第八十七話 ザクセン王国滅亡
「きっ! 貴様ぁーーー! その花瓶は五億リーグもするのだぞ! それを……ぎゃぁーーー!」
もうすぐ王都に逃げ込めると思ったのに……。
あの化け物に追いつかれ、馬車とそこに積み込んだ金貨や美術品はバラバラにされてしまい、使用人たちや私兵、大切な愛人は握り潰されてしまった。
私も化け物の両手に捕まってしまい、無能で下品な化け物に対し早く解放するようにと命じたら、足を潰しやがった。
ザクセン王国の陛下より寵愛を受け、宰相兼財務卿であるこの私にこのようなことをしてどうなるのか、必ず思い知らせてやる。
「やめろ! それ以上は! うぎゃぁーーー!」
化け物め!
私の両足と両腕を潰しおって、この報いは……。
「おおっ! やっと来たな! 早く私を救い出して、高価な魔法薬で治療するのだ」
私は、そこら辺の小物政治家とはわけが違う。
たとえ両腕、両足を潰されようとも、生きてさえいれば魔法薬で治療可能なことを知っていたからだ。
それに今、王都より王国軍が出陣してきた。
あれだけの軍勢で戦えば、少しばかり図体が大きいゴーレムなど、簡単に破壊してしまうはずなのだから。
「あーーーはっはっ! 化け物め! これから地獄に落ちるがいい!」
ザクセン王国の精鋭たちが、お前をすぐにガラクタにしてくれよう!
お前のような化け物では、偉大なる私に土下座をすることも出来なかろうが、せいぜい後悔しながらクズ鉄になるがいい!
それこそが、偉大なる私に逆らったポンコツの末路に相応しいのだから。
「偵察の結果、ザクセン王国の統治機能は完全に崩壊しました。王城、貴族たちの邸宅、大商人の屋敷、店舗、工房の大半が破壊され、生活の糧を失った人たちも多く、いまだに機械大人が国内を暴れまわっているためため、他国も手を出しません」
「今のザクセン王国を併合しても、持ち出しばかりで赤字になりますからね」
「ムーアの言うとおりです。ザクセン王国の国力の元は、多くの大規模な工房を始めとする工業でした。もっとも最近では、新ラーベ王国に追いつかれてしまい、売上低下による利益を確保するため、工房を土地代と賃金が安い地方に移転させたり、流民やスラムの住民の足元を見て安く雇ったりと。国内では大分不満が渦巻いておりましたが……」
「それら政策の元凶であるザクセン王国宰相にして財務卿であるバンブー公爵ですが、どういうわけか機械大人に大変恨まれていたようで、死体がまるでミンチのように握り潰されていたとか。同じく殺された使用人や護衛の私兵たちの死体と混じって、誰が誰やらわからないそうです」
レップウⅣでザクセン王国の様子を偵察してきたミアの報告を聞くが、機械大人と化した人の恨みは相当強かったようで、王族、貴族、金持ちとその家族は念入りに屋敷と本人たちが破壊されてしまったようだ。
当然ザクセン王とてそこから逃れられるわけはなく、現在のザクセン王国は統治者不在となっていた。
国境を接している他の国々は、いまだ機械大人が暴れ続け、さらに旨味のある大規模工房群を失ってしまったザクセン王国に手を出そうともしなかった。
またも新ラーベ王国に逃げ込む難民たちが増えており……というか他の国に逃げ込む難民の数は大分減っていた。なぜなら、余裕がないので追い出されてしまうからだ。
我が国ならば、開発中の町や農村に送り込んでしまえばいいので問題ない。
案外そういう噂は広がるのが早いようで、どこかで内乱や戦争が発生すると、我が国に逃げ込む難民は増えていた。
「ダストン様、どう思われますか?」
「新ラーベ王国が、ザクセン王国を保障占領するしかないな。このは隣国のザクセン王国統治者不在のままで混乱すると、我が国はまだしも、他国に影響が大きいだろう」
「また新ラーベ王国は他国から警戒されますな」
「仕方がない」
他の国に、工業力と経済力が破壊されたザクセン王国を抱える余力はない。
このまま放置して、また絶望した人たちが機械大人と機械魔獣になってしまった場合、負担がかかるのは俺とプラムいう事情も存在した。
「それに、ザクセン王国内で暴れている機械大人。放置すると大変なことになるぞ」
もし機械大人がザクセン王国内で破壊するものがなくなってしまった場合、次は他の国の王族や貴族、金持ちを狙う可能性が高いからだ。
「人間なら恨みを晴らしては止まるかもしれないが、機械大人になってしまった以上、同類も破壊し尽くすまで殺戮衝動は止まらないだろうな」
