第八十一話 月面

『ミア、南極点の様子はどうだ?』


『各種探査機器に反応はありません。目視による偵察でも同じですね』


『そうか、ご苦労様。アトランティスベース(基地)に戻ってくれ』


『了解しました』




 俺はミアにレップウⅣによる世界中の偵察を命じたが、いまだ女帝アルミナスの本拠地は見つかっていなかった。

 予想はしていたのだ。

 多分、女帝アルミナスも全盛期の力を取り戻していない。

 だから俺たちから隠れることに全力を傾けており、それをされたらどうにもならない。

 向こうがいつ積極的に攻めてくるかはわからないが、こちらとしては、今は可能な限り力を蓄えるしかないというわけだ。

 それがわかっただけよしとしよう。


『もう一か所、女帝アルミナスの本拠地候補があるけど』


『陛下、それはどこですか?』


『月だよ』


『月ですか?』


 ミアが驚くのも無理はない。

 この世界にも月はあるが、人々は月が小惑星であるという認識すらないのだから。

 照明のようなものという認識で、この世界がある惑星も丸いとは思っていなかった。

 いまだ海の果てに行けば、巨大な滝に落ちてしまうという認識なのだ。


「この世界も月と同じくまん丸なのか」


 シゲールにこの手の話をすると理解が早いな。


「しかしながら、この世界と同じ環境を月が維持できているのでしょうか?」


「コヘイの推論は正しい。月は重力も空気も薄く、植物も生えず岩だらけで、その表面に水はほとんどない。あっても凍った状態なのさ。寒暖差が激しい場所ってわけだ」


「なるほど。だから望遠鏡で観察しても、水や生物の姿が見えないのですね」


 そして、シゲールを上回る天才少年であるコヘイか。

 すでに月の天体観察はしていて、その特徴をすでぐに理解した。

 血は争えないな。


「もしかしたら、月に女帝アルミナスの本拠地があるかもしれない」


 これまで誰も到達していない場所だからこそ、ここに本拠地を置けば場所がバレにくいわけだ。


『なるほど。次は月の調査ですね。レップウⅣなら余裕で偵察できます』


「今日はもういいよ。それに、これは新ラーベ王国の国家事業とする!」


「国家事業ですか? つまり……」


「そうだシゲール! 月まで飛べる宇宙船を作るんだ!」


 月へは、絶対無敵ロボ アポロンカイザー、セクシーレディーロボ ビューティフォー、レップウⅣがあれば行けるが、俺はシゲールに命じて宇宙船を作らせようと思っていた。

 技術力と国力を上げ、隠れながら力を蓄えつつある女帝アルミナスに対抗するためである。


「月へと向かう船ですか! そいつは楽しみですな」


「僕も手伝いたいです。月にも行ってみたいな」


「シゲールもコヘイも連れて行くから頼むぞ」


「「わかりました」」


 二人は俺の命令を快諾し、アトランティスベース(基地)のデータと生産物、さらに魔法道具の技術を用いてスペースシャトルのような宇宙船の設計と試作に入った。


「だが、まずは様子見ということで先に月に向かおう」


 宇宙船の製造には時間がかかるはずだ。

 そこで、先に俺たちはアトランティスベース(基地)でこの世界の月へと向かうのであった。





「ダストン様、本当に岩だらけなんですね。体も軽い」


「アトランティスベース(基地)のスーパーコンピューターの計算によると、重力は地上の六分の一しかないそうです」


「ダストン様、私たちの住む星って青いんですね」


 アトランティスベース(基地)を使って到着した月は、地球の月とそっくりであった。

 岩だらけで草木も水もなく、重力は地上の六分の一しかない。

 そして今のところ、人間はおろか生物の反応も一切なかった。

 今、ミアとメアに偵察をさせているが、なにかを発見したという報告はない。

 アトランティスベース(基地)による探知でも、女帝アルミナスの本拠地はないだろうという結論に至っていた。

 女帝アルミナスの本拠地探しは、見事振り出しに戻ったわけだ。


「月、綺麗なんですけどね」


 だが、空気はほぼなく重力も少ない。

 月に人が住めるようにする手間があったら、地上の未開地を開発した方が圧倒的に楽で、コストもかからないであろう。


「資源は採れますけどね。だが、ここで資源を掘るのも大変だ」


 シゲールの言うとおり、今は人を使った資源採掘はできない。

 アトランティスベース(基地)があるから、無人基地を置いてロボットたちに資源の採掘を任せた方がいいだろう。


「宇宙船は資源の運搬に使うんですね。となると、大型の方がいいのかな?」


「なるべくといった感じで。価値が低い資源は運ばないし」


「鉄を運んでも、採算は取れないでしょうな」


「鉄なら、最悪輸入すればいいんだから」


「それもそうですな。代金として輸出できるものは多いですし、国内にも鉱山は沢山あるのですから。もっとも、陛下と王妃様が採取している亀鉄の方がありがたいですが」


 この世界では魔獣の素材もあるから、人口や文明レベルの割に鉱物資源の採掘量が少なかった。

 アトランティスベース(基地)による探知で、新ラーベ王国内には未採掘の鉱山が多数存在することもわかっている。

 月では金とか、宝石とか、貴重な資源の採掘を優先する予定だ。


「あとは……月基地か?」


 月での資源の採掘は、アトランティスベース(基地)で生産したロボットが主流となるはずだが、採掘したものをこちらに宇宙船で下ろすため、資源の集積地が必要になる。

 さらに、月で探索や研究をしたい人たちも多いはずだ。

 宇宙船の打ち上げと月基地への人員の常駐は、国家プロジェクトにしようと思う。


「月基地は、まず居住区を設置しました」


 シゲール配下の職人たちが、アトランティスベース(基地)で生産した居住区をブロックごとにクレーンで運び、決められた場所で接合すれば基地の完成だ。

 俺たちは、完成した基地の中に宇宙服を脱いで入った。


「重力が地上の六分の一だと、体がそれに慣れると力が落ちてしまいそうですね」


「せめてこの居住区だけでも、重力を利かせようかな?」


 アトランティスベース(基地)で、人工重力発生機を生産して設置すればいいのだろう。

 他は、かえって重力が少ない方がロボットたちにも負担は小さい。

 あとでこの居住区を改良することにしよう。


「近くに宇宙船の発着場も作って。宇宙船の開発を頼むぞ。シゲール」


「任せてください。まあ、最初はアトランティスベース(基地)便りですけどね。ですが、新しい合金を開発したので、これは宇宙船に使えますよ」


「そんな新合金があるのか」


「ええ、コヘイと共同開発しましてね。シルバースライムの体液と亀鉄の合金です。特に耐熱性に優れていて、大気圏を突破する宇宙船の素材にピッタリなんです」


 シルバースライムの体液にそんな使い道があったのか。

 魔獣の素材には、最近技術に応用できるものが多い。

 これからも積極的に集めようかな。


「リンデル山脈のゴーレムから得られる資源は別として、魔獣の素材についての詳細はいまだよくわかっていないことも多く、新素材の材料や新しい使い方の研究が必要です。もしかしたら、月ににも珍しい魔獣がいるかもしれませんね」


「今のところ、魔獣どころか生物の気配すらないけどね」


 月に到着してから、ミアが探索機器を装備したレップウⅣで偵察をしたのだけど、月には生物がまったく存在しなかった.

 細菌、ウィルスなども確認できず、まさに無機物のみの世界だったのだ。


「念のため、これから暫くは探索をしてみるけど」


 もしかしたら、どこかに未知の生物がいるかもしれない。

 ミアは、レップウⅣを用いた偵察をあと何回か続ける予定であった。


「私は、資源探査です」


 メアも、マウスⅢを駆使して月の鉱物や資源を探索する。

 月の資源は、まず高価で貴重なものからロボットたちに採取させる計画だ。

 なんでもロボットで採取してしまうと、新ラーベ王国領内の鉱山で働く人たちの職を奪うことになってしまうからだ。

 職を失って絶望し、機械大人や機械魔獣になってしまったら面倒なのだから。


「(そんな理由で善政を目指す王様ってどうなんだろう?)」


「(結果よければだと思います)」


 プラムがそう言ってくれているし、この世の中は結果がすべてとも言えた。

 気にせず、国民たちに支持される国力増強策を進めよう。


「そうだ! 俺たちは宇宙空間や月のような低重力下での戦闘を想定して、それに対応できるようにしないと」


 そしてもう一つ。

 新しい装備……とはいっても、絶対無敵ロボ アポロンカイザーとセクシーレディーロボ ビューティフォーのではなく、俺とプラムの戦闘スーツのことであった。

 アニメでは、いかにもなデザインと色彩の戦闘用のスーツを着ているわけだが、これまでは俺とプラムにはスキルがあったので、ハンターをしている時の装備をそのまま使っていた。

 そろそろ、性能が圧倒的に上な戦闘用スーツに新調しようというわけだ。


「ですが、これはさすがに恥ずかしいです……」


「実は俺も……」


 アトランティスベース(基地)には、予備も含めて戦闘用のスーツが多数あった。

 ただプラムは、この手のロボットアニメでいかにも女性操縦者が着ていそうな体のラインがわかり過ぎる戦闘用のスーツを嫌がっていた。

 俺も……その……色がほぼ原色で、デザインも古臭い戦闘用スーツが恥ずかしい。

 そこで、アトランティスベース(基地)の設備を用いて同じ性能で別デザインの戦闘用スーツに改良したというわけだ。


「これならいいかな?」


「いいですね。似合いますか? ダストン様」


「とても似合うよ」


 プラムは美人でスタイルがいいので、なんでも似合う。

 さすがにアニメでアンナ・東城が着ていた戦闘用スーツは嫌だったようだけど。

 アンダーウェアは特殊な素材でできており、水中でも宇宙空間でも長時間生存でき、その上に女性騎士のようなプロテクターと愛用の剣を腰に差している。

 頭部には兜のデザインに寄せたヘルメットを装着し、バイザーを下げると水中でも宇宙空間でも長時間呼吸ができるようになっていた。


「凛々しくて惚れ直したな」


「ダストン様も似合っていますよ」


 俺も、同じ特殊素材のアンダーウェアに、騎士の鎧に似たプロテクターと、やはり兜状のヘルメットを装着している。

 そして、二人の腕には白銀色のブレスレット(お揃い)が光っていた。

 普段は、このブレスレットの中にこれらの装備が仕舞われており、俺とプラムが念じると体に装着される。

 その仕組みは……何分アニメの設定なのでよくわからない。

 物質の移転なんて、現代の地球でも不可能だからだ。

 そのうち、シゲールとコヘイが解明してくれるだろう。


「本当に宇宙に出ても大丈夫なんですね。うわぁ、体が軽い」


「本当に重力が少ないんだな」


 俺とプラムはフル装備で基地の外に出て、戦闘用スーツの宇宙(月面上)での使い心地を試していた。


「おほぉ! 月は重力が少ないので体が軽いな」


「お父さん。だからこそ、月に常駐する人たちは重力ルームでのトレーニングが必要ですね」


 続けてシゲールとコヘイも、アトランティスベース(基地)に置いてある宇宙用のスーツを着て初めての月面を楽しんでいた。

 そして、どうにか宇宙用のスーツを魔法道具で再現できないか、親子で試行錯誤しているようだ。


「長期に宇宙及び月面で活動すると、筋力の低下があるだろうな。陛下、この月面基地には重力ルームが必要ですぜ」


「だろうね」


 新ラーベ王国の国威掲揚と、他国に舐められないため。

 さらに、シゲール以下の科学者、技術者、学者、職人たちの知識とスキルを上げるため、新ラーベ王国は今作った月面基地に人員を常駐させる予定であった。

 交代はさせるが、彼らには低重力下で筋量が落ちないよう、新設する重力ルームでのトレーニングを義務化する必要があるな。


「実際に搭乗して動かしてみるか」


「はい」


 俺とプラムは、呼び出した絶対無敵ロボ アポロンカイザーとセクシーレディーロボ ビューティフォーに乗って訓練を開始した。


「どうだ? プラム」


「大分慣れましたけど、定期的に訓練はして体が忘れないようにする必要がありますね」


「そうだな」


 アニメでも、大気圏、宇宙空間、月面でも戦闘もあったが、特殊ステージ扱いなので、岩城正平とアンナ・東城は苦戦していた記憶があった。

 訓練している絵がなかったので、ぶっつけ本番だったのであろう。

 こうして、事前に訓練できる俺とプラムは恵まれているのかも。


「一面岩しかない世界ですが、私たちの住む大地は青くて綺麗なのですね」


「本当に綺麗だ」


 月、宇宙から見た地球が青いというのは知っているし、映像や写真では見たことがあった。

 だが、こうして月面から普段俺たちが住んでいる惑星を実際にこの目で見ると、実に綺麗なのだ。

 しかも、新婚である奥さんと二人で見ていると、俺もリア充になったなと。


「プラムも綺麗だ」


「ダストン様」


 訓練目的ではあるが、久々に夫婦二人きりでいい時間を過ごせた。

 最近は、国王の仕事も含めて色々と大変だったからな。

 宇宙空間や低重力下での戦闘もこれで大丈夫そうだし、月での視察と訓練を終えた俺とプラムは、このあとそれぞれの機体で地上へと戻るのであった。

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