第七十八話 VSバルゼー将軍

『陛下! 先行する機械魔獣の集団を発見! これまでに見たことがない鳥の形をしています!』


「映像を転写できるか?」


『はい! どうぞ!』


「これは……シゲール、データ転送する。魔獣にこんな形状のものがいたかな? しかも飛んでるし」


『ああ、『プテラノドン』ですね。もう少し南方に住む魔獣ですよ』


「了解した。ミアは偵察を続行しつつ、メアの配置が終わるまで機械魔獣に攻撃を開始だ」


『了解!』




 新ラーベ王国南部の占拠を目指し、機械大人と機械魔獣で編成された軍団が押し寄せてくる。

 アトランティスベース(基地)より放たれている多数の無人偵察機と、この世界がある惑星軌道上を回っている偵察衛星から報告があったのは、およそ三十分ほど前であった。

 俺は急ぎ、レップウⅣの操縦者であるミアを偵察に出した。

 すると、プテラノドンによく似た『プテラノドン』……そのままである……という魔獣によく似た巨大な機械魔獣が九体。

 大地を疾走する猪型の機械魔獣を十三体。

 そして、機械大人を一体発見していた。


「ダストン様、機械大人が機械魔獣を従えて侵攻してきましたね」


「いよいよだな」


 アニメでも、最初の数話を除くと、機械大人は多くの機械魔獣を従えていた。

 まずは、機械魔獣の数を減らすことを岩城正平は実行していたわけだ。


『まずは一匹目!』


 あとでシミュレーションのデータ更新に使うため、無人偵察機で撮影しているレップウⅣの戦う様は、俺が持つ端末にも映っていた。

 まずはビーム機銃で、飛行中のプテラノドン二機を立て続けに落とす。

 コヘイが一生懸命プログラミングをしているシミュレーションで、特訓した成果が出ているようだ。


『次は、これです!』


 続けて、翼の下部に装着してある対空ミサイルを発射して、またも二機。

 さらに、対空ミサイルを連続して発射してさらに二機。

 合計六機のプテラノドンを一気に落としてから一回離脱したが、その先には猪型の機械魔獣が全速力で疾走していた。


『対地ミサイルいきます!』


 さらに、対地ミサイルで二機の猪型機械魔獣の破壊に成功した。

 あまりの被害に、一時彼らの動きは止まってしまったほどだ。

 そして別後方からビームが飛んできて、猪型機械機械魔獣を貫き、爆発させていく。

 実弾も飛んできて、さらに猪型機械魔獣は数を減らしてしまった。


『メア、ナイス!』


『陛下、組み立てたばかりのウィングキャリアーが間に合ってよかったです』


 メアの乗機はマウスⅢという戦車のためその速度は遅い。

 時速五百キロは出るが、機械魔獣相手だと即応性に劣る。

 そこで、マウスⅢを運搬する無人の大型輸送機『ウィングキャリアー』を、今回の戦いに投入したのだ。

 ウィングキャリアーは、マウスⅢか、輸送用のコンテナなどを目的地に運び、勝手にアトランティスベース(基地)へと戻っていく便利な無人機であった。

 これでマウスⅢを、主砲で機械魔獣を狙い撃ちできる場所へと先に運んだわけだ。


『撃てるだけ撃って、撤退!』


『こちらも撤退します』


 ミアとメアの活躍により、プテラノドン九機は三機に。

 猪型機械魔獣十三機は、四機にまで減った。

 もう戦果は十分なので、俺は二人を撤退させる。

 さすがにレップウⅣとマウスⅢでは、機体大人が前に出てきた時に対応できないからだ。


「ではいくぞ! プラム」


「はい! ダストン様」


 本命である機械大人の露払いをしていた機械魔獣は、その数を大分減らした。

 あとは、俺とプラムで殲滅すれば終わりだ。


「行くぞ! 尊き古代アトランティス文明の遺産よ! この星に仇なす悪を俺と倒すのだ! 召喚! 開門! 搭乗! いけ! 絶対無敵ロボ アポロンカイザー!」


「尊き古代アトランティス文明の遺産よ! この星に仇なす悪を俺と倒すのだ! 召喚! 開門! 搭乗! いけ! セクシーレディーロボ ビューティフォー!」


 俺とプラムの掛け声に反応し、新王都上空にあったアトランティスベース(基地)は一旦異次元へ消え、再び俺とプラムがいる新ラーベ王国とマケドニア王国の国境上空から出現。

 格納庫から絶対無敵ロボ アポロンカイザーとセクシーレディーロボ ビューティフォーが射出され、俺とプラムは操縦席から発射される誘導ビームにより搭乗に成功した。


「絶対無敵ロボ アポロンカイザー見参!」


「セクシーレディーロボ ビューティフォー見参!」


 アニメのように、俺とプラムはあえてそのスーパーロボットの名を口にする。

 それになんの意味があるのだと思われるかもしれないが、そうすることで性能を完全に引き出せるからだ。

 もはや、恥ずかしいとは思わないな。


「ダストン様、神話と同じようにできましたね」


「ああ」


 神話というか、アニメの搭乗シーンの再現だ。

 アニメのとおりにやれば一番効率よく登場して戦える以上、それを真似しない理由は存在しないわけだ。


「いくぞ!」


「はいっ!」


 まずは、残った機械魔獣たちに向けて走っていく。

 俺は無敵剣で、猪型機械魔獣を次々と斬り倒していった。

 相変わらず『剣技』などのスキルは出ないが、こうもレベルを上げ、プラムに剣を教わったのでそれなりに様になっていた。

 三体の猪型機械魔獣はすべて斬り裂かれ、その場で大爆発を起こす。


「喋らないか……」


 元は人間だったはずなので、以前戦った機械魔獣たちは喋った。

 今回はどうして喋らないのであろう?


「ダブルブーメラン!」


 などと考えている間に、プラムが投げたダブルブーメランが二体の鳥型機械魔獣を斬り裂き、地面に落下していった。


「パイオツミサイル! 発射!」


 そして、セクシーレディーロボ ビューティフォーの胸に収納されたおっぱいミサイルが、最後の一体を粉々に吹き飛ばした。

 アニメでも賛否両論あった武装だが、プラムの恥ずかしさを出さずに撃てるようになってよかった。

 セクシーレディーロボ ビューティフォーにとって、大型のパイオツミサイルは高火力の武装であったからだ。

 ちゃんと使うに越したことはないのだから。


「機体大人は?」


「よくも俺の部下たちを! 必ずやお前たちを破壊してやる!」 


 先行していた機械魔獣たちをすべて撃破すると、いよいよ本命が現れた。

 機械大人……。

 この世界だと元人間であるが、情けはかけられない。

 元に戻せない以上、可哀想だが完全に破壊するしかないのだ。


「部下たち? 軍人か?」


「そうだ! 俺は栄光あるマケドニア王国の軍人、バルゼー将軍だ! 俺は、たとえこんな姿になっても、新ラーベ王国の南方を占領する」


「迷惑だ」


 確かマケドニア王国は、我々が懸命に新ラーベ王国の安定に腐心していた時、ドサクサに紛れて南方を占領しようとした。

 だが、予想以上に守備体制に乱れがなく、結局攻め入らずに軍を引いたはず。

 このバルゼー将軍が指揮官だったのか。


「しかし、俺は諦めないぞ! 部下たちの無念を晴らすべく、必ずや新ラーベ王国の南部を占領するのだ!」


 それがしたくて、機械大人になってしまったのか。

 なんの意味もないどころか、かえって害悪ではないか。


「機械大人や機械魔獣になってまで軍功に拘るとは……愚かなり!」


 もし成功したところで、マケドニア王が機械大人を褒めたり褒美を出すわけがない。

 それでも他国に攻め入るとは……。

 軍人の業みたいなものなのであろうか?


『陛下、ちょっと人工衛星で探ってみたが、マケドニア王国の王都北にある軍基地が破壊されていますよ』


「そういうことか……」


 もはや機械大人化したバルゼー将軍には、破壊衝動しか残っていないようだ。

 こちらに攻め込むのも、軍人であった頃の本能から出たものに過ぎない。


「しかし、なぜ味方の基地を破壊したんだ?」


「決まっておる! 陛下に取り入り、我ら国を想う軍人たちを戦わずに退き、成果を挙げなかった無能だと言って処罰した腰巾着と、そいつらに媚びていた軍人の風上にも置けない連中を処分しただけだ」


 ……それで、国防に必要な基地を破壊し、腰巾着とやらはともかく、元は味方だった軍人たちを卸してしまう。

 こいつは、もう完全に心が壊れているようだ。


「人の住む場所には行かせない! 破壊させてもらう!」


「新ラーベ王国などという偽りの国家は完全に破壊してやる! そしてこれを陛下に献上すれば、俺の正しさを理解してくれるはずだ」


 マケドニア王も、機械大人が破壊と殺戮の限りを尽くした広大な荒れ地なんていらないだろう。

 変な奴に忠臣面され、王様ってのも大変なんだな。


「お前の言い分なんてこれ以上聞いても無駄だ。行くぞ!」


「返り討ちだ! 俺は『雷撃』の機械大人! 未知の力を得た俺は無敵だ!」


 この世界において、電気の知識を持つ者は少ない。

 雷はあるが、その原理をちゃんと解明した人はいなかった。

 電気も、魔力と魔石で動く魔法道具が主流なので、使い道がなければ研究されるわけがないのだから。

 魔法でも『雷撃』、『電撃』の類を使っている人を見たことがない。

 スキルでも出現しないか、奇跡的な確率でしか出ないのかも。

 バルゼー将軍は両腕の指先から十本の鞭が生えており、ここから電撃を流すのであろう。


「プラム、あの鞭に触れないように」


「わかりました……ダブルブーメラン!」


 俺は無敵剣を構え、プラムは後ろに下がってから、ダブルブーメランで半ば奇襲的に攻撃を開始した。


「ふんっ! 予想していたわ!」


 プラムのダブルブーメランは、バルゼー将軍の鞭によって叩き落されてしまったが、向こうもまったくの無傷というわけではない。

 何本かの鞭の先がダブルブーメランによって切り落とされてしまい、その隙を突いて、俺はバルゼー将軍に接近を試みた。


「甘いわ!」


 俺も無敵剣で何本かの鞭先を斬り落としたが、一本だけ脚に絡みついてしまった。

 強烈な電流が流され、俺は強烈な電撃に襲われてしまう。


「うわぁーーー!」


「はーーーはっはっ! 初めて味わう電撃はどうだ?」


 高笑いを続けるバルゼー将軍をよく見ると、斬り飛ばされた鞭の先が徐々に復活を始めていた。

 鞭には、自己再生機能があるようだ。


「もう死ぬか?」


「俺は、百歳を超えてから死ぬ予定だ!」


 これはアニメでの岩城正平のセリフだが、俺だって早死にするつもりはない。

 今も痺れ続けているが、さすがは絶対無敵ロボ アポロンカイザー。

 対電撃対策を施した操縦シートなどは完璧なので、感電死はまずあり得なかった。

 無敵剣を振るって脚に巻き付いた鞭を斬り落とすと、すぐに痺れなくなる。


「フィンガーミサイル!」


「効かぬわ!」


 俺が発射したフィンガーミサイルを、バルゼー将軍は鞭で振り払った。

 接触と同時にフィンガーミサイルは爆発し、それに巻き込まれた鞭が千切れるが、すぐに自己再生してしまう。

 鞭の自己再生力を利用した防御方法というわけだ。


「アームミサイル!」


「同じことよ!」


 続けて、大型のアームミサイルを放つ。

 だがこれも、複数の鞭による妨害で本体には命中しなかった。

 再生能力に優れた鞭を犠牲にして本体を守ってしまうので、なかなか本体にダメージを与えられないのだ。


「はっはっはっ! 俺に飛び道具は通用しない! かといって接近すれば鞭に絡め取られて雷撃を食らってしまう。俺を倒せる者など、この世界に一人もいないのだ!」


 自信満々にそう宣言するバルゼー将軍。

 だがその隙を狙って、プラムが俺から借りた為朝の弓を放った。


「これなら!」


「甘いわ! 小娘!」


 バルゼー将軍は、プラムの放った矢も鞭で弾き飛ばしてしまう。


「言ったであろう? 無駄だと」


「はなしてそうかな?」


「負け惜しみか?」


「いや、いくぞ!」


 確かに、半端な飛び道具は鞭で弾かれてしまうし、不用意な接近戦は雷撃を食らってしまうので危険だ。

 だが、バルゼー将軍は無敵というわけではない。

 今俺が、それを証明してみせよう。


「ダブルアームトルネード!」


 絶対無敵ロボ アポロンカイザーの両腕から繰り出される竜巻により、バルゼー将軍の鞭は千切り飛ばされていった。


「バカか! どうせ同じことよ! 俺の鞭は、永遠の再生力を誇るのだ!」


 金属製の機械大人の鞭が永遠の再生力……アニメではなかった設定だが、これもこの世界の影響なのであろうか?

 実際、いくら鞭を斬り飛ばしても再生してしまうのは確かだ。


「ならば! こうする! コールドフラッシュ!」


 マイナス一億度の冷気による攻撃で、バルゼー将軍の鞭はすべて凍り付いてしまった。


「どうだ?」


「なっ! これでは……」


 バルゼー将軍の鞭は、千切れてしまえばすぐに再生できる。

 だが、鞭が手にくっついたままで凍り付けば、再生もできない。

 凍り付いた鞭で電撃を流すのも不可能であり、完全に封じたに等しいわけだ。


「お前はもう終わりだ! いくぞ!」


 俺は、再び無敵剣を無限ランドセルから出し、バルゼー将軍に斬りかかった。


「なんの! まだだ! こうすればいい!」


 なんとバルゼー将軍は、凍り付いた両腕の鞭をぶつけ合わせ、粉々に砕いて叩き落してしまった。

 鞭がなくなった手首からは、再び恐ろしい勢いで鞭が再生される。


「はっはっはっ! 再び俺の電撃を食らうが……「コールドフラッシュ!」」


「なっ!」


 俺がその手を予想していなかったと思うか?

 ようは俺がバルゼー将軍に斬りつけるわずかな時間だけ、鞭が無効化できればいいのだ。

 再び両腕の先の鞭導師を叩きつけて砕こうとしたバルゼー将軍であったが、その前に無敵剣を用いて袈裟懸けに斬り捨てた。


「終わりだ」


「そっ! そんなバカなぁーーー!」


 斜めに斬り裂かれたバルゼー将軍の上半身が地面へと滑り落ち、その直後に大爆発を起こす。

 これで四体目の機械大人を倒したことになる。


「レベルが上がったが……確認はあとでいいか……」


「もう機械魔獣もいませんよね?」


「大丈夫なはずだ」


『偵察の結果、マケドニア王国からやってきた機械大人と機械魔獣は一体もいません』


 レップウⅣで空中から偵察をしていたミアから『敵ナシ』の通信が入り、これにて初めての全員による防衛作戦は無事成功したのであった。


『陛下! 王妃様! 俺たちは機械大人と機械魔獣の残骸と破片を回収するか』


「任せるよ」


 戦いが終わると、シゲールたちが倒された機械大人と機械魔獣の残骸を回収し始める。

 それを参考に、新しい魔法道具や素材の研究をするためなのと、他国に渡さないためでもあった。

 とはいえ、破片を完全に回収するのも難しいわけで。

 間違いなく、小さな破片くらいは回収されているはずだ。

 そう簡単に活用できるとは思わないけど。


「今回は上手くいったが、次はわからない。準備と警戒を怠らないようにしなければ」


「そうですね、ダストン様」


「とはいえ、今日は勝利したのだから、アトランティスベース(基地)でお祝いだな」


「はい」


 今日も無事に、機械大人と機械魔獣を倒すことに成功した。

 だがそれに油断することなく、明日からも努力していこうと思うが、今夜はミア、メア、シゲールたちと祝杯を挙げようと思う。

 そしていつか、女帝アルミナスを見つけて倒し、この世界に平和を取り戻さねば。

 それこそが、絶対無敵ロボ アポロンカイザーのスキルを持ち、それを操縦するこの俺の大切な使命なのだから。


 それが終わったら、アトランティスベース(基地)と絶対無敵ロボ アポロンカイザーで宇宙旅行とかもいいかも。

 なぜ急に宇宙にって?

 なんとなく楽しそうだからだよ。

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