そこが、恨みを持って機械大人や機械魔獣になってしまった人の厄介な点なのだ。
女帝アルミナス。
どうやらアニメ以上にずる賢く厄介な存在になりつつあるようだ。
ただその本拠地は見つかっておらず、もし他国にでもあれば完全にお手上げだ。
今は対処療法しか手がないのだ。
そして他国からは、新ラーベ王国は急速に領土を拡大している危険な新興国という扱いを受けるわけだ。
「ドルスメル伯爵、アップルトン大将」
「「ははっ!」」
「アップルトン大将に、ザクセン王国の占領を命じる。ドルスメル伯爵は補給の用意を」
「ザクセン王国の状態は聞き及んでおります。また主な仕事は難民支援でしょうなぁ」
「ドレスメル伯爵、あんな化け物相手するよりはいいでしょう」
「無駄に犠牲が出るだろうからな。たとえ新装備の軍勢でも」
アトランティスベースとシゲールたちに任せている工房群から吐き出される乗り物と火器を装備した軍の整備は順調だが、それを用いても機械大人に通用しないのは、絶対無敵ロボ アポロンカイザーのアニメどおりであった。
せいぜい足止めが精一杯なので、俺とプラムで倒すしかないのだ。
「では任せる。プラム、行こう」
「はい、ダストン様」
「陛下、今お二人になにかあると新ラーベ王国は立ち行かなくなります。くれぐれもご注意を」
「油断しないように頑張るさ」
「ドルスメル伯爵、安心してください」
「なんの因果が、優秀なハンターであった二人が新しい大国の王となり、国が滅んで路頭に迷うかけた我々は救われたのです。もういい年なので、早くお二人のお子を見たいものですな」
「そういうことは神様が決めることだからな」
「そうですね。でも、そう遠い話ではありませんよ」
俺とプラムは新ラーベ王国軍に先行し、絶対無敵ロボ アポロンカイザーとセクシーレディーロボ ビューティフォーで出撃するのであった。
はたして、今回の機械大人はどのような方法で俺たちに対抗してくるのか。
ザクセン王国の王都において、またも決戦が始まる。
「銀河アパタイト製のムチか! それに力が強い!」
「ダストン様! これでは動けません!」
それぞれの機体に搭乗し、ザクセン王国上空にたどり着いた俺とプラムは、すぐに貴族の邸宅を破壊し回っている機械大人に攻撃を開始した。
元は人間だが、こうなってしまってはもう元に戻せない。
可哀想だから速やかに破壊するしかないのだ。
今回の機械大人は、両手の甲に収納でき、自由自在に長さを変えられる銀河アパタイト製のムチを二本ずつ装備していた。
高速振り回せば、この世界の建造物など簡単に破壊できる。
同時に、小さな標的でも捉えられる器用さも持っていた。
「ひぃーーー! この私を助けるのだ!」
機械大人は、左手の甲のムチで貴族らしき人物を捕らえていた。
同時に、右手の甲のムチ二本は俺とプラムの腕に巻き付いている。
電流などは流されていないが、この機械大人はかなりの怪力で、俺とプラムは動けないでいた。
ムチで捕らわれている貴族らしき人物が『助けろ!』と随分と偉そうに言っているが、機械大人は彼らに恨み骨髄なのであろう。
「待て! 力を……助けてうびゃ!」
絶対無敵ロボ アポロンカイザーとセクシーレディーロボ ビューティフォーを見た機械大人は、その貴族に興味がなくなったようだ。
力を籠めて、その貴族を握り潰してしまった。
断末魔の声が響き渡るが、 突然のことなので助けられなかった。
人質にするという気持ちすらなかったのであろう。
ようやく俺とプラムをムチから解放してくれたが、今度は両腕の四本の鞭を高速で振り回し、それに触れた建造物がスパスパとを切り裂かれていった。
「銀河アパタイト製のムチとはいえ、こうも高速で振り回されれば、超々銀河超合金アルファ製の絶対無敵ロボ アポロンカイザーとセクシーレディーロボ ビューティフォーでも無傷というわけにはいかないだろう」
「ダストン様、どうしましょうか?」
「あのムチをなんとかするしかない」
逆に言えば、あの四本のムチさえなんとかすれば……いや!」
「カイザーアイビーム!」
ムチではなく、機械大人の本体を狙えばいい。
半ば奇襲で、カイザーアイビームを俺は放ったのだが……。
「カイザーアイビームを弾いたのか!」
まさか、高速でムチを振り回すことでシールドのような役割を果たすとは……。
これはアニメでも見たことがない使い方であった。
「ならば!」
「プラム、実弾は駄目だ!」
プラムがパイオツミサイルを発射するが、ビームでも駄目だったのだ。
ミサイルはムチにより切り裂かれて大爆発を起こすが、爆風ですら高速のムチにより弾かれてしまった。
「これなら! ヘッドレーザー!」
「いや、それも……」
カイザーアイビームが駄目なのだから、ヘッドレーザーも効き目がなくて当然であった。
「実弾系は駄目、レーザーやビームですらムチで弾いてしまう。となると……」
機械大人が高速で振り回しているムチをなんとかするしかない。
しかしながら、あれだけの速度で振り回しているムチなので、いくら絶対無敵ロボ アポロンカイザーが超々銀河超合金アルファ製でも無傷ではいられないはずだ。
「ダストン様?」
「やるしかないな」
ザクセン王国の王都で破壊を続ける機械大人を倒し、早く完全に占領しなければ、他国が火事場泥棒的に領地をかすめ取ろうとするかもしれない。
一分でも早く機械大人と倒し、他国にザクセン王国を諦めさせる必要があるのだ。
「プラム、ムチが止まったら頼む」
「わかっています」
「では、3、2、1、0!」
俺は、絶対無敵ロボ アポロンカイザーを高速で振り回されているムチの範囲内に新入させた。
「クソッ!」
やはりあまりに高速で振り回しているため、そう簡単には掴めなかった。
まるでチェンソーのように絶対無敵ロボ アポロンカイザーの体を少しずつ切り裂いていき、徐々に表面がボロボロになってきた。
だが、さすがは超々銀河超合金アルファだ。
機体の表面がボロボロになっても、特に重大なダメージは受けていなかった。
そして、我慢に我慢を重ねてムチの動きをよく観察しておいてよかった。
機械大人は、超々銀河超合金アルファよりも一段劣る銀河アパタイト製のムチの威力を増すために恐ろしいほどの高速で振り回さねばならず、それは動きが一定でとても読みやすいという欠点に気がついたのだ。
「今だ!」
俺はタイミングを見計らって、両腕で右手の二本のムチを掴むことに成功した。
残るは左側の二本のみだが、ムチは四本で隙のないバリアーの役割を果たす。
ムチが半分になってしまえば、当然バリアー効果も薄れるというもの。
そこにプラムが、あらかじめ渡していたカイザースコップを構えながら機械大人に接近し、その胸に一撃を入れて貫通させた。
「やりました!」
「退避!」
「はいっ!」
「(母さん……)」
胸にカイザースコップが突き刺さったままの機械大人は、俺とプラムが退避した直後に大爆発を起こしながらバラバラになってしまった。
ようやく、ザクセン王国を滅ぼした機械大人を倒すことができたのだ。
「あの……ダストン様は聞こえましたか?」
「空耳じゃなかったのか……」
俺とプラムは、機械大人が爆散する直前、蚊の鳴くような声だが、『母さん』と言う青年の声を聞いていた。
「機械大人になってしまった人は、母親の仇を取るために誘惑に負けてしまったのでしょうか?」
「だとしても。これだけの被害を出してしまったんだ。決して許されることではない」
「そうですね……」
「あとは、 ドルスメル伯爵とアップルトン大将に任せるとしよう」
「はい。戻りましょう」
「そうだな。早く傷だらけになった絶対無敵ロボ アポロンカイザーを修理しなければ」
無事に機械大人を倒した俺とプラムはアトランティスベースへと戻り、それから三日でザクセン王国は新ラーベ王国によって占領され滅亡することとなった。
とはいえ、新ラーベ王国との戦争ではなく、機械大人に統治機構と自慢の工房群を破壊されての滅亡であり、アップルトン大将はまたも一部抵抗した貴族のみとの小規模な戦闘だけを行い、犠牲者は新しい装備もおかげもあって味方はゼロであった。
残りの仕事といえば、被災した住民への治療と食料、生活用品を配給することが主で、新ラーベ王国には主な産業を失った旧ザクセン王国領の建て直しという課題を与えられ、まとも持ち出しばかりで完全な赤字となってしまうのであった。
困っている人たちを助けないと、またいつ機械大人になってしまうかもしれず、他国には侵略者だと批判され、王様と王妃様が操る正義のスーパーロボットは、アニメほど多くの人たちから称賛を受けられないのだと、俺は悟ってしまうのであった。
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