第八十八話 新ラーベ王国討伐軍
「イーサック王国とマケドニア王国に続き、ついにはザクセン王国まで……。新ラーベ王国の脅威は昨日の迫っておる」
「正式な事情は判明しており、イーサック王国とマケドニア王国は自業自得な点も多いのだが……」
「しかしながら、ザクセン王国の王都を破壊した謎の巨大ゴーレム。あれは一体なんなのだ?」
「同時に、その巨大ゴーレムを倒した、新ラーベ王と王妃が操る巨大ゴーレムもだ」
「目的は理解できているが、いつその力が我らの国に向かうか……」
「もしそうなった場合、我々に勝ち目はあるのか?」
「難しいだろうな……」
今日も各国の王たちが集まっていた。
その議題は言うまでもなく、謎の巨大ゴーレムにより統治機構が崩壊し、新ラーベ王国が併合したザクセン王国の件だ。
巨大ゴーレムは、ザクセン王国の得意分野であった工房群の大半を破壊してしまった。
いかに最近新ラーベ王国に工業力で追い抜かれてしまったとはいえ、ザクセン王国の工業技術の高さは侮れないものがあった。
それがすべて破壊されてしまうなんて……。
周辺国の中にはザクセン王国の工業製品に頼っている国が多く、早速それら商品の品不足が発生し、平民たちの不満が溜まっているそうだ。
新ラーベ王国産に切り替えれば問題ないといえば問題ないが、それは新ラーベ王国に戦費を与えてしまうようなものかもしれない。
だが、必要なものが輸入できなければ平民たちが大騒ぎをするであろう。
自国で生産する……当然どこの国も努力しているが、ザクセン王国を追い抜いた新ラーベ王国に追いつくなどそう簡単なことではなく、今は輸入に頼るしかないのが現状であった。
「さて、北方の巨大な新興国家である新ラーベ王国をどうするかだ……」
極めて短期間で多くの国々を併合し、もはやこの世界で一番の大国であろう。
もし彼らはさらなる南下を始めたとしたら……。
はたして我らは、国を守れるものなのだろうか?
「どの国の王たちも困っているようだな」
「貴殿は困っていないのかね? ゾーリン王よ」
ゾーリン王国の王は、先代の急死で嫡男でやる若い方が即位したばかりのはずだ。
随分と自信がありそうな若者に見えるが、もしや新ラーベ王国との戦争でもするつもりなのか?
「新ラーベ王国は大国でありますが、急速に勃興したので纏まりには欠けるでしょう。滅ぼされた国々の旧支配者層が、国を取り戻そうと蠢動しているとか」
「そういう動きがあると聞くが、すぐに鎮圧されてしまうそうだ」
滅ぼされた国々の旧支配者層たちに内乱を起こさせる。
陳腐であるが非常に有効な策……と思う者たちも多かったが、いざやってみるとまったく上手くいかなかった。
どうやら、新ラーベ王国には優れた情報網が張り巡らされ、反乱を起こさせようにも蜂起前に潰されてばかりであった。
それどころか、新ラーベ王国は仕返しまでしてきた。
どこの国にも反抗的な勢力があり、過去に滅ぼされた国の旧支配者層が密かに祖国の復活を目論んでいるなんてケースは少なくない。
新ラーベ王国の諜報組織が彼らに資金などを提供し、こちらが逆に反乱鎮圧で余計な手間をかけるようになってしまった。
「謀略は難しいのではないか?」
「情報を集めようと諜報員たちを新ラーベ王国に入れているが、ほとんど帰ってこない。いったいどうやって見分けているんだか……」
これ以上の諜報員たちの犠牲は看過できず、仕方なしに商人などを用いた合法的な情報収集をするしかなくなっていた。
「ゾーリン王よ。なにかいい作戦はあるのか?」
「ある!」
「どんな手かね?」
「連合軍を作るんですよ。『新ラーベ王国討伐軍』をね」
私も含め、ゾーリン王の返答を聞いた王たちの間に衝撃が走った。
新ラーベ王国討伐。
それを心の隅にでも考えない者は一人もいなかったが、口に出したものは彼が初めてだったからだ。
そしてその提案が、とんでもないものであるという事実もだ。
「新ラーベ王国を討伐……」
「できるのか?」
「もし失敗したら……」
