第八十三話 お忍び

「「「「「「「「「「陛下万歳!」」」」」」」」」」


「「「「「「「「「「王妃様万歳!」」」」」」」」」」


「(なんか、見世物感満載だなぁ……)」


「(ダストン様、これも次の機械大人と機械魔獣を生み出さないためですから)」




 俺とプラムは、占領した両国の国民たち向けてパレードを行っていた。

 二人とも、絶対無敵ロボ アポロンカイザーとセクシーロボ ビューティフォーに搭乗し、両国の旧王都を歩いたのだ。

 前の統治者たちが自滅して大混乱した自国を再び安定させた、救世主たる巨大ゴーレムと、それを操る新王。

 そういう触れ込みなので、俺たちはパレードに参加した人々から熱狂的な声援を受けていた。

 他にも、国土が荒廃したため三年間の徴税免除、治安維持と民心安定のため軍が食料を配っており、人気が出て当然というか。

 他の国でもすぐに考えつく方法だと思うが、問題なのは他国では国庫がそれを許さない点であろう。

 俺は、食料と物資をアトランティスベースに生産させることができたので配れており、ある意味反則ではあるが、だからといってやめるわけにいかない。

 内乱や飢餓で苦しむ人が増えれば、それは女帝アルミナスを利するだけなのだから。


「しかし、キリがないように思えるよなぁ」


「陛下、それはどういうことでしょうか?」


 パレードは無事に終わり、旧マケドニア王国の王城で現地の責任者アップルトン大将と話をしていたのだけど、俺は思うのだ。

 また我々は南に軍を進める羽目になるのではないかと。


「占領した両国の南側国境には、長大な山脈があります。ここを現在要塞基地として整備しておりまして、ここを防衛ラインに敵国の干渉を防ぐ予定です。我らは急ぎすぎました。せっかく新ラーベ王国は北方唯一の大国となったのです。今は足下を固めるのが最優先です。機械大人と機械魔獣に対抗するためにも」


 アップルトン大将は、機械大人のせいでラーベ王国という祖国を失ってしまった。

 ゆえに、その脅威を十分理解していた。

 領土拡張に熱中し過ぎて、再び新ラーベ王国が滅びでもしたら嫌なのであろう。

 彼には理解があるのでとても助かっている。


「それに、新しい王国軍は今両国に入れた部隊だけですから、新兵たちも含めて、全軍に新しい装備を導入、習熟させるには時間がかかります。軍隊は指揮官と下士官を育てないと、しっかりとした運用できませんからね。今も結構人手不足で危ういんですよ」


 これまでは歩兵と騎馬のみだった軍隊に車両を導入すれば、当然運用する人員に不足が出て当然であった。

 新しい人を教育するにしても、最低でも数年はかかる。

 これ以上の前進は不可能というわけだ。

 南の国境地帯にある山脈を要塞にすれば、敵国の軍勢も、機械大人と機械魔獣も防げるか?

 後者は、少なくとも時間稼ぎにはなるのか。


「これまでに占領した土地の開発もまだ終わっていないのですから、我らも守勢に徹したいですよ」


「そうだよなぁ」


「ドルスメル軍務大臣たちと共に、王国軍の再編を進めます」


「任せる」


 占領した両国は安定し始めたし、復興とセットになった開発計画も進めている。

 人々は、希望ある未来に向けて懸命に働いているから、彼らが闇落ちして機械大人化する可能性は減ったはずだ。

 あとは、女帝アルミナスの居場所を見つけるだけだが……巧妙に隠れていて難しい。

 時間がかかるかもしれないな。






「ダストン様、最近シルバースライムばかり倒していますね」


「シゲールの要望だから仕方がないさ」


 俺とプラムは、魔獣を倒してレベルを上げ続ける。

 いまだその姿を見ていない女帝アルミナスが強化されている可能性も捨てきれず、機械大人、機械魔獣にもそれは言え、ゆえに強くなっておく必要があるのだ。

 あとは、シゲールからの注文だな。

 シルバースライムの体液は、強力な合金の材料になることが判明した。

 なんでも混ぜた金属に、耐熱性と粘りが出るのだそうだ。

 月に飛ばすロケットの素材として、他にも用途が多数見つかっていて、レベルアップも兼ねて俺とプラムはシルバースライムを倒し続ける。


「今日はこんなものでいいかな?」


「はい」


 魔獣の討伐を終えると、王都へと飛んで戻り、素材と魔石を持ってハンター協会へと向かった。

 紆余曲折を経て、現在新王都にハンター協会新ラーベ王国支部が誕生しており、ここを統括しているのは知己であるランドーさんであった。

 彼は若いながらも優秀であり、俺とプラムとも親しかったから、世界的規模のハンター協会もすんなりとその人事を受け入れている。


「今日も沢山倒しましたよ」


「おおっ! シルバースライムの素材がこんなにですか!」


 どうせ全部新ラーベ王国が買い取ってしまうのだが、彼はこれまでよりも殊更喜んでいるように思えた。


「陛下、実はですね。他国でもシルバースライムの体液の使い道が判明たのですよ。これまで耐用年数に難があった亀鉄。これに一定量混ぜるだけで耐用年数が数十倍になるそうです」


