壊されたライヒの防衛、救援、災害復興に尽力していた。

 下級貴族出身だが、非常に優秀なので将軍に任命している。

 実は彼から、バンブー公爵の哀れな最期を聞けたという事情もあったのだ。


「任務に戻ります」


「俺とプラムは、ゴーレムでも狩るよ」


 お休みだし、これからの戦いに備えてレベルを上げておきたいし、なによりゴーレムから手に入る金属の鉱石は、ザクセン王国の復興のみならず、新ラーベ王国の大規模開発にも必要なものだからだ。


「鉄とコンクリートか」


「国家の礎でしたよね? 確か」


「ああ、それに……」


 新ラーベ王国軍の広がった領地を守るため適正な規模を目指して軍拡中であり、さらに増やした兵員が装備する新装備の生産も必要であった。

 ゴーレムの鉱石は、いくらあっても余るということはなかったのだ。


「プラム、適当なところで切り上げてどこから街に食事と買い物にでも出かけようか?」


「まだザクセン王国は復活していないのに、いいのでしょうか?」


「ザクセン王国の復興は一朝一夕にできることじゃないから、無理は禁物だよ。それに、この前のデートの続きをちゃんとしないとね」


「はい!」


 なんの因果か、王様と王妃様になってしまったので、なかなかプライベートな時間が取りにくくなっている。

 俺は元々庶民なので、上手くストレスを発散させないとな。

 プラムも、追放された王女様から王妃様に祭り上げられたので大変そうだし。


「では、その前にもう一戦!。プラム、あそこにゴーレムいるぞ」


「本当ですね、いきます!」


 それから俺とプラムは、そのスキルを生かして多くのゴレームたちを倒し、大量の鉱石を手に入れたのであった。

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