第八十四話 ザクセン王国
「他国の町だ!」
「誰も私たちのことを知らないので、お忍びで遊べますね」
旧マケドニア王国の南、ザクセン王国北部の商業都市ライヒに俺とプラムは降り立った。
誰も俺とプラムを知らばいはずなので、今日は心ゆくまで遊べるはずだ。
「プラム、まずは服でも買おうか?」
スキルを使って高速で飛行してきたのもあり、俺とプラムの服装はハンターのそれであった。
町中にも多くのハンターたちがいるけど、この格好は遊ぶには向いていない。
早速近くの洋品店に入り、二人が着る服を選んでいく。
「お二方とも、大変よくお似合いですよ」
正直なところ、前世では服なんて適当に買っていたのでファッションセンスの微塵の欠片もなく、店員さんに任せてしまった。
高いがいい服を選んでくれたので、素直にお金を払っておく。
「このまま着ていかれますか?」
「そうですね」
「お買い上げ、ありがとうございます」
俺とプラムは、購入した服を着たまま町の探索を始るのであった。
「このペンダント。プラムに似合うかな?」
「綺麗ですね」
二人でアクセサリーを見て、プラムに似合うものを購入することにした。
せっかくのデートなので、美しいプラムを着飾らなければ。
「あの……我が国は、少しでもお金が必要なのに、色々と買ってもらっていいのでしょうか?」
「いいんじゃないかな?」
俺とプラムで稼いだお金だし、ぶっちゃけデート一回分の買い物を節約しても大した差なんてないのだから。
それに、普段アトランティスベースで生活していると、全然お金を使わないというのもあった。
「なにか魔獣を一匹多く倒せばそれで回収できるから、気にしないでいいと思うな」
「それもそうですね」
着替えが終わると、商業街でウィンドウショッピングをしたり、露天でお菓子や飲み物を購入したり、観光地を巡って貴重な休日を過ごしていく。
「時計塔ですか。大きくて豪華ですね」
「この町の名物だそうだ。ザクセン王国が総力をかけて建造したそうだ」
さっき、買い物をしたお店の店主から聞いたのだけど。
「ライヒは工業都市でもあり、優れた工業力を誇示するためのものなんだろうな」
ただ、最近のライヒは少し不景気だそうだ。
俺とプラムは初めて訪れたので多くの人たちで賑わってるように見えるが、ライヒに住む人たちから見れば、大分人が減ってしまったらしい。
「景気がよくないのですか……」
「少し前までは、逆に良かったみたいだ。戦争があったからな」
このところ機械大人と機械魔獣が周辺で暴れ、それに乗じてとは言い切れないが、周辺国で戦争があった。
工業力に優れたライヒは、輸出でとても潤っていたと聞く。
ところがその結果、多くの国を吸収して新ラーベ王国が勃興してしまった。
現在我が国は、国民の心が荒んで機械大人、機械魔獣化しないよう、アトランティスベースを用いた国土開発、経済拡張、生活向上政策を全力で実行していた。
新ラーベ王国という新しい工業国の出現により、ライヒ及びザクセン王国は苦境に立たされてしまったわけだ。
「新ラーベ王国のせいですか……」
「仕方がないんだ」
女帝アルミナスは人間の心の闇を利用し、機械大人、機械魔獣を生み出してしまう。
それを防ぐためには人々を幸せにするのが一番だが、全員を幸せにするなど理想論でしかない。
俺からすれば、まずは新ラーベ王国の国民から機械大人、機械魔獣化する人たちを一人でも減らしていくしかないのだ。
他国については、余計な口出しをすれば内政干渉、経済侵略だと思われてしまう。
そのせいで戦争になってしまいは意味がないのだから、現状ではどうにもできないというのが事実であった。
「ダストン様、あそこは……」
「偉大なる工業都市にして商業都市でもあるライヒ。当然、光もあれば闇もあるさ」
プラムが見つけたのは、下町にあるスラムであった。
ボンドからの情報によると、ライヒの影の名物がスラムだそうだ。
「影の名物ですか……」
「工業都市であるライヒで生産される製品の需要は一定しないんだ」
一定しないので、ライヒでは雇用の調整が行われる。
忙しい時にスラムの住民を臨時で雇い、需要が落ち着くと解雇されてしまう。
そんな生活が安定しない貧しい人たちが、スラムに集まって生活しているわけだ。
「そして、ライヒで観光関連の仕事に就いている人たちは、スラムの住民を毛嫌いしている」
町の景観を損ねるし、スラムは治安を損ねる要因ともなっているのは、説明しないでもわかることであろう。
なによりイメージが悪い。
「観光に携わっている人たちは、スラムを撤去しろとザクセン王国に度々訴え出ている。逆に工業に携わる人たちは、忙しい時に臨時で雇えるスラムの住民を重宝している。これまで何度も、スラムの撤去要請を握り潰してきたそうだ」
「それならば、スラムの人たちをちゃんとした待遇で雇えばいいのに」
「そうしたら、儲からなくなってしまうからな」
地球でもよくありそうな問題で、俺も昔はこういう話を聞くと腹を立てていたような気がする。
だが今、実際に統治者になってみると、この手の問題を解決するのは非常に難しいことがわかってしまった。
しかもここは他の国なのだ。
もし俺がザクセン王国に対し、『スラムの住民の生活環境を改善した方がいい』などと言ったら、最悪戦争になりかねないのだから。
「難しい問題ですね」
「今はできることからさ」
今俺が、新ラーベ王国王として大々的に国土開発や産業振興、国民の所得向上計画を進めているのは。
国内でポンポンと機械大人、機械魔獣が発生するのを防ぐためだ。
決して俺が善人だからというわけではない。
俺は半ば病的な絶対無敵ロボ アポロンカイザーマニアであり、すべては絶対無敵ロボ アポロンカイザー道を極めるために生きているのだから。
「(絶対無敵ロボ アポロンカイザーを極めと言っても、どこがゴールなのかもよくわからないが……)休みにまで堅苦しいこと考えても仕方がない。みんなにお土産でも買って帰ろうか」
「そうですね。ダストン様」
お土産はもう少し後でいいかなと思ったけど、考えてみたら俺には無限ランドセルがあった。
そこにしまっておけば荷物が邪魔になるということもないので、夕食の前にプラムとお土産を買いに商業街へと向かうのであった。
「(メリー、あなたに青い玉を送りましょう。これを用いて、下等生物たちを混乱に陥れるのです)」
「アルミナス様の仰せのとおりに!」
アルミナス様は、順調に力を取り戻しておられるようだ。
四天王の中で唯一人間型の機械魔獣である私は、アルミナス様の命令により世界中で情報を収集したり、下等生物たちを混乱に陥れる工作に従事していた。
元々はどこにでもいそうなハンターであった私が、今では全銀河系の征服を目論むアルミナス様の四天王の一人となった。
最初、機械大人にしてもらえなかったことで不満があったけど、今にして思えば機械魔獣でよかったと思う。
通常、機械魔獣は機械大人の下という風に見られることが多いけど、実はアルミナス様の傍に仕えている四天王は全員が機械魔獣であった。
なぜかというと、確かに機械大人は強大無比であったが、どうしても巨大化してしまう。
アルミナス様の傍にお仕えするのに不都合があったのだ。
私は機械魔獣だからこそ、こうして人間に偽装することも可能であった。
そして今、私の手の中には青い玉がある。
この青い玉を、今の生活に絶望している下等生物に埋め込めば……。
「相変わらず汚い場所ね……。私はここの生活が嫌で、ハンターとして生計を立てようとした」
その結果、アルミナス様に機械魔獣にされてしまったけど、別に恨んだり後悔はしていない。
そこそこ強いどこにでもいるハンターよりは、アルミナス様の四天王の方が楽しかったからだ。
「またライヒは、仕事がなくなったからスラムの住民を切り捨てたのね。大きな工房を営んでいる豚共とそいつらと結託しているザクセン王国のバカ貴族たちは、滅ぼされるのに相応しいバカどもよ。自分たちの利益のために利用してきた者たちに滅ぼされるがいいわ」
この青い玉を埋め込むイケニエを探さないと。
その候補は、スラムを探せばいくらでもいるけどね。
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