 だから他国からの引き合いが多いのか。


「ですがランドーさん。シルバースライムの体液は、到底他国に流せるような状況では……」


「王妃様、それなんですけどね。実は、ムーア様の指示で、極一部を他国にも融通することになりました。当然、理由はありますけどね」


 自国分も十分に補えていないシルバースライムの体液を、他国に融通する理由。

 俺にはわかるような気がしてきた。


「シルバースライムを倒せるハンターは少ないですからね」


 というか、ほぼいない。

 あれだけの防御力を誇る魔獣なので、攻撃が通るハンターがほぼいなかったのだ。


「そのため、シルバースライムの体液が他国では不足しているのです。もし新ラーベ王国から少量でも輸出されるのであれば、かなり感謝されるはずです」


 他国に恩を売り、攻め込まれるリスクを減らすわけか。


「高く売れますしね」


 亀鉄に混ぜるシルバースライムの体液は、割合からすれば極少量であった。

 レアメタル、レアアースのような扱いなので、少量でも高額というわけだ。

 新ラーベ王国の場合、必要とされる量が桁違いのため、俺とプラムがいくらシルバースライムを狩ってもまったく足りていなかったのだけど。

 少量他国に融通してもどうせ足りないことに変わりはなく、他国に恩を売れるのであれば仕方がないという考えなのであろう。


「なるほど」


「陛下と王妃様が、もっと沢山狩るという選択肢もございますが」


「あははっ、パス」


 王様としての仕事もあるから、これ以上は魔獣を狩れない。

 継続的なレベル上げが必要ではあったが、短期間に無理をすると後に響くので、短期的に無理はしない方がいいだろう。


「明日は久々にお休みだから、プラムとお忍びで出かける予定なんだ」


「楽しみですね、ダストン様」


 俺もプラムも、今は忙しい身。

 しっかりと休みを取って、心を落ち着かせなければ。


「お忍びですか? 陛下と王妃様が?」


「変かな?」


「おかしいですか? ランドーさん」


「新ラーベ王国内において、陛下と王妃様の存在は偉大なので、顔を知らない者はいないと思いますけど……」


「そうなのか?」


 だって地球ではあるまいし、俺とプラムの写真が出回っているとは思えないんだよなぁ……。

 俺とプラムだって、領内すべてを訪れたわけでもないってのもある。 顔を知らない人たち、土地だって多いはずだ。


「それが……こんなものが出回っておりまして……」


 と言って、ランドーさんが差し出したのは、一枚の紙であった。


「これは?」


「政府広報です。印刷所が完成したのですよ」


 これも、シゲールの成果であることは一目瞭然。

 そういえば、前に軽く『いいんじゃない、あっても』って言った覚えがあったな。

 今、思い出した。


「新ラーベ王国政府からのお知らせとか、こういうことに注意するようにとか、政府が印刷して配っているんですけど、号外でこんなものが配られまして……」


 その政府広報には、俺とプラムの写真が印刷されていた。

 結婚式と即位式の時の写真だな。

 この世界に似つかわしくない完全カラー印刷なので、配った号外はすぐになくなってしまったそうだ。


「全土に配られたそうで。つまり、陛下と王妃様の顔は広く知られているので、お忍びは不可能です」


「「……」」


 おいおい、待ってくれよ。

 俺とプラムは、それはそれは毎日よく働いているじゃないか。

 魔獣狩りは、本来国王と王妃の仕事じゃない?

 本当は他にも仕事があるって?

 それは、今の新ラーベ王国には通用しない言葉なのだ。

 俺とプラムが虐殺レベルで魔獣を狩らないと、新ラーベ王国の国庫は……領土を広げても暫くは復興名目で無税だし……。


「プラム!」


「はいっ! ダストン様!」


 国内が駄目なら、他国に飛んで行けばいいじゃない。

 スキルのおかげで日帰りも可能なほど高速で飛べるのだから。

 というわけで、俺とプラムは他国を目指して全速力で飛んで行ったのであった。

 アントンがなにか叫んでいるけど、今日中に戻れば問題ないだろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る