王たちの中に、ゾーリン王の提案に賛成する者は一人もいなかった。
強く反対する者も一人もいなかったが。
私も含めて王たちはみな、わずかな年月で大国化した新ラーベ王国にいつ国を奪われるか心配で堪らなかったが、だからといって、積極的に戦争を仕掛けて倒そうとは思えなかった。
もし負けてしまったら、まさに藪蛇となってしまうからだ。
今積極的に新ラーベ王国と戦争をし、負けてしまえばい命を失ってしまう。
このまま静かにしていれば、将来はわからないが今は安全だ。
ようするに、私を含めた全員がどうしていいのかわからない状態なのだ。
各国の王たちが集まって、対策を協議しているといえば聞こえはいい。
だが逆に言えば、自分一人で決断できないからみんなで集まってるという考え方もできる。
そしてこれだけの王たちが集まったにもかかわらず、我々はなにも決められず、無為に時間を過ごしていただけであった。
ゾーリン王以外は……。
「考えてもみてください、各国の王たちが集まって対策を協議している間に、ザクセン王国を含め三つの国がなくなりました。すべて新ラーベ王国に併合されています。今手を打たなければ、時間が経てば経つほど我々は不利になるのですよ」
はっきり言って、新ラーベ王国が併合した三ヵ国は、併合しても黒字化するのに長い年月がかかる土地であった。
我々は自国のことで精一杯だから、三ヵ国の統治体制が崩壊しても併合には動かなかったという事情があったのだ。
ところが新ラーベ王国には金があり、今は赤字を垂れ流してる状態だが、三ヵ国の領地は極めて短期間で安定していた。
大規模な開発も始まっており、 我々が予想していたよりも圧倒的に短期間で安定、成長へと向かうはずだ。
三ヵ国のせいで新ラーベ王国は足踏み状態になるという甘い予想は、今完全に覆されていた。
「我々が待てを待つほど、新ラーベ王国は強くなるのです。一方我々はそれほど変わらないでしょう。では、今新ラーベ王国と戦わないでいつ戦うというのです?」
「「「「「「「「「「……」」」」」」」」」」
各国の王たちは、ゾーリン王の問いに答えられずに沈黙したままであった。
「今、この会議に参加しているすべての国が連合軍を結成し、新ラーベ王国を滅ぼす! そうすれば我々は飛躍できます。新ラーベ王国の土地も富も、みんなで分け合うことが出来るのですから」
「そうだな、今しかないな」
「待てば待つほど、我々は不利になるのは事実だ」
「今しかないか……」
王たちは、ゾーリン王の考えに賛同しつつあった。
「最初に声を上げたということで、私が連合軍の盟主を務めさせていただきますが、 新ラーベ王国はすべての国が力を合わせなければ倒せません。必ずや、勝利の暁にはその成果を平等に分配することをお約束いたしましょう」
「おおっ! それなら是非盟主をお願いしたい!」
「そうだな。新ラーベ王も若いから、それに対抗するには若いゾーリン王の方がいいだろう」
「必ずや、新ラーベ王国を 滅ぼしてくれようぞ」
これまではみんな、新ラーベ王国との戦争に消極的だったのに、ゾーリン王の大きな声で全員の意見が変わってしまった。
ゾーリン王は若いながらも一角の人物のようだが、このまま勢いで新ラーベ王国と戦って勝てるものなのか……。
とはいえ私だけが反対すれば、最悪新ラーベ王国打倒の景気祝いのイケニエにされかねない。
兵を出すしかないが、王たちの中には私と同じような意見の者もいるかもしれない。
ゾーリン王を盟主にした件でだって、戦況が不利になれば彼を新ラーベ王国のイケニエに差し出す位やりかねないのだから。
「(みんな、国を保とうと必死なのだ……ゾーリン王、悪く思うなよ)」
みんなと歩調を合わせて兵は出すが、もしもの時は新ラーベ王国と単独で停戦条約を結ぶなどしなければなるまい。
属国になるという選択肢もあるはずだ。
その時には悪いがイケニエになってくれよ、ゾーリン王よ。
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