第八十二話 ロケット打ち上げ

「陛下! 無事に完成はしましたし、自信もありますけど、最初の打ち上げ実験のパイロットが陛下ってのはどうかなって……」


「俺だからいいんだよ。最悪失敗しても死なないから」



 シゲールとコヘイたちが開発していた月面ロケットであったが、アトランティスベース(基地)にあったロケットに関するデータと、シルバースライムの体液と亀鉄を使った新素材『銀亀鉄』を利用して無事に完成した。

 ただし無人なんて甘えは存在せず、当然パイロットは必要なのだけど、それは俺が引き受けることにした。

 安全面の問題からシゲールも反対したが、俺はスキルが絶対無敵ロボ アポロンカイザーだから、もし失敗しても死なない。

 俺がパイロットをやるのが一番適任なのだ。


「シゲール、自信あるんだろう?」


「ありますけど、他の家臣の方々は不安がっていますし、万が一ということもありますから」


「駄目だならすぐに脱出するし、俺はそれができるのさ。始めるぞ」


「わかりました」


 ロケットの発射場は、前に侵略者を退けた南方未開地に建設された。

 そこが、我が国の領土の中で赤道に一番近く、ロケットを打ち上げやすいからだ。


「無事に月面基地に着陸したら、絶対無敵ロボ アポロンカイザーで戻るよ」


「わかりました」


 シゲールは渋々ではあるが俺がパイロットになることを認め、すぐに打ち上げの準備を始めた。


「陛下が乗るロケットだ! 失敗はできねえ! 気合い入れてチェックしろ!」


「「「「「「「「「「了解!」」」」」」」」」」


 シゲールに発破をかけられ、彼の部下たちはロケットの最終チェックを始めた。

 このロケット。

 実は燃料が過酸化水素やヒドラジンではなく、魔石と水に切り替わっている。

 そのため非常にエコなのだけど、アトランティスベース(基地)の資料を参考に、シゲールが懸命に技術のすり合わせを行って完成させたのだ。

 シゲール本人は自信があっても、俺に万が一のことがあったらと、不安になっても仕方がない面もあった。

 もし失敗しても俺とプラムなら死なないし、こういう危ない仕事は俺がやった方がいい。

 女性であるプラムに負担をかけるのはどうかと思うので、結果俺がパイロットになったわけだ。


『陛下! 発射準備完了です!』


『俺も操作方法を覚えたぞ。やってくれ』


 問題は打ち上げに成功しても、次のパイロットの訓練に時間がかかることかな。

 とはいえ、成功すれば新ラーベ王国の国威も上がる。

 そうすれば、もう少し他国との外交も上手く行くはずだ。

 ここは、ロケットの打ち上げを成功させておこう。


『打ち上げ10秒前、9、8、7、6、5、4、3、2、1、0、発射!』


 あまり勿体ぶっても仕方がないので、シゲールはすぐカンウントダウンを始め、ロケットは盛大な煙を上げながら上昇していく。

 操縦席に座る俺にもGがかかり、この様子だと打ち上げは成功したようだな。

 上昇を続けるロケットは徐々に重力圏を脱し、外を見ると真っ暗で広大な宇宙空間が広がっていた。


『成功したぞ、シゲール』


 俺は魔法道具の技術用いた通信機で、シゲールに無事惑星の重力圏を脱したことを報告した。


『陛下、次は月を目指してください』


『了解』


 事前に学習しておいたロケットの操作法を駆使して、月へと移動を開始する。

 先日建設した月面基地横のロケット発着場に着陸できれば、ロケットの試験は無事終了だ。


『月基地が見えた! あそこに下ろせばいいんだな』


『いきなり本番だけど大丈夫ですか?』


『大丈夫なはずだ』


 事前にアトランティスベース(基地)内のシミュレーションで練習はしていたし、自分のスキルが絶対無敵ロボ アポロンカイザーになった時点でこの手の乗り物の操作が上手くなったというか、適性ができたような気がするのだ。

 現に、試しにマウスⅢとレップウⅣを操縦してみたけど、そう難しいとは思わなかった。

 プラムも同じなので、これはスキルとレベルアップのおかげかもしれない。

 俺は冷静にロケットを操縦し、月面基地にある宇宙船の李発着場に無事着地することに成功した。


「陛下! おめでとうございます!」


「やったぞ!」


 月面基地に常駐しているシゲールの部下たちが駆け寄って来て、俺は彼らから胴上げをされた。

 これにより、新ラーベ王国はこの世界で初めて月面に到着可能なロケットの製造に成功したのであった。

 これで他の国も、少しは女帝アルミナス対策で協力してくれればいいのだけど……。




「やはりというか、ご愁傷様というべきか、イーサック王国とマケドニア王国は欠席か……」


「両国とも、住民反乱や内乱が発生し、今では国王も行方知れずとも聞く。こんな時に戦争などするから……」


「隣に新ラーベ王国がある以上、国力の増強は急務であったから焦ったのであろう」


「双方が、相手を吸収すれば国力増強になると、単純に考えてしまったのが不幸の始まりか。どの国も、開発できていない未開地など多数あるというのに……」


「新ラーベ王国は、大規模に開発を進めているがな。聞けば、イーサック王国とマケドニア王国から発生した流民と難民だが、すべて吸収してしまったと聞くぞ」


「我々にはそんな余裕などなく、仕方なしに追い返しているのにな」


「さらに新ラーベ王国は、月に拠点を置いたというではないか」


「月まで至る乗り物を作れるとは……」


「我が国の魔法道具職人に聞いてみたが、どうやって作ればいいのか見当もつかぬそうだ」


「であろうな」


「我らは、拡張する新ラーベ王国への対策を協議すべく集まったが、その前に統治機構が崩壊した両国への対策をどうすればいいのか……」


「あんなお荷物、どこの国もいらぬだろうからな」




 困ったことになった。

 なんと新ラーベ王国が、月に行ける乗り物を開発し、月面に基地まで建設したという。

 かの国では、国民たちは大喜びだそうだ。

 新ラーベ王国はも国民に食事やお酒を配り、お祭り騒ぎだそうだ。

 建国間もない国なのに、多くの国民から熱烈に支持されて羨ましい限りだ。

 新ラーベ王国は景気もいいからな。

 先の戦争で新ラーベ王国に逃げ込んだイーサック王国とマケドニア王国の国民たちも、今では祖国のことなど忘れて一緒に喜んでいると聞く。

 人口と国力が激減したイーサック王国とマケドニア王国は、現在大規模な内紛、内乱、クーデターなどが多発し、完全に統治機構が崩壊していた。

 この会議に両国の王たちが来ないのは、すでに殺されたから……確認されたわけではないが、ほぼ確定と見ていいだろう。

 そんなわけで主な議論の内容は、両国の領地をどうするのかに移っていた。

 どこかの国が併合する?

 すでに統治機構が崩壊した国など、下手に併合したら自国が財政危機に陥って破綻してしまう。

 いったい、両国の領土にいくらつぎ込めばいいのかわからないからだ。


「しかし、このまま放置しておけば新ラーベ王国に併合されてしまうぞ」


 あの国は、両国の戦争のせいで大きな財政負担を強いられているし、マケドニア王国に至っては軍勢を攻め込ませたこともあった。

 新ラーベ王国がその気なら大義名分が立つので、簡単に両国は併合されてしまうであろう。


「新ラーベ王国なら、両国を発展させることも可能だ。もっとも、その時には『旧両国』であり、新ラーベ王国がますます領土と国力を増大させるであろう」


 もしそうなったら、ますます新ラーベ王国に対抗するのが難しくなってしまう。


「両国の、新ラーベ王国への併合は避けなければならん!」


「しかし、具体的にどうするのだ?」


「……誰か一人くらい王族は生き残っておろう……」


 その人物を担ぎ上げ、国としての統制を取り戻すわけか。

 復活させた両国に対し、我らが支援をする。

 ある種の傀儡国家化になるが、新ラーベ王国に取られるよりはマシ……傀儡国家なんて批判の対象になるし、最初は持ち出しばかりで国庫には辛い。

 だが、それをやらなければ、ますます新ラーベ王国の力が増してしまう。

 ……とにかく粘り強く交渉して、少しでも我が国の負担を減らさなければ……。

 両国と国境を接していない国々は極力出費を減らそうとするであろうが、両国を併合した新ラーベ王国の脅威を丁寧に説き、それを防ぐためだと説明して金を出させなければ……。

 などと思っていたら、とんでもない情報が飛び込んできた。


「大変です! 新ラーベ王国軍が続々とイーサック王国とマケドニア王国に侵入し、すでにその国土の大半を占領してしまいました!」


「早すぎる!」

.

 詳細な報告によれば、わずか二日間で両国の領土の大半が新ラーベ王国軍によって占領され、今では治安も回復し、多くの国民たちは新ラーベ王国に従っているとのこと。

 我が国も両国に隣接しているが、同じように軍を出しても両国の併合には数週間を要するはずだ。

 それが、なぜ新ラーベ王国軍は……。


「なんでも、魔力で動く馬を使わない馬車があるそうで……。兵士全員がそれに乗って一気に攻め込んだそうです」


 馬を使わない馬車だと!

 しかもそれに、末端の兵士まで乗せている?

 兵士は徒歩が基本な我が国の軍勢では、まったく速度では歯が立たないではないか!


「どうする? 連合軍を出して新ラーベ王国から両国を取り戻すか?」


「勝てるのか? そんな神速を誇る軍勢に」


「簡単に軍を出せと言わないでほしい。いったいいくらかかると思っているんだ?」


 残念ながら今回の会議では、『イーサック王国とマケドニア王国を併合した新ラーベ王国の様子を注意深く見守る』という最終宣言が出て終了した。

 ようするに、なにも話は進まなかったということだ。

 結局多くの国の王たちが集まっても、会議を主導するほど力がある者がいないので、会議をしても実質なにも決まらないことが多かった。

 これでは、恐ろしい勢いで強大化する新ラーベ王国に対抗するのは難しい。


「(独自に動くしかないか……)」


 そういえば、新ラーベ王国は以前使者を送ってきていた。

 金属でできた巨人と魔獣を操る存在がいて、この世界を完全に支配しようとしていると。

 自分たちの野心を隠すための嘘だと否定的な意見も多かったが、これは話を聞いてみた方がいいかもしれない。

 我が国は、新ラーベ王国と国境を接してしまったのだ。

 たとえ事実上の属国扱いになろうとも、私は国を守る義務がある。

 たとえ他の国が亡ぶことがあっても、私はこの国を守らなければならないのだから。




『陛下、新兵器で編成した新ラーベ王国軍は、大きな戦果を得ることができました。以後は、軍のすべてを同じようにする必要があります』


『火力、機動力、防御力、通信力、補給力の勝利か。闇雲に兵士を増やさず、質のいい下士官、将校を育成し、装備を充実させよう』


『今いる兵士の中で見込みのある奴は、すぐに教育させます。ただ、この短期間で国土が著しく広がったため、兵士の数は増やさないと駄目ですな。徴兵から、志願、選抜方式に変えましたが、待遇がいいので応募者は多いですよ』


『車両の運転技術に、修理と整備も学べるからな。退役後は仕事に困らないようになる』


『車両は、民間も売り出すのでしたな』


『アップルトン大将、引き続き両国の軍政を任せる。徐々に行政官を入れていくけど』


『畏まりました』


 月基地の建設と、月ロケットの打ち上げに成功したので……という言い方もおかしいが、新しく再編した新ラーベ王国軍は、すでに統治機構が崩壊しているイーサック王国とマケドニア王国へと攻め込んだ。

 また他の国から警戒されるであろうが、止むに已まれぬ事情があったのだ。

 両国が騒乱状態になったため、再び我が国に逃げ込む難民が増えてしまったのと、せっかく成功したロケットの打ち上げ場が両国との国境に近かったこと。

 両国が他国に占領され、新ラーベ王国侵攻の橋頭保にされる可能性が高いという、ドルスメル軍務大臣からの忠告もあり、シゲールが組み立て工場を立ち上げた魔力で動く車両を装備した新部隊の試験も兼ねて両国に攻め入ったというわけだ。

 このまま両国を放置しておくと、なんの罪もない人たちが内乱と飢餓に苦しむことになるという人道上の事情もあった。

 ドルスメル軍務大臣が言うには、両国の南側国境には大きな山脈が存在し、ここを防御線にすればそう他国も手を出してこないそうだ。

 これで暫くは戦をしないで済むと聞いたので、俺は許可を出した。

 結果は言うまでもなく、そもそも王家が内乱で壊滅していたような両国だ。

 攻め込んだ新ラーベ王国軍の仕事は、一秒でも早く両国の全土を掌握すること。

 抵抗する反乱軍、武装難民、反抗的な貴族の軍勢……すでに王家が崩壊していたので、大半がすぐに降伏してしまったので戦闘は少なく、被害もほとんど出なかった。

 その代わり、みんな食料や物資が不足しているので、王国軍はそれを平等に秩序を崩さないよう配るのに忙しかったそうだけど。

 両国の全土が軍政下に入ったが、反抗的な者も少なかった。

 先の両国同士の戦争や、その後の悪政、内乱、争乱で大きな被害を受けてしまい、助けてくれる人たちなら誰でも大歓迎というのが現実だったようだ。

 イーサック王国とマケドニア王国に対する未練は、終わりが悪かったため完全に吹き飛んでしまったらしい。

 旧主を偲ぶ人たちの反抗が少ないので楽ではあるのだけど、少し両王家が可哀そうな気がしなくもなかった。

 明日は我が身だと思いつつ、適切に対処していくしかない。


「とはいえ、俺とプラムのできることって……」


「魔獣狩りですね」


 まさか、他国はこの国が魔獣狩りによって得た素材と魔石。

 そして、アトランティスベースという生産チートで嵩増ししているだけとは思うまい。

 とはいえ、それを用いないと新ラーベ王国の国庫は破綻するし、不幸な人々が増えれば、女帝アルミナスにより機械大人、機械魔獣化する人たちが増えてしまう。

 世界を守るため、国を適切に運営する。

 主人公が、そんな国王であるスーパーロボットアニメってあったかな?

 俺はそんな風に思いながら、プラムと魔獣狩りに勤しむのであった。

 国王と王妃が、一番働いているようにも見えなくはない。

 他国の王たちは、『それは違う!』と言うかもしれないけど